第10話
「白(はく)道(どう)様、三日月兄ちゃんはどこへ行ったの?」
まだ大人になりきれていない狼が隻腕の老婆に尋ねた。
「あれは私を裏切ったのさ、愛していたっていうのに、残念なことだよ、どこへ行ったのやら」
狼は残念そうにうなだれた。
「おまえたちはちゃんと私のために働いてくれるね?」
「うん!」
数頭の狼たちが各々返事を返す。
「愛しているよ、おまえたち」
白道と呼ばれている隻腕の老婆のまわりにいる狼たちが遠吠えを始めた。
妹が泣いていた。
うつむいて、ポタッ、ポタッ、と涙の粒を落としていた。
胸に、誰かの頭を抱いて、その落ちた涙がツーと垂れる。
その人は幸せそうな顔をして眠っているようだった。
目が覚めると自分が泣いているのに氣づいた。
(こんなの見ても悲しいだけじゃない……)
時計を見るとまだ、午前四時すぎだった。
なんか目も覚さめちゃったから起きちゃおうかなとあさぎは思い、横で寝ている妹を起こさないよう静かにベッドから出た。
薄暗いリビングルームに行くと、苦しそうな声が耳に入った。
その声の方に足音をたてないように近づいてしゃがむ。
狼が毛布の上に寝ている。
「悪夢でも見ているのかしら」
撫でる手は緑の微光を宿らせていた。
うなされていたのが止まった。
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