家出少女を拾ったのでVTuberやらせてみた

二兎凛

第1話 そんな目で見つめないでくれ

「ふぁー⋯⋯疲れた⋯⋯そろそろ昼飯でも食べるかぁ⋯⋯」


 ゲーミングチェアに腰掛け、グッと背中を伸ばしながら俺は一人呟いた。


 朝から何も食べずにゲームをやり続けていたのもあり、流石にお腹が空いた俺は冷蔵庫の中を見に行くと、そこには何も無かった。


「やっべ、買い物行ってないの忘れてた⋯⋯」


 冷蔵庫の中身が無いからと言って、何も食べないと言う選択肢は流石に取れない。


 プロゲーマーは身体が資本なのだ。


「しゃーない、買い物ついでに何か食って帰るか⋯⋯」


 普段から外食をする時はデメェ館を使う事が多い俺だったが、今日は出来立てのハンバーガーが食べたいと思い立ち、買い物前にささっと食べてしまう事にした。


「それにしてもモックスバーガーに来るの自体久々だな⋯⋯今日は何を食べようか⋯⋯」


 メニューを見ながら店員さんに注文をし、外側の空いている席で待機していると、注文した商品を店員さんが持ってきてくれた。


「お待たせしました、ご注文のモックスバーガー、フィッシュバーガー、モックスチキン単品とオニポテセット、そしてセットのペップシコーラになります」


 店員さんが注文が間違っていないか口頭で商品を読み上げて、間違い無い事を確認。


「どうも」


 俺はお礼を言いながら商品を受け取ると、店員さんは戻って行った。


「よし、それじゃいただきます⋯⋯ん?」


 食べようと思った瞬間、強い視線を感じた。


 何だこの視線は? と思い外を見てみると、そこにはボロボロの服を着ながら、裸足でこちらを見つめる背の小さめな女の子の姿があった。


「⋯⋯む、無視だ、無視」


 そして俺が食べようとすると、女の子は涙目になりながらハンバーガーを見つめてくる。


「(く、食い辛えええええええ!!)」


 思い切ってハンバーガーに齧り付くと、やはりモックスバーガーは美味しかった。


「あー、高いけどやっぱモックスバーガーが一番だな⋯⋯」


 なんて思わず独り言が出てしまうくらいには美味しいハンバーガーをペロリと食べ終えると、ガラスの向こう側にいた少女は——


「⋯⋯(ぶわっ)」


 ガチ泣きしていた。


「そ、そんなに腹減ってたのか⋯⋯?」


 見た感じまともにご飯を食べている様子も無い。 かと言って俺が安易に手を出すのも憚られる。


「だけどこう言う目で見られると、嫌って言えないんだよな、俺⋯⋯」


 俺はやっぱり人に甘いなと思いつつも、少女のためにもう一個モックスバーガーのセットを注文しに行った。


 そして店員さんに持ち帰り用に包んでもらうように頼むと、俺は待っている間に女の子にそこで待ってろとジェスチャーをして、フィッシュバーガー達を食べ始めた。


 女の子からの視線は気になるがもう少しの辛抱だ、我慢してくれ。


 そしてすぐに店員さんからモックスバーガーのテイクアウトを受け取ると、俺は店の外に出た。



「ほれ、これが食べたかったんだろ?

 あげるから、ゆっくり食べな」


 俺は少女にそう声をかけた。


「い、いいの⋯⋯?」


 少し不安そうな顔をして俺を見つめる少女は、どこか可哀想に見える。


「買っちまったからな」

「あ、ありがとう⋯⋯」


 そしてハンバーガーの袋に手を入れると女の子は困惑し始めた。


「⋯⋯これどうやって食べる、の?」

「えっ? ハンバーガー食べたこと無いのか?」


 女の子はこくり、と首を縦に振る。


「えーとこの紙をこうやって剥いてだな⋯⋯それで中身が飛び出さないように気を付けながらかぶりつくんだ」

「やってみる⋯⋯はむっ」


 ハンバーガーを一口食べた女の子は目をキラキラと輝かせながら、美味しそうに食べ始めた。


「すごく、おいしい!」

「そうか、それは良かった」


 この子の本当に美味しそうに食べる顔を見ていると、こちらまでほっこりとさせられる。


 それにしても、裸足で何でこんな所にいたんだろうか。


 踏み込むべきか、踏み込まないべきか。


 一瞬迷ったが、やはり聞かずにはいられなかった。


「それにしても靴も履かずにどうしてこんな所にいたんだ?」

「家にいたら、良く無いことが起きそうだったから⋯⋯」

「そうか、行く宛はあるのか?」

「⋯⋯ない」


 面倒事なんだろうなと思いつつも、ここまで聞いたなら俺は言うしかない。


「なら、俺の家に来るか?」


 妹よりも下に見える年齢の女の子を放置するなんて、俺には出来ない。


「い、良いの?」

「ま、無駄に広い家だしな⋯⋯」

「でもまずは⋯⋯服と靴買わないとだな」

「服と靴⋯⋯?」

「買いに行った事とか無いのか?」

「わからない⋯⋯わたし、お母さんが用意した物しか着たこと、ない」

「⋯⋯そうか。 じゃあ、気に入った服があったら買ってやるよ」

「わたし、何も無い⋯⋯よ?」

「今まで辛い事あったんだろ? 大人に甘えて良いんだよ」

「わたし、一応18歳⋯⋯」

「嘘、だろ?」


 一体どんな生活をこの子は送って来たって言うんだ?


「とりあえず、アイツに連絡するか⋯⋯」


 俺はそう呟くと妹に連絡を取った。

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