第39話 オークなんて滅べばいいんです
「周囲に人影なし。……さて、やりますか!」
私は辺りを見回して誰もいない事を確認する。まぁ、そんな事しなくても匂いで分かるんだけど、隠れて何かをする時って、ついキョロキョロしちゃうんだよね。挙動不審だね。
というわけで私は今、クエンサの街の外に来ております。
何をするかと言えば当然、スキルの検証に決まってるよね。
スキルを確認して、っと。
名前:シラハ
領域:〈ソードドラゴン+パラライズサーペント〉
〈フォレストドッグ+フォレストホーク〉
サハギン フォレストマンティス
レッドプラント ハイオーク
エアーハント(1)
スキル:【体力自動回復(中)】【牙撃】【爪撃】
【竜気】【竜鱗(剣)】【竜咆哮】
【麻痺付与】【毒食】【解毒液】
【熱源感知】【獣の嗅覚】【跳躍】
【夜目】【有翼(鳥)】【潜水】【側線】
【鎌切】【擬態】【吸血】【誘引】
【剛体】【誘体】【風壁】
【跳躍】飛び跳ねる。
まずは【跳躍】を使ってみようかな。
「えっと【跳躍】!…………あれ?」
おかしいな、スキル使ったのに発動しない。
あ、待てよ? もしかして……。
私は、その場で足に力を込めてジャンプしてみる。
「うひゃぁ!」
今の私は【竜気】を使っていない。
その私が飛び跳ねただけで、近くにあった木と同じ高さまで跳躍できたのだ。
思わぬ結果に、ちびるかと思ったよ……。
そして【跳躍】は、使えば跳べる訳ではなくて、あくまでも跳ぶ、という行為の補助をする感じっぽいね。
補助のレベル超えてるけどね!
【有翼(鳥)】背に鳥類の証を得る。
次は【有翼(鳥)】だね。
これは、ちょっと楽しみなんだ。
さっそく【有翼(鳥)】を使ってみる。すると背中がムズムズしてきて、服の背の部分が盛り上がってきた。
あ、これダメなヤツだ……。
私が遠い目になるのと、服が破けるのは同時だった。
そして服を破って真っ白な翼が背中に広がる。
「綺麗……」
私は服が破けたのも忘れて、純白の翼に魅入る。
【有翼(鳥)】はフォレストホークとエアーハントから手に入れたスキルだけど、翼は白くなかった。
考えられるとしたら私の毛色に染まった、くらいだけど何とも不思議だ。綺麗だから全然オッケーだけどね。
背中に生えた翼は私が思うように動いてくれた。翼を動かすというのは奇妙な感覚だけど、これは慣れるしかないかな。
私が翼を広げて自分を包み込むように前へと持ってくると、その己の一部となった羽を撫でてみる。
「うわぁ……柔らかい、気持ちいい! あ、でもくすぐったいかも」
触ってみるとフワフワで撫でていて気持ちいいんだけど、翼の方はこそばゆいと感じる。
どうやらセルフで、もふもふはできないらしい。むぅ。
さて気を取り直して、この翼で大空を羽ばたくですよ!
私が羽ばたくように思考すると、バッサバッサと翼が動き出す。すると体がふわりと浮いたのがわかる。
「おおっ、成功だ!」
しかし私が喜ぶのも一瞬だった。
なぜなら、それ以上羽ばたいても高度が上がらないのだ。
なんか翼に掛かる重みというか、負担が大きい気がする。
これじゃホバーだよ。私が想像してたのと違う……。
もう少し飛行する、と呼べるような事をしたいと私は考える。そして一つの結論に辿り着いた。
「私の翼に力が足りないなら補えばいいんだよ!」
私はさっそく【竜気】を使って、もう一度翼を動かしてみる。
さっきは足が地面から少し離れる程度だったけど、今度は軽々と木々を飛び越える事ができた。
「凄い、飛んでる!」
今の私は、きっと年相応なはしゃぎっぷりだと思う。それくらいに私は興奮している。
ヤバイ、楽しい!
私は、さっきまで居た場所を見失わない程度に辺りを飛ぶと、少しして戻ってきた。
「あ、これ結構疲れるかも……」
地上に戻って翼を消すと背中に痛みがはしる。
普段使っていない筋肉を、いきなり酷使した後のような筋肉痛みたいな感じがする。
私は背中部分が破けた服を脱いで、替えの服に着替える。
周りに人はいないので気にせず外でも着替えちゃう。痴女じゃないよ。止む無くだよ。
服を着た後は、服の上に翼を出せるかの確認も忘れない。
うん。問題なさそうだね。
最初に気付ければ良いんだけど、どんな物か一回使ってみないと分からないから、毎回服が破けるのは困るよね。
替えがなかったら私、完全に変態さんだよ。
さて私の推しのスキルも確認したし、サクサクいこうか。
【側線】周囲の音や振動に反応する。
【側線】を手に入れてから妙に音や声が耳に入るようになった気がする。
にも拘らず【側線】を使ったら、どこにいるかも分からない魔物の息遣いや動いた時の僅かな音を聞き取れた。
様々な音を耳ではなく全身で感じ取っている、という慣れない感覚に目眩を覚えた私はすぐにスキルを解除した。
「なに今の……気持ち悪……」
周囲の音全てを無理矢理に知覚させられるのは、かなり堪えるね……。
あれ? もしかして他のスキルも私の体に影響を及ぼしている以外にも、効果を上乗せできるのかな?
はい。というわけで試してみたけど効果があったのは【獣の嗅覚】だけだったよ。
というか、【獣の嗅覚】は今までもお世話になってたのに更に役に立つかもね。
【擬態】周囲の環境に紛れる。
【擬態】は使ってみたけど、私には変化が分からなかった。これは欺く対象がいないと検証できないかも。
【剛体】肉体を強化する。
この【剛体】は、純粋に筋力を強化できるみたい。
全身筋肉モリモリにならなくて良かったよ。乙女として終わってしまう。
【竜気】とも併用ができるので、力不足で困る事はなくなるね。むしろ両方使った場合は相手を心配した方が良いかもしれない。
【風壁】自身が受けている風を壁とする。
そして【風壁】を使ってみるけど何も起こらないので、走りながらスキルを使ってみると私に当たる風が無くなった。
「なるほど、私にぶつかるはずの風がそのまま壁になるんだね。という事はスピードが出ている方が壁の強度も上がるって事なのかな?」
しかも正面に限定した壁だから使いどころが難しいかもしれない。
となると、やはり遠距離の攻撃を凌ぐのに使うのが正解なんだろうね。
「はぁ……。これは試したくないなぁ」
私はウィンドウ画面に表示された二つのスキルを眺めながら呟く。
【誘引】周囲の者を惹きつける。
【誘体】異性を欲情させ強く惹きつける。
「でも、何かに使えるかもしれないし……。検証だけでもしなきゃ、だよね」
自分に言い聞かせるように私は独り言を言う。寂しい人みたいだよね。
「はぁ……。 【誘引】」
溜息を一つ吐いてから私はスキルを使用する。
すると途端に周囲が騒ついた気がした。
「なんか不味いかも。【獣の嗅覚】」
私はすぐに匂いで周囲の状況を探ってみると、かなりの魔物が私がいる場所へと近付いているのが分かった。
「どうする? 飛べばすぐに逃げられるから、ここは…… 【誘引】解除、そして【擬態】」
近くの木に寄り添って【擬態】を使ってみる。
これで隠れられてなかったらアホな子だよ私。
やって来たのはフォレストゴブリンとオークだった。
【誘引】を解除した事で、ここに来るまでに魔物の数も減ったみたいだね、良かった良かった。
フォレストゴブリンは私に見向きもしなかったけど、オークが鼻をフゴフゴさせながら私に近付いてきた。
そうだよ、ハイオークは【獣の嗅覚】を持っていたんだからオークだって私の匂いを嗅ぎ取れるんじゃない?
近くに生き物がいる事は把握されてるかもしれない。
(それなら気乗りはしないけど、最後のスキル検証…… 【誘体】)
「ブモ?!」
「うわ?!」
私がスキルを使うとオークの反応は顕著だった。
オークの下半身に申し訳程度に巻き付けられている腰蓑こしみのの一部が急激に盛り上がったのだ。
「ギギィ!」
なんかフォレストゴブリンも騒ぎ出したけど、それどころではない。
すでに私には戦意がカケラ程もないからだ。
「ムリムリムリ! 生理的にムリってやつです! 退却!」
私は【竜気】【剛体】を使って瞬時に距離を取ると【有翼(鳥)】で空へと羽ばたいていく。
なんて悍ましい魔物なんだ、根絶やしにしてやりたい。
でも、戦いたくもないなぁ。
私はオークが見えなくなると地上へと降りて街に戻る事にした。
街に戻ってきた私は、まだクエンサの冒険者ギルドに行っていない事を思い出して、折角なので向かってみることにした。
建物の造りはアルクーレと大差ないようで冒険者ギルドは、どこでもこんな感じなんだな、と考えながら入っていく。
冒険者ギルドに入ってすぐに見知った声が聞こえてきた。
「おっ、シラハじゃん。会えて良かったー」
「デュークさん。どうかしたんですか?」
デュークさんが片手を上げながら私に近付いてくる。私を探してたのかな。
「昨日、街に着く前に盗賊に追われただろ? あれの報告をしてたんだけどさ、夜中に馬車を走らせたってところがイマイチ信じられないみたいで困ってるんだよ」
「あっ」
そうか、私は皆と別れた方がいいと思って、街に入ってすぐに馬車を降りた。
でも盗賊が出たのなら報告が必要になるのは当然だ。私は自分の事ばかりで、そんな当たり前のことを見落としていたんだ。
「ご、ごめんなさい。報告もしないで離れてしまって……」
「いや、普通は一人で良いんだけどさ。今回は話盛ってるんじゃね? って言われちまってさ、リィナが怒ってるんだよ」
「当たり前でしょ! なにが「そんな事出来るわけないだろ、嘘をつくならもう少しまともな嘘をつけ」よ、馬鹿にして!」
「ほら注目集めちゃってるから、そこまで」
デュークさんと話をしていると、怒ったリィナさんとそれを宥めるフィッツさんがやってくる。
フィッツさん大変そうですね。
私達が隅に寄ると一人の男がやってくる。服装からするとギルド職員かな?
「ギルド内で騒ぐような冒険者の発言なんて信じられるわけないだろ? 他の冒険者の迷惑だから出て行ったらどうだ」
「この……!」
リィナさんが職員に詰め寄ろうとするけど、咄嗟に腕を掴んで止める。
ここで手を出せばリィナさんが悪くなる。
「シラハ……」
リィナさんが私の名前を口にすると職員が口の端をあげた。
「その子がシラハか。こんな子供が馬車を夜道の中走らせるなんて無茶ができるわけないじゃないか。やはりお前達パーティーの評価を下げるとしようか」
「それっておかしくないですか?」
「なに?」
職員が私の言葉に不快そうな顔をする。
「貴方は何をもって皆さんの言葉を虚言だと言うのですか? まずは調べるのが先なのでは?」
「そんなの調べるまでもないだろ」
「でも、もし本当だったら?」
「話にならん」
「では、街の近くで盗賊の被害が出たら貴方の責任ですね」
「は? なんでそうなる」
「事実確認をしない、と判断するのなら、その責任を負うのは当然だと思いますが?」
私と職員の言い合いは他の冒険者の視線を集める。
なら証人になってもらおうかな。
「ここにいる方達も聞きましたよね? 冒険者ギルドは盗賊が現れた、という報告を受けたがそれを調べない、と言った事を」
周囲の冒険者達が頷いてくれる。ありがたやー
「その上で事実確認をせずに、私達の評価を下げるという暴挙に出るのは、今後盗賊の報告が来ないようにする為ですか?」
「なにを言ってる……」
職員が顔を真っ赤にして拳を握っている。
「ああ……、なるほど。貴方は盗賊の一味だったりするんじゃないんですか?」
「このガキが!」
職員は怒鳴りながら拳を振り上げた。
どうしてくれようか、と思っていたけど手を出す必要はなかった。
赤髪の女性が職員の腕を素早く捻り上げたからだ。
凄い。どっから出てきたの、この人。
「が?!」
「騒がしいと思ったら何をやってるんだ、このボンクラが」
女性は職員の腕を捻りながら、私に視線を向ける。
「で、どっちが騒動の原因だ?」
「こ、この冒険者達が虚偽の報告をしてきたので注意をしただけです!」
「虚偽の報告だぁ? お前ら本当か?」
女性が私達を睨む。怖いからやめてよ。あと捻ってる腕から変な音してるけど大丈夫なの? 折れても構わないけど。
「私達はあった事を報告しただけですよ。それにしても、その人は聞いただけで嘘とか分かるんですか? 凄いですね」
私が答えると、女性が眉を顰める。
「んな事できるわけないだろ」
「でも、その人は私達の話を聞いただけで嘘、と判断したみたいですけど?」
「おい」
「は、はい…っ?! ぎゃあぁぁー!」
女性が声をかけると捻られていた職員の腕から嫌な音が聞こえた。うわっ、本当に折ったよ、この人。
女性は腕を折った職員を蹴り飛ばすと、私達に近づいてくる。
「お前達の話は、アタシが聞く。付いてきな」
私達は女性の後ろに付いて行くと、二階の一番奥の部屋までやって来た。
あれ、ここって……。
「アタシはクエンサの冒険者ギルドマスターのロエンナだ」
どうやら、ここのギルマスさんは怖い人みたいです。
私はなるべく早く、この街を出ようと考えてみちゃったりした。
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