第6話悪役令嬢の懺悔〜前編〜

わたくしはこの国の筆頭公爵家に生まれた。お母様は幼い頃に亡くなり、お父様は再婚しなかったので一人娘として、厳しく育てられた。

7才で王太子の婚約者となったけれど、いつも同じ顔で笑顔の仮面をつけているようだった。まあ、向こうも同じことを考えてそうだけど。

王妃にはなりたい、というよりなるのが当然と思っているが、こんな男の下に付くのは嫌だった。


14才のデビュタントで正式に王太子の婚約者として紹介された。皆に祝われる中、心にあるのは、もう逃げられないという事だけだった。


15才で王立学園に入学して3年間通い卒業したら婚姻。この3年間は勉強よりも社交に力を入れ、王太子妃になった時に、地位を磐石にしておかねばならない。

王太子の側近の婚約者を中心にお茶会をしたりして親交を深めた。

2年になって、宰相子息の婚約者イリーニアが、改まって面会を申し込んできた。

「荒唐無稽な話ですが」から始まった話は、本当に荒唐無稽だった。最終学年で子爵令嬢が編入してきて、王太子や側近達と恋仲になり、わたくし達を卒業パーティーで苛めの首謀者として断罪する。わたくしは僻地の修道院に送られると言う。しかも、子爵令嬢はサバリス公爵家の養女に迎えられ、王太子の婚約者になる。

物語としてもありえなさすぎて、彼女がおかしくなったのかと思った。

「ねえ、何か婚約者とありましたの。」

彼女を刺激しないように優しく聞いてみた。

「今は信じられないかも知れません。私も信じてもらえると思っていませんし。それでもお話したのは、備えて欲しいからです。」

「備え?」

「もし、ほんの少しでも私の話を信じられたら、用意して頂きたいものがあるんです。」


彼女の真剣な顔を見て嘘を言っている様子はないけれど、やはり妄想としか思えない。


家に帰って彼女の話を振り返り、従者に件の子爵家を探らせた。半年後、本当に子爵が愛人の子を引き取り、王立学園に入れようとしていると報告を受け、驚きとあの話が本当かもという喜びに支配された。


彼女ともう一度あの話がしたくて、邸に来てもらった。

彼女の言うシナリオは、変えられない運命のようなもので必ず断罪されるという。ただシナリオが終われば運命から解放され、それぞれの意思で何でもできる。

半信半疑だけれど彼女の要求された映像装置を準備して婚約者達の不貞(彼女曰くイチャラブイベント)や、苛めの現場を撮してシナリオ終了後に冤罪を訴える事ができると言う。


わたくしは仮面の王太子も、わたくしに劣っているのに兄として偉そうに振る舞う義兄も、排除できるのならこの賭けに乗っても悪くないと思った。

まあ、何も起こらなければ約束されていた未来が来るだけなので、特に損はしないですしね。

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