51話 フレッドの入学【イザベラ十四歳】

 秋祭りから半年が経過した。


「早いものね。王立学園に入学して、もう一年が経つなんて」


 私はそう呟く。

 今日は新入生が入学する日だ。

 在校生である私達は、会場となる講堂で式が始まるのを待っている。


「イザベラ殿、そわそわされているようですが、大丈夫ですか?」


 隣にいるオスカーに話し掛けられる。


「ごめんなさい、オスカー様。少し緊張していたみたいです」


「確かに、一年前の私達を思い出すと、緊張しますよね」


「えぇ、全くですわ。それに、今年は私の義弟も入学するのです。もう、ドキドキですわ」


 私はわざとらしく胸を押さえる。

 そんな私に対して、オスカーは微笑みながら言う。


「イザベラ殿は相変わらず弟思いですねぇ。でも、あまり過保護になり過ぎないように注意しないといけませんよ。彼は彼なりに頑張っているんですから」


 オスカーとフレッドには面識がある。

 シルフォード伯爵家の夜会に参加したことがあるし、その後のカキ氷試食などの際にも同行していたからだ。


「分かっております。あの子はもう十三歳になります。そろそろ姉離れをしてくれる頃でしょう。私としても、今までとは距離感を変えるつもりですわ」


「それなら安心です」


 そうこう話をしている内に、式は始まった。

 まず最初に、学園長からの挨拶がある。


「……であるからして……。新入生の諸君におかれましては……」


 相変わらず長い挨拶だ。

 去年も似たようなことを思った気がする。


「……それでは、新入生代表。フレッド・アディントン。前へ」


 司会の先生に名前を呼ばれたフレッドが、壇上へと上がる。

 フレッドは入学試験で主席を取ったと聞いている。

 新入生代表の挨拶という大任を務めるのも当然だ。

 すごいぞ、うちの弟!


「暖かい春の訪れとともに、僕達は王立学園の入学式を迎えることができました。本日は、このような盛大な式典にお招きいただき、誠にありがとうございます。我々は、この学園でたくさんのことを学びたいと思います。皆様、どうか温かく見守ってください」


 フレッドはそこで言葉を切ると、深く礼をして元の位置に戻った。

 すごいじゃないか。

 立派になったものだ。

 私は感動してしまった。


「(可愛い新入生ね……。抱きしめてあげたいわ)」


「(座学でいい点数を取ったのかしら? 頭が良さそうな雰囲気よね)」


「(あら、知らないの? 剣術の試合で試験官の先生に勝ったらしいわよ)」


「(まあ、そのようなことが……)」


「(あの小さな体で、組み敷かれてみたいですわ)」


 周りからは女生徒達のヒソヒソ話が聞こえてくる。

 フレッドは容姿端麗で成績優秀、さらには剣の腕前まで優れているのだ。

 背が低いことだけが唯一の難点なのだが、それも人によっては好みとなる。

 モテるのは当たり前だろう。

 私にとっては自慢の弟だ。


(でも、一つだけ心配事があるのよね)


 それは、ヒロインのアリシアさんのこと。

 ゲームのシナリオ通りに進めば、彼女とフレッドが仲良くなる可能性はある。

 ゲーム通りならば、だが。

 もしもフレッドルートにならなかった場合はどうなるのだろうか?

 現時点で、アリシアさんはエドワード殿下、カイン、オスカーのいずれとも親しくなっていない。

 いつも私の後ろを雛鳥のように付いてくるのだが、男性陣が合流するといつの間にかいなくなっている。

 アリシアさんが誰かのルートに入ると、ゆくゆくはバッドエンドに近づく可能性がある。

 そのため、現状の展開は私にとって悪くないものではあるのだけれど……。

 フレッドが入学してきたことにより、それが変わっていくかもしれない。


(ここからが本番だわ。ますます気を引き締めていかないとね)


 私は内心でそう決意したのだった。

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