彼だけの花

西野ゆう

第1話

 私の家は、いわゆる旧家だ。今でも蔵が三つある。おそらく私が通う中学校の校区の中で、私の家以上に立派な家はないだろう。

 立派なうえに、古風だ。家も、そこに住む者も。一人娘である私を除いて。

 私はこの古い家の中にいて、唯一今を生きる娘だと実感していた。

 学校から帰れば食事と入浴を素早く済ませ、ベッドの中でスマホを手放さず、タブレットで動画を見る。そういう生活を送っていた。

 私は今どきの娘だ。ほかのクラスメイトと何も変わる所はない。心からそう思っていた。

 だが、世間は、クラスメイトたちはそう見てくれなかった。クラスメイトの親たちも、教職員でさえも。

 変わり始めたのは、祖父が県政から国政に仕事場を変えた頃、私の年でいえば中学入学直後くらいからだろうか。

 最初は何気ないひと言から始まった。いいや、始まりはもっと前からあったのだろう。私はそれと気付かぬふりをしていた。

「お嬢様は良いよな」

 分かっている。その言葉が、そのままの羨望の意味でなかったことくらい。

「良いでしょう?」

 それでも私はおどけて言い返して見せた。何度も、何度も。言葉だけの「嫌味」には、気付かぬふりをしていた。小学生の間は、それで済まされていた。

 だが、中学に入って「先輩」という厄介な存在に囲まれるようになって、私はどんどん孤立していった。

「発達に問題はありませんから、適応障害、不安障害でしょうね」

 学校へ行けなくなった私を、無理やり母が病院へ連れて行き、無理やりお医者様が病名を付けた。

 母は「我が子がそんな病気になって情けない」と思っていたようだが、私は逆に、学校へ行けないのは病気だからなのだ、と妙に納得した。

 そして、病気を受け入れた私は、別の病気にもかかりやすくなっていた。免疫力が低下して、すぐに熱を出しては、さらに母親を困らせた。

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