第3話
三
明治大学 十二時十三分
飛んできた二人を三村は目をキラキラさせて迎えた。研究室に入るとアーモンドの様な香りが漂ってきた。先程とは比べ物にならない程に散らかった研究室を見ると努力の跡がうかがえる。テーブルの近くに二人を呼んだ。
「これを見て」
そう言うと三村は大量の資料の上に広げられた古びた新聞記事を指さした。そこには『山奥に謎の白骨死体』という見出しがあった。千九百九十年八月六日に発行されたその新聞記事には摩訶不思議な文面が載せられていた。
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昨日未明に岩手県雫石町全農東日本原種豚場付近に身元不明の二人の白骨化した死体が発見された。付近の住民に警察が聞き込みをしが、身元解明の手がかりになることは無かった。去年導入されたDNA鑑定を行い、山梨県在の橋本明夫、中村秀樹ということが判明した。警察は殺人事件として調査に遭っている。
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要約するとこの様な内容だった。何回見てもおかしいということがわかる。人がそんな早く白骨化する訳ないのだ。そこからわかることは約三十年前にも能力者がいたということだ。二人に人間が白骨化する過程や時間、どうやってこの記事を見つけたのかを事細かに説明した。二人はそれを聞いて、何かわかるものがあるかも知れないと、三村を含めた三人で現地調査を行おうと訴えた。勿論断る理由は一つもなかった為、早速現場に向かうことにした。テーブルの上の資料はそのままに、三村は椅子にかけてある薄い上着と財布などが入ったバッグを掴んで、研究室を急いで退室した。残された二人も彼女を急いで追った。
駐車場に出ると、三村が恥ずかしそうに立っていた。
「車持ってないのに急いで来てしまって。お二人は車をお持ちで?」
花澤はクスッと一笑し、ポケットから車の鍵を取り出し見せた。鍵の開錠ボタンを押すと少し離れた場所にあるマツダcx-8が返事をする様にヘッドライトが音を立てて輝いた。そそくさと花澤は運転席に、伊藤は助手席に、三村は後部座席に乗り込み、シートベルトを締めてエンジンを掛けた。ギアを動かしアクセルを踏んで出発した。
それを見計らってか、見知らぬ車が発進した。
岩手県雫石町 十九時五分
夜遅くなってきており、辺りは暗くなっていった。町に着くと街灯と家から漏れる灯り、それに月明かりのお陰で少し明るくなっていた。
「この暗さで森に入るのは無理だな」
花澤が言うと二人も同意して宿を探すことにした。町内を十分ほど見て回ると飲食店が多いが宿が一つも見当たらなかった。仕方なく駐車場に車を停めて車中泊をすることにした。町中の駐車場を探している途中に三村が言いにくそうに切り出した。
「伊藤さん達がそんなことをする人に見えないんですが……男女が狭い車内で一夜を共にするのはちょっと……」
確かに、と伊藤と花澤はお互いに目を合わせた。どうするかと二人はあれこれ考えた。だが、どの考えにも落とし穴があった。結果的には馬鹿みたいな案しか残らなかった。
「縄でぐるぐる巻きにするですか」
三村は漫画みたいな案を提示されて戸惑った。再びあれこれ考えている間に長旅のせいかお腹が鳴ってしまった。近くの通りで見つけたいしや食堂で腹ごしらえをすることにして、これからのことはそこで考えることにしようと言うことになった。
少し車を走らせると駅前のいしや食堂に到着し、入店した。いしや食堂内は少し客がいるだけで店内は静かだった。席に着くと店員がお冷やを人数分とメニューを二冊用意し、テーブルに置いた。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
お決まりのセリフを言い終わると離れていった。メニューを手に取り少し考えた後に店員を呼んだ。
「えっと。じゃあ、よしゃれラーメン単品で一つと」
「自分は松前ラーメンを一つ」
「私は親子丼を一つ」
店員は注文を繰り返しながら淡々とメモに記入していく。
「以上でよろしいでしょうか」
「はい」
二人を見てから伊藤は答えた。店員は注文を繰り返し、厨房へ戻っていった。
五、六分後、丼が運ばれてきた。それと同時に食欲をそそる香しく、香ばしい香りが一気に雪崩れ込んできた。空腹が一段と増し、伊藤は二人に割り箸を配り、一斉に割った。各々で合掌し一口目を食した。伊藤は麺を引き上げ、花澤は蓮華でスープを掬い、三村は米と卵で閉じた肉を掴んで頬張った。食べたことのない味に懐かしさを覚えて直ぐに完食してしまった。ほぼ同時に完食した三人は、ふうと一息ついてから本題について話し合った。スマフォで近くにある宿を探していると「雫石プリンスホテル」が引っ掛かった。
「ここから二十分ほどのところにホテルがありましたよ」
雫石プリンスホテルのサイトを表示しているスマホの画面を三村と伊藤に向けた。そこには地図も同時に表示されており、ここからそう遠くないところにあることがわかる。
「車で二十分ぐらいか」
料金の表示している場所を見て三村が言った。
「一日で例の場所を調べられるとは思いませんし、少々お高めのところに止まるのであれば二、三泊してじっくり調べる方がお得かと思いますし」
車内泊にならずに済んだことに胸を撫で下ろした三人は早速雫石プリンスホテルに向かうことにした。レジに向かい勘定を済ませて店を出た。外は少しひんやりとしており上着が役に立った。車に乗り込むと花澤は雫石プリンスホテルへのナビをセットし、伊藤は予約の電話を入れた。夏だったこともありすんなりと予約することができた。五分ほど車を走らせていると突然容姿端麗な女性が車の前方に飛び出してきた。
「止まって」
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