5 なんとかしなきゃ

 僕はほろ酔い気分で、アパートにムーンと戻り、ムーンを犬小屋にくくり付け部屋の鍵を開けました。

 僕はアパートの1階、端っこに住んでいます、日当たりはあまりよくないです。


 だから部屋の中もじとじとしていて一時期、田舎から送ってもらった除湿機で永遠と除湿していた位です。

 今はそれも酷使しすぎて、故障してしまっています。

 僕が部屋に入ろうとしたら、数人の黒ずくめの男達がアパートの影から出てきました。

「なっ、なんですか、あなたたちは!」

「おう、借金返してもらおうか!」

「借金って! この間かなりお支払いしましたけど」

「バカヤロウあれっぽっちで足りるかよ! あんなもん今までの利子にもなりゃしねぇよ!」

 そう言い男は僕の肩をつかみ、僕はドアに叩き付けられました。


 黒ずくめの男の一人が僕を怪訝そうな顔で見ます。

「兄貴、

こいつ酒なんか飲んでますぜ?」

「てめぇ! 酒飲む金があったら、借金返せよ」

「こ、これは違う……」

「舐めてんのか? 今日の利息分金がないなら何か差し押さえさせてもらうぜ!」

 そう言うと男達は僕を押しのけ、土足で部屋に入って行きました

「やめてください!」

 夜のアパートでは、ムーンを土下座までして頼み込んで住まわせてもらった所なのであまり騒げません。

 けれどいくら借金があるからって、勝手に人の家に土足で入り込むなんてあんまりです。

 僕は男たちを止めました。


「止めて下さい、止めて!!」

「うるせぇんだよ!」

 男の一人が叫ぶと僕のみぞおちに思い切り蹴りを入れてきました。

 その衝撃で気絶までは行きませんでしたが、僕は苦しくなってその場にへたり込んでしまいました。

 胃からさっき食べたものが戻りそうになって、息が出来なくなりました。

 これなら気絶した方がマシでした。

 男達は僕の部屋の中を物色して「なんにもねぇなぁ!」

 と叫ぶとそれでも目に付いた湯沸しのポットを一つ抱えて出て行きました。


 もしかして毎日こんな日々が続くのでしょうか。

 そう考えると目の前が真っ暗です。



 翌日、僕が元気がないのに気がついたのか、白鳥さんが心配そうに僕の顔を覗き込みました。

「春原くん、どうしたの?」

「あ、いや……」

 白鳥さんに心配かけたくなくて、僕は一生懸命笑いました。

 昨日蹴られたお腹がまだ痛いです。

 結局昨日気持ち悪くなって少し吐いてしまいました。


 あれだけお金頂いたんだもんな。それでも足りないなんて。

 あれはどれ位のギャラだったんだろう。


 そんな僕の気持ちと比例するように、今日のシーンは残酷なものでした。

 潰れた第6ドームへ行くというシーンです。

 色々なキャストさんたちが、恐ろしいメイクを沢山していて、みなさんが死体役でした。

 恐ろしいメイクをしていた中の何人かは、白鳥さんのファンらしく、そのままの顔で白鳥さんにサインを求めていました。

 白鳥さんはいつものように明るい笑顔でサインをして、ファンの人たちに微笑んでいます。

一緒に写真も撮っていました。


 白鳥さんはどうやらお母さんが有名なAV女優さんでそこから本物の大女優になったそうです。

 お父さんは映画監督でやはり有名な人らしいです。

 家族揃って凄いみたいです。

 それもあってか白鳥さんの家は大変お金持ちらしいです。

 なんでも外国にお城まで持っているらしいです。

 あるところにはあるんですね、お金って。


 瑠璃の友達の未知さんが死ぬシーンでは僕もなんだかくるしくて目頭が熱くなってしまいました。

 監督さんは僕の演技が悲壮感が漂っていていいと誉めてくださいましたが、それは今の僕の状況から滲み出たんだと思います。

 

 でもっ、死んでしまったら何もかも終りなんだし。

 まだ僕は生きている。

 だから、なんとかしなきゃ。

 

 なんとかしなきゃ、借金……。


NEXT 1部終了


今日のご飯


ロケ弁。(生姜焼き弁当)

緑茶。


ムーンがなんだか最近肥えている?

スタッフの人にいろいろ戴いているらしい。

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