49話 お姫様抱っこ

 私はオスカーとダンスを楽しんだ。

 そして、最後の曲を踊り終えた。


「名残惜しいですが、これで終わりみたいです」


「そうですわね……」


「また機会があれば、ぜひ一緒に踊りましょう」


「はいっ」


 私はつい笑顔でそう返事してしまう。

 『ドララ』の攻略対象である彼と仲良くなり過ぎるのは良くないことだ。

 頭では分かっているんだけどね……。


「……おや? やれやれ、イザベラ殿を独占できる楽しい時間は終わりのようです」


「え?」


 私は首を傾げつつ、オスカーの視線の先に目を向けた。

 そこには……。


「おい、貴様ら! 一体何をしているのだ!?」


 エドワード殿下がいた。

 隣にはカインもいる。

 彼らが私に駆け寄ってくる。


「エドワード殿下……」


「こんなところで、一体何をしていた?」


「ダンスを踊っていただけですが?」


「ほう。随分と仲良さそうだな?」


「それはまあ、オスカー様と私は級友ですから。ある程度は当然のことです」


「…………」


 エドワードは私を睨んでくる。

 思わず後ずさってしまう。


(どうして私が睨まれないといけないのかしら?)


 理不尽だ。


「エドワード殿下? ご気分が優れないようでしたら、今日はこの辺で……」


「いや、大丈夫だ。俺は至って健康体だよ」


「ですが、顔色があまり良くありませんよ?」


「気のせいだろう。それよりも、俺達も踊るぞ」


「はい?」


 エドワード殿下は私の手を掴むと、強引に引っ張り出した。


「ちょっ、ちょっと待ってください。もうダンスの時間は終わったのですよ?」


「む? そうか……」


「残っているのは、花火くらいでしょうか。王都の火魔法士の方々が腕によりをかけて作られた花火が打ち上げられるはずですわ」


「ふむ」


「最後は四人で一緒に見て締めくくりましょう」


 私、エドワード殿下、カイン、オスカー。

 今日の秋祭りには、この四人で来ている。


「……」


 エドワード殿下は少し考え込むような仕草をする。


「いや、最後くらいはイザベラを独占したい」


「え?」


「二人きりになれる場所に行くぞ! イザベラ!」


「えぇ~っ!?」


 私はずるずると引き摺られていく。


「待てよ! エド! イザベラ嬢は俺にとっても大切な人なんだ」


「エドワード殿? 抜け駆けは許しませんよ」


 カインとオスカーがエドワード殿下の前に立ち塞がった。

 彼らは彼らで抜け駆けをしていたようなものなのだが、それは棚に上げているようだ。


「どけ、お前たち」


「どかねえ」


「ここは通しませんよ」


 三人が火花を散らす。

 そして、動いたのはエドワード殿下であった。


「仕方ない、奥の手だ。はああぁっ! 【覇王の翼】!!」


 シュバッ!

 私を抱えたエドワード殿下は、まるで羽が生えているかのように軽快にジャンプした。


「「「なにぃいいいいいいっ!!?」」」


 私を含めた全員が驚く。

 しかし、そんなことはお構いなしとばかりに、エドワード殿下は私を抱えたままその場を離れていく。

 あっという間に、カインとオスカーの姿が小さくなっていった。


「すまない、イザベラ。こうでもしないと、お前を独り占めできないと思ったんだ」


「エドワード殿下……」


 私は彼にお姫様抱っこされた状態で、そう呟く。


「それにしても、お前は軽いな。ちゃんと食べているのか?」


「失礼ですね。これでも一応、淑女として体重管理はしっかりしているつもりなのですが。そもそも、さっき屋台で買ったものを食べたではありませんか」


 カインが買ってくれた焼き菓子、オスカーが買ってくれたカキ氷、そしてエドワード殿下が買ってくれたリンゴをたらふく食べた。

 むしろ、これ以上食べると太ってしまうのではなかろうかというレベルである。


「あの時は茶化すようなことを言ったが、イザベラは高位の魔法士だ。あれぐらいではむしろ足りないだろ? 魔法を使うことにもエネルギーは消費するからな」


 さすがは王子。

 よく知っているなぁ。

 魔法に馴染みのない平民には、”魔法は念じるだけで何でも思い通りになる便利な代物だ”なんて考えている人もいるのに。


「それで、どこに向かっているのですか?」


「ん? そうだな……とりあえず誰もいないところに向かおうか」


「はい?」


 それってどういうこと?


「イザベラと二人で夜空を見上げながら語り合いたかったのだ」


「あぁ……」


 そういう意味ね。

 びっくりさせないでほしい。

 てっきりアレなことをされるのかと思ったじゃないか。

 私はドギマギさせられつつ、彼に抱えられたまま夜の街を移動していったのだった。

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