第9話 トロールと、ヤマタノオロチ作戦と、キュウリの佃煮

 エルフの聖域にお邪魔した。

 やっぱり囲まれる。


「いい所に来た。実はトロールの事で困っている」

「とりあえず話を聞かせろ」


「トロールが攻めて来たのだ」

「自慢じゃないが、俺は腕っぷしはからきしだぞ」

「そんな事は期待してない。人間は奸智にけていると聞いている」

「まあ、人間なりの考え方はするよ。奸智かどうか分からないけどな。詳しく状況を説明しろ。まずはそれからだ」


「トロールを知っているか。回復能力が高く。魔法も効かない。大きいので力がある」

「そのくらいはな」


「エルフは魔法と矢で撃退したんだが、致命傷を与えたとは言えない。向こうは虫に刺されたぐらいにしか思ってないはずだ。不快だったから引き返したという感じだ」

「本気で来られたら不味いって事だな」

「ああ、総力戦になると犠牲者が出る」


 うーん、無理じゃね。

 無理ゲーだ。

 俺に何を期待してるんだ。


 ヤマタノオロチ作戦しかないか。

 食い物でなんとかする。


「確認したいが、トロールは何で攻めて来た?」

「分からん」

「野生動物が来襲するのは大抵の場合は餌が原因だ。餌を与えてみてはどうか」

「やつら、大食いだぞ。体が大きいからな」


「でも言うだろ。量より質って。美味い物なら少しでも満足するかもな。それに狙いは別にある。人間は平気でも動物が食うと毒になる食い物は色々とある。色々食わせて、それを探すんだ」

「毒殺しようというんだな」

「最悪はね。満足して帰ってくれるなら、文句はない。それにどれが毒かなんてわからないんだから。目の前で同じ物を食ってみせれば、食うだろ」

「なるほど。失敗しても問題はないな」

「じゃ、準備してくる」


 俺は境界から引き返して家に入った。

 保存用、冷凍庫を開ける。

 俺の家には普通の冷蔵庫と冷凍庫専用があるわけだが。

 冷凍庫には加工した野菜何かが冷凍保存されている。

 俺はそこから、キュウリの佃煮を取り出した。


 日付を見ると5年ほど前だ。

 キュウリが採れすぎて余ると佃煮を作る。


 これは食い忘れて、廃棄しようと思ってたやつだ。

 冷凍してあるから食えるはずなんだが、5年前のじゃ人にくれるのもなんだし。

 自分で食うのなら新しいのがある。

 それで迷ってた。

 トロールに食わせてやろう。


 準備は出来た。

 インゲンを一袋持って。


「おすそ分けスタンピード」

「今日は頼むぞ。お前だけが頼りだ」

「任せろと言いたいが、ぼちぼち任せろ」

「とにかく頼む」


 トロールが出没する場所に行った。

 ご飯にキュウリの佃煮乗せたのを置く。

 トロールが現れるのを待った。

 しばらくして、ドスンドスンという足音がしてきた。

 木々の間からぬっと、青い肌の巨人が現れた。

 でかいな、3メートルは超えている気がする。


「トロール、聞こえているか!! 贈り物を用意したから、それで帰ってほしい!!」


 トロールは皿に盛られたご飯とキュウリの佃煮を凝視した。


「おで、騙されない。お前、食ってみろ」


 俺は用意したのと同じ物を食った。

 キュウリの佃煮は煮てあるのに、水分が抜けて元のキュウリよりさらに気持ちいい歯ごたえがある。

 甘じょっぱい味と、出汁を取るために入れた塩昆布が、豊かなコクを生み出している。

 ご飯と一緒に噛むと更に旨味が増してなんとも言えない感じだ。

 本当に美味いな。


 俺が美味そうに食っているのを見て安心したのか。

 トロールは鼻をひくつかせ、用意された飯を食った。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 何が起こった。

 当たりか、毒に当たったのか。


「美味いぃぃぃぃぃぃぃぃ。おで、初めて」

「満足したか。なら帰れ。二度と来るな」

「おで、これが二度と食えないと悲しい」

「じゃどうしろと」


「おで、知ってる。おで達の中にある魔石、貴重。それと、交換だ」

「分かった。契約成立だな」


 トロールは去って行った。


「ソウタは凄いな。トロールと言葉が交わせたのか」

「トロールとは喋れないのか。普通に会話できたぞ」


「ソウタは自分がダンジョンメイカーだと言っていただろ。ダンジョンはモンスターを扱う。モンスターと話せるのもそれが原因だろう」

「なるほどね。考えてなかったな。だが、ありえるか」


「お礼は何が良い」

「植物が元気になる水だな。今度はすぐに撒くよ」


 トロールの魔石が手に入れば、強力な回復タオルが作れる。

 次にトロールと会うのが楽しみだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る