「うがううううううううう!!!!!!」


 健吾はハサミを放り出し、右手で口を覆った。だが、どんなに押さえても、口からは河川が氾濫したかのように、とめどなく血が溢れ出して来ていた。そして、いま口の中に現実のものとして存在する、途方もない「痛み」は。かろうじて残っていた健吾の正気を失わせるのに、十分だった。



「あううう、あううううう!!!!」


 健吾は右手で口を押えたまま、狂ったように、自分の額をテーブルに打ち付け始めた。がつん、がつん、がつん!! 左手を固定され、背中からロープで体を押さえつけられた状態では、そうでもしなければ、とてもこの「痛み」に耐えられなかったのだ。



「おい、やめなさい! 痛いのはわかるが、治療するのに、その手を離すんだ。頭をぶつけるのをやめなさい!!」


 三ツ谷が右手にガーゼを持ちながら、必死に叫んでいる。その声を聞く余裕は、すでに健吾にはなくなっていた。そこで、三ツ谷は運転手に合図を送り、運転手は健吾がテーブルにぶつけた頭を持ち上げたところで、「がしっ」と背後から捕まえた。更に、口を覆っていた健吾の右手を、力づくでギリギリと顔から離し始めた。


「よし、そうだ。よし!」


 三ツ谷はその機を逃さず、ガーゼを健吾の口の中に押し込んだ。「そうだ、そのまま押さえといてくれ……!」右手と頭を、運転手にガッチリと押さえ込まれ。それでも懸命にあがこうとする健吾に、三ツ谷は「処置」を始めた。



 目の前で、健吾の治療が始まったのを見届けて。真一は、自分が握っているペンチの、その先を見た。そこには、切り取られた健吾の舌先が、しっかりと挟まれていた。


「……これは、滅多にない『記念品』になるね。大事に保管しよう」


 興奮冷めやらぬように、赤みを帯びた表情でそう言った、真一の腕に。信子は両手でしがみつき、ウットリとした視線で、ペンチに挟まれた舌先を見つめていた。



 真一はまず地下室へ行き、壁際に並んだ檻の奥にある、分厚い扉を「がちゃり」と開けた。そこは、これまでの「成果」を保存する冷凍庫になっており、切り取られた耳や抉り出された目玉、取り出された内臓などが、大小さまざまな大きさの透明な瓶の中に、収められていた。真一は棚から新しい瓶を取り出し、ホルマリン液で満たすと。その中に健吾の舌先を、「ぽちゃり」と沈めた。



 それから真一が再び応接間に戻ると、潤んだ瞳で自分を見つめる信子と目が合った。2人とも、興奮が最高頂に昂っているのがわかった。あんな「感動的場面」を目の当たりにした後なら、そうならない方がおかしいとすら思えた。真一は、健吾の手当てを続けている三ツ谷に悪いなと思いながら、でも三ツ谷さんの欲求も満たしてあげたしな……と自分に言い訳をして。信子の手を「ぐいっ」と引っ張り、寝室へ連れて行った。応接間を出る間際、健吾の後ろに立っていた運転手に、「ちらり」と目配せを送りながら。



 寝室に入った途端、信子がしゃぶりつくように、真一に濃厚なキスをしてきた。それはまるで、真一を口の部分からひと飲みにしてやろうかという勢いだった。真一もそれに応え、「俺が、お前をしゃぶり尽くしてやる」と言わんばかりに、信子を両手でぎゅっと抱きしめ、そのままベッドに押し倒した。


 押し倒された信子は、圧し掛かろうとする真一に対し、「くるっ」と体を入れ替え。仰向けになった真一のズボンを脱がし、股間に貪りついた。だが、信子が刺激を与えるまでもなく、すでに真一の性器は硬直しきっていた。信子は下着をスルリと脱ぎ捨てると、真一の上に跨った。



「ああああああっ……!」

 股間から、まさに突き上げるように立ち昇る快感に、信子は身をよじって悶えた。信子はそのまま、自分の体を激しく上下に揺さぶったあと、身体を前に傾け、上半身を真一に預けるような体勢になった。そこで真一は、寝室の入口に向かって、目で合図を送った。


 寝室の入口に控えていた運転手は、真一に向かって「かしこまりました」と言うように、軽いお辞儀をすると。ズボンを降ろし、信子の背後に近づいた。


 そして、運転手は。子宮を真一に貫かれたまま、身体を前に倒したことによって、背後に近づいた運転手に丸見えになっている、信子の肛門へと。自分の性器を突き立てた。



「あああああああ! ああああああああ!!」


 真一に子宮を、運転手に肛門を、同時に貫かれ。信子は絶叫に近い声をあげて、激しく身悶えた。真一は、あまりの快感に我を忘れそうなほど、官能に満ちた表情を浮かべる我が妻の顔に、両手を添えて、キスをした。そのキスには、真一の切なる想いが詰め込まれていた。



 ……俺たちが出会ったのは、やっぱり運命だったんだ。それ以外に、考えられない。だってそうだろう? こうして2つの穴を同時に責められている妻の顔が、愛おしくて愛おしくて、しょうがないんだから……。



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