第9話






■side:琵琶湖女子 三峰 灯里






 LEGENDという世界に憧れがあった。

 テレビで見る選手達は、皆が自信に満ち溢れキラキラと輝いていた。

 自分もあそこへ飛び込めば、彼女達のようになれるかもしれない。

 そう思ってみたものの、その一歩が踏み出せず

 何年もズルズルと引き延ばし続けた。


 別に友達が居ない訳でもないし、皆で出かけて買い物をしたり

 カラオケに行って騒いだりもしている。

 どこにでも居る平凡な女の子。

 それが私であり、夢は夢のままどこまでも私は平凡のままの人生を

 出来もしない『こうしておけばよかった』などという

 それなりの後悔と共に歩んでいくのだと思っていた。


 私立琵琶湖スポーツ女子学園のホームページを見るまでは。


 スポーツ関連に力を入れた新設校。

 しかもLEGENDにも相応に力を入れるみたいだというページを見て

 自分がそこで活躍する夢を見る。


 伝統ある名門だと部活は、縦社会だ。

 素人にレギュラーという名の椅子などなく

 ひたすら先輩にしごかれて才能のある人間だけが勝ち上がっていく場所。


 しかし新設校なら?

 皆、同じく平等なスタートラインだ。

 そりゃ何年もLEGENDをプレイしている人達とは差があるだろうが

 どこにでも初心者というものは存在する。

 そして名門校のように素人が隅っこに追いやられることなど無いだろう。

 ならば、これはチャンスなのではないだろうか?

 脳内では、素人である自分が練習の末にレギュラーを勝ち取り

 大きな大会で活躍している所まで妄想が進んでいた。


 そう、私はその程度の発想でこの学園を選び

 LEGENDの門を叩いたのだ。


 そしてその結果は、散々だった。

 周囲には、LEGEND経験者が多いだけでなく

 テレビで見たことがある有名人まで居たのだ。


 夢ではあれだけ自在に動かせた装備品も

 実際では、まったく動かせなかった。

 それだけではない。

 初心者向けと言われた練習メニューですら終わった時には

 大の字になった倒れ込んだぐらいだ。


 このままではダメだと思っていると早々に公式試合が組まれ

 いきなり強豪校との試合をするハメになったが

 ここでも非情な現実が牙を剥く。


 杉山 栄子さんという先輩に支援して貰いながらの戦闘だったが

 何度もやられて迷惑をかけ、そして何度も彼女に助けられ

 そのたびに『大丈夫よ』と言われた。


 自分よりも身体の線が細い彼女が、自分よりも軽快に動いて

 自分という素人を抱えたまま試合をしていられるのだから

 凄いと思うと同時に悔しさが込み上げてきた。


 そして同時に自分が如何に甘えた夢を見ていたのかを知る。

 銃弾飛び交う戦場ともいうべき世界では、テレビで見ていたような華やかさは無い。

 ただ必死に味方を信じて自分の仕事をこなすだけであり

 その役割がこなせずに迷惑をかけ続ける自分が情けなかった。

 結局、試合自体は圧勝だったものの

 それは味方が強かっただけの話であり、私自身は何もしていない。

 やったことは、単に足を引っ張っただけである。


 あまりの悔しさと情けなさ。

 そしてそれでも諦められない想いを

 青峰女子との試合後、杉山先輩にぶつけてみた。


 『私、もっと強くなりたいんです』


 すると先輩は


 『その気持ちがあれば必ず強くなれるわ』


 と笑顔で言ってくれた。

 だから私は、頑張ろうと思った。

 今はまだ人が居ないからレギュラーだが

 これから人が増えた時、レギュラーから外されるのは

 自分を含めて初心者3人が対象になるだろう。


 その時に、自分が外されないために。

 何より、夢を現実にするために。

 私は、両親に初めて必死に頭を下げた。

 まずは専用の装備を購入するために。






■side:琵琶湖女子 宮本 恵理






 理想と現実は、違う。

 そんなことは言われなくても解っている。

 そのつもりだった。


「うっわ~、こりゃキツイわ~!」


「な、何でそんなに愉しそうなんですかー!」


 私は思わず、目の前で愉しそうに撃ち合いをしている先輩に抗議した。

 まるで雪が降ってきたと喜ぶ子供のような姿で愉しそうだが

 現実は、そんなに可愛らしいものじゃない。


 飛んでくるのは、ガトリングの弾。

 しかもその量が尋常ではなく、音も凄まじい。


「凄いでしょ、このガトリングの雨!

 いや、ホント何よこれ!」


 新城先輩は、それはもう愉しそうに撃ち合いをしているが

 これほどの撃ち合いは、テレビでもなかなか見かけない。

 それは、これほどの撃ち合いになれば、普通ならもう既に

 1人ぐらい撃破判定を受けてしまうため、決着が付くからだ。


 だが、どちらも上手くダメージコントロールをしており

 どちらも撃破とは、ほど遠い状態である。

 なのでこれだけ延々と続く撃ち合いには発展しにくい。


 それにガトリング同士の撃ち合いは、互いの譲れないプライドか

 暗黙の了解というべきか、決着が付くまで互いに引くことは滅多にない。

 そのため序盤からこのように中央での撃ち合いが発生しやすく

 序盤から盛り上がる要素の1つになっている。


 今までは、プロの試合で決着を付けずに引いたSTに対して

 会場と一緒にテレビの前でブーイングをしていたが、自分がこれを経験した今では

 全力でブーイングをしていたことを謝罪したい。


 本来、盾持ちSTである自分が最前線に立たねばならないというのに

 壁から出ていく勇気が持てず、盾持ちが後方という謎な状態になっている。


 叩きつけられるように飛んでくる無数の弾。

 壁越しでも感じられる相手の視線。

 飛び交う味方同士の会話も、ほとんど頭に入ってこない。


 スグに隠れて出て来なくなった幼馴染の千佳ちゃんのことも気にかかるが

 もはや他人のことを気にしている余裕すらなく

 今、試合がどうなってるのか状況把握もまったく出来ていない。


 ビー! ビー!


「あ・・・あれ?

 何でっ!? どうしてっ!?」


 必死に撃ち合いに参加していると

 警告音と共に急に停止する肩部ガトリング。


「宮本ちゃん、落ち着いてっ!

 ガトリングは、オバヒしただけだからっ!


 とりあえずオバヒ解除されるまで

 盾内蔵の奴を撃っておいてっ!」


「ひゃ、ひゃぃ!」


 新城先輩から指摘されて初めて盾内蔵のマシンガンを

 撃っていなかったことに気づく。


 事前の練習では、もっと動けていたはずなのに

 いざ試合となると、もう訳が解らない。


 余裕が無く焦っている私に、先輩は自分の失敗談を

 面白可笑しく語ってくれる。 


 ・・・ずっと最前線で撃ち合いながらだ。

 先輩は、最初からずっと1人で相手の攻撃に晒されている。

 にも関わらず、余裕を持って撃ち合いに挑んでいるし

 たいしてダメージも受けていない。

 自分との差を嫌でも認識してしまう。


「とりあえず、中央は

 よほど隙を見せない限り、無理に攻めてこないから

 落ち着いて練習通りのことが出来るようにしよう。

 まずは、そこからね」


 迷惑をかけているだけの私に優しく接してくれる先輩。


 ―――私は、こんなプレイヤーになりたい。


「はい! ありがとうございます!」


 すっかり落ち着いた私は、自身に気合を入れるため

 周囲の爆音に負けないぐらいに、大きな声で直接返事をした。


 すると少し驚いた顔をした先輩だったが

 スグに笑いながら返事をしてくれた。


「そうそう、その調子!」





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