第138話 お家に帰りましょー!

「それじゃあね」

「はい。カトレアさん、色々とありがとうございました」

「大層お強い親がいるからって、無茶はするんじゃないよ」

「善処します……」

「それは、言う事を聞く気がないヤツがする返事じゃないかい?」


 カトレアさん……さすがにそれは偏見だと思います。


 カトレアさんが途中でぶっ倒れはしたけれど、少しは話せたので、そろそろお家に帰ることになった。

 父さんと母さんも街中では退屈だろうしね。


「カトレア。シーちゃんの事、本当に助かったわ。ありがとう」

「何かあれば我が力を貸す。遠慮なく頼るがいい」

「竜に頼らなければいけない事態に陥りたくはないけど、そんな時は頼らせてもらうよ」


 と、母さん達とカトレアさんは、意外にも普通に話をしている。


 他の人達と話す時に比べると、態度が柔らかい気がするんだよね。





 そして、ちゃんと領主様にも挨拶をしますとも。


「領主様、何日も滞在させて頂いて、ありがとうございました」

「シラハには依頼で助けられているのだから、その程度の事は気にしないでくれ」


 その程度と言われても、領主様の屋敷に家族でご厄介になっているなんて、とっても申し訳ないです……


「シラハちゃん、今回はあまり一緒には居られなかったし、また遊びに来てちょうだいね」

「はい。またお茶会に誘ってください」

 

 もうファーリア様と、お茶を飲むのなら馴れっこなので社交辞令も含めて、そう伝えておく。


「ええ、わかったわ! 美味しい紅茶を用意しておくわ」


 嬉しそうなファーリア様。…………社交辞令って、わかっているよね?

 まぁ、今回は事後処理でバタバタしていて一緒にいる時間を作れなかったみたいだし、そういうのに飢えているのかもしれない。

 私のせいではないと思う。たぶん……

 






 そして今や立派なお尋ね者である私は、人目を忍んで夜中に領主様の屋敷を後にする。


 あ、ちゃんと夜にこっそりと帰りますって伝えておいたから、姿が見えない! なんて騒がれたりはしませんよ?


「夜遅くに帰る事になってゴメンね」

「そんな事は気にしなくて平気よ」


 と、母さんは言ってくれるけど、やっぱり気になっちゃうんだよね……


「シラハ、眠ければ寝てしまって構わないぞ」

「それだと父さんが退屈でしょ?」

「シラハを背に乗せて飛んでいるだけで楽しいぞ」


 そういうものなんだ……

 とはいえ、私だけ寝ちゃうのは申し訳ないというか悪い気がするなぁ。

 でも眠いのは事実で、景色が変わり映えしないとだんだん眠く……ぐぅ。








 そして目が覚めた時には、お家に到着していてベッドで爆睡してました。

 しかも丸一日くらいは経過しているっぽい。

 申し訳ない、とか思ってたのに私ってば……猛省。


「父さん、母さん、おはよう……」

「ああ、おはよう」

「おはよう、シーちゃん。よく寝てたわね」


 寝ぼけ眼をクシクシとこすりながら、おはようの挨拶をする。


 こんなに寝てしまうとは、まだ疲れが残ってるのかなぁ……


「おお、シーちゃんやおはよう!」

「あ、お爺ちゃん、おはよう。あと、ただいま」


 ポヤァっとしてたら、お爺ちゃんが元気よく家に入って来た。


 眠気がまだ残っていたけど、お爺ちゃんのおかげで目が覚めたよ。


「お爺ちゃんにも心配かけちゃってゴメンね」

「シーちゃんが倒れたと聞いた時は、本当に竜核が砕けるかと思ったが、元気になって良かった!」

「そのまま砕ければ良かったのにな……」

「こんの糞息子め……!」


 父さんとお爺ちゃんのいつものやり取りを見て、帰って来た気がした。

 今回、私は大した働きをしていないので、協力を頼んだ手前なんだか申し訳なく感じる。


 本当なら、颯爽と現れてササッと解決して去って行く……というのがベストだったんだけど、そう上手くはいかなかった。


 私ってダメダメじゃん……と、ちょっと凹んでいたりする。


 むーん……やっぱり魔物退治とかをして、私自身の力や魔力の底上げを目指した方が、もしもの時に困らなくなるかな。


 日課として食糧調達的な感じで魔物を狩る事はしていたけど、本腰入れて経験値稼ぎみたいな事をした方がいいのかも。


 母さん達に相談してみようかな?



「修行? シーちゃんが?」

「うん。魔物を倒せば私でも、もう少し強くなれるみたいだから……」


 そこは神様情報だから間違いはないはずだけどね。


「うーむ。シーちゃんに修行なんぞ必要ないと思うが……」

「だが、シラハがそれを欲しているのなら、応えてやるのが親の務めだろう」

「一丁前に親を語るな」

「シラハの父親だからな」


 相も変わらず父さんとお爺ちゃんが言い合っている。

 これは仲が良いと言っていいのかもしれぬ。


「ガイアス達は放っておいて……。たしかにシーちゃんは自衛する為の力が足りないわね」

「うん」


 母さんがズバっと言ってくれた。

 私は現在お尋ね者だし、基本としてはソロで動くことの方が多い。

 ヨークやシリューはいるけどね。


 人間単体で考えれば弱くはないのだけれど、強い人が組んで襲ってくれば割と簡単に倒されそうな気がするんだよね。

 例えばパーティーを組んだ冒険者とか。


「必要であれば我等が常にシラハの守りを固めておく事は可能だが、それはシラハの望む事ではないのだろう?」

「そうだね。父さん達と一緒に出掛ける…ならともかく、私のせいで父さん達の行動が制限され続けるのはイヤかな」


 これは私の我儘でしかないんだけどね。


「となると、やっぱりシーちゃん自身にもう少し力を付けて貰うしかないわね」

「うむ……仕方ないな」


 父さん達がなにやらウンウンと頷いている。

 もう少し反対されるかと思ってたけど、意外とすんなり納得してくれて良かった。


「我が子には旅をさせよ、とは言うが……」

「まずは、いつも通りに食糧調達と並行して魔物を狩る量を増やすつもりだから、旅に出るって程の事はまだしないつもりだよ?」

「そうか。なら、まだ一緒に居られるのだな」

「私達も、いつか子離れしないといけないのね……」

「シーちゃんが居なければ、里を抜ける理由が無くなってしまうな……」


 父さん達がしんみりとしちゃってるけど、なんか悪い事しちゃったかな……

 とはいえ自分の事は、自分で守れるようにならないとね。






 あとは経験値稼ぎの前に、ヨークとシリューを無事に呼び出せる事を確認した。

 やっぱり二人とも私の中で溜めていた魔力が無くなったから、身体を維持できなくなって消えてしまったらしい。


 消えたと聞いた時は焦ったけど、無事で本当に良かった。





 残るはスキルの確認だ。


 いくつかのスキルが消えたけれど、変化のあった【竜鱗(剣・氷)】というスキル名からして竜鱗に新たな力が加わったであろう事はわかる。


 なので早速スキル発動。


 にょきりと竜鱗を生やしてみると、薄っすらと霜が付いていた。

 スキル名に氷とついていたから、氷でできた竜鱗になったりするのかと思ったけど、そこまでではないっぽいね。


 …………コレ、魔物に刺さったら、どうなるんだろう。


 というわけで、近くを徘徊していたスノーウルフに竜鱗を放つ。


「ていっ」


 竜鱗がスノーウルフの体に突き刺さる。


「ギャウンッ!?」


 気付いていなかったっぽいスノーウルフが驚いた声を上げると、こちらを睨みつけてきた。


 ふむ。

 別段、攻撃力が上がったとか、そんな感じの事はないみたいだね。

 変わった事といえば、刺さったのに出血が少ない事かな?


 血が凍ってる?

 出血させられないなら、以前の方が良かったのかな……いや、でも冷たいなら動き難くはなるかも?


 うーん……その辺はどう判断したものか。


「ガウッ!」


 おおっと……考え事してたらスノーウルフが飛びかかってきたので慌てて回避。

 危ない危ない、考察は後にして今は目の前の敵に集中しないとねー。


「【爪撃】!」


 ザクッと爪で仕留めて終了。


 さてさて【竜鱗(剣・氷)】については、使いながら検証と習熟すれば良いとして、ここからは…………レベリングだー!



 レベリングとなれば効率を重視しなきゃならないし、ここは【誘体】を使う。

 使える物は何だって使うし、好き嫌いしてられないからね。


 あとヨークとシリューも呼び出しておく。


「ヨークは私の死角のカバーをお願い。シリューは私がピンチになったら助けてね」


「わふん!」

「クルルゥ」


 ザワザワと周囲から魔物が近付いてくる音が聞こえてくる。

 どの程度が釣られてきたかは分からないけど、それなりに匂いも多いので数体という事もないと思う。





「さーて、経験値稼ぎの始まりだー!」




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