第18話

   十八

「ワットハプニング?」

 カタコトの英語で伊藤は男性に話しかけた。周りを見渡すと警察が辺りを捜索し様々な人が話し合っている。

『さっきまでここで男と女が言い争ってたんだよ』

 伊藤は自分を呪った。義務教育は受けているのだからなんとかなるだろうと思ったのが甘かった。コーロってなんだよ。

「ソーリー、ワンモアプリーズ」

 伊藤は出川の凄さを思い知った。何事にも諦めない姿勢。それが彼の魅力の一つなのだろう。

『だから、さっきあそこでね男と女がこう、言い争ってたの』

 身振り手振りを使ってゆっくりと発音をする。

「ソーリー。ウェ、ウェイトプリーズ」

 自分では無理だと判断した伊藤は即座に花澤に電話をかけた。

「もしもし?」

「もしもし。えーっと、能力者っぽい事件があったんだけと英語がわからなくて」

「あー、おっけ。いま変わる」

 花澤が三村と話している声が少し聞こえる。ゴソゴソという音の後に三村の少し弾んだ声がスマートフォンから発せられた。

「じゃあその事件のことを聞きたいのでスピーカーにしてください」

 言われた通りにスピーカーボタンを押した。

「その話を聞いた人は?」

 伊藤は背後に立っていた男性を示した。

『こんにちは。貴方が事件の目撃者?』

 男性は不思議な顔をしながら答えた。

『あぁ。さっきここの通り、ルイス・ストリートで不思議な男と女が言い争ってたんだよ。よくわからないんだけど、こう、女が引っ張られてたんだよ。しかも俺だけかな?すこし身体が前に重かったんだよ』

 話を真剣に聞いていた三村が口を開いた。

『彼らは何かを話していませんでしたか?』

 顎をさすりながら思い出そうとする。

『確か、君には手を出したく無いとかどうとか。あぁ、あと男の名前を叫んでたな。アランだったかな?』

「三村さん。なんて言ってるんですか?」

 目の前でちんぷんかんぷんな話をされている伊藤は申し訳なさそうに聞いた。

「左院さんと思われる女性と男性。アランと言うらしいですが、その二人が言い争っていたらしいです。その男性は能力者の可能性があります」

「じゃあさっきまで左院さんがここにいたってこと!」

『あ、あと』

 日本語の会話を聞いていた男性が二つ思い出した。

『女の方は君らみたいな日本語?を話していた気がするよ』

 それを即座に翻訳して伊藤に伝えた。

「左院さんで決定レベルじゃないですか!」

『あとな、これは本当に目を疑ったよ』

 男性は頭を抱えた。三人は同時に息を呑んだ。

『消えたんだ』

 同じだ。三人の頭にあのシーンが浮かんだ。

『動画でも写真でもいいので何か状況がわかるものはありますか?』

 伊藤はテレビ通話に切り替え、男性はジーンズの尻ポケットからスマートフォンを取り出した。日本のように液晶が大きくなく小型のキーボードが画面半分を覆っている。

『周りにいる人達は皆んな写真を撮ってた。だから俺も撮ったんだよ』

 小さい液晶に写真を表示した。そこにはスーツ姿の男性と左院の様な女性が写っている。伊藤は直感した。

「左院さんだよ。これ。服は違うけど」

 伊藤はポケットから先ほど描いた左院の似顔絵を見せた。

「この人でしたか?」

 三村は男性に伝えた。

『多分この人だよ』

『その写真貰えませんか?』

 三村が問いかけた。

『なんだ?この女を探してのか』

 三村は伊藤の方を一瞥して答えた。

『はい』

 すると男性はニッと笑い了承した。

 

     オーデュボン・パーク 七時二十二分

「左院はここに来てたんだ。すぐそこに」

 写真を見ながら花澤は呟いた。

「もしかしたらまだ近くにいるかも」

 期待まじりに訴えると三村がその期待を打ち砕いた。

「日本からアメリカまで瞬間移動した可能性があるので、もしかしたら別の大陸に行っている可能性があります」

「そっか。そうですよね」

 伊藤の落ちた肩に手を乗せて花澤が言った。

「でもまぁ、敵の正体はわかったじゃん。この男、アランはテレポートができる」

 三村は不覚にも目を輝かせてしまった。

「あ、そうだ」

 戻ってくる途中のコンビニで買ってきた栄養ドリンクをポケットから取り出して一気に飲み干した。日本の物とは違った不思議な味で驚いてしまった。

「これで三人目ですね」

 バッグからノートとシャーペンを取り出して関係図を書いた。伊藤を中心に二本線が伸び、片方は左院に。もう片方は花澤、三村に繋がっている。

「やっぱ、こう言うのには裏がいるんだよ」

 そういうと関係図にクエスチョンマークを書き足した。

「じゃあ、もしかしたら左院さんは今その裏と会っていかもしれないの」

「まぁ、仮定の話だけどな」

 話を聞いていた三村が口を開いた。

「その仮定。本当かもしれません」

 自分の趣味の話をしていた花澤は目を見開いた。

「どういうことですか?」

 三村は自分の考えを話し始めた。

「男性一人相手に逃げ出しますか?左院さんの力なら男性の動きをとめて、通報することなんて簡単だと思います。しかもその男性は目的があるから左院さんを二回も捕まえたんだと思います。しかも二人とも能力者でお互いを認知していました」

「もしかしたら他にも能力者がいて、それらをまとめ上げてる人がいるってことか!」

 話が続く様に花澤が切って入った。

「はい。先日のこともありますし可能性が高いかと」

 三人とも考え込んでしまった。ここまで来て……というわけでもないが、一つわかることがあった。

 他にも能力者がいる。

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