44話 仄暗い光

「まあ何にせよ、勝負は俺の勝ちだ! イザベラには、俺と秋祭りを回ってもらうぞ!」


 エドワード殿下は、嬉々として声を上げる。

 はしゃぎすぎだよ。

 子供かあんたは……。


「ちょっと待ってください。さっきの勝負は引き分けでは?」


 オスカーが異議申し立てをする。


「そうだぜ。最後は、三人揃ってイザベラ嬢の回復魔法で回復したじゃねえか」


 カインも続く。


「なにぃ!? 最後まで立っていたのはこの俺だ。俺の勝ちで間違いあるまい!」


 エドワード殿下がムキになって反論する。

 そうして、三人の言い争いが始まった。

 よくもまあ、そんなしょうもないことで揉められるものである。

 私が誰と秋祭りを回るかなんて、大したこととは思えないのだけれど……。


「イザベラ! お前はどう思う!?」


「イザベラ嬢、俺の剣術を見ていてくれたよな!?」


「私の氷魔法は、イザベラ殿のために磨いてきたものです。どうか適正な評価を……」


 三者三様の主張である。

 これだから、イケメンどもは困るんだよ。


(う~ん、面倒くさいなぁ)


 私は、小さく息を吐く。

 そして、おもむろに手を掲げると、人差し指を立てて彼らに告げた。


「もう、何でもいいじゃないですか。皆で回ればいいでしょう?」


 瞬間、場の空気が凍り付く。

 え……、なんで?

 何かおかしなこと言ったかな、私。

 すると、最初に我に返ったオスカーが口を開いた。


「……そ、そうですね。イザベラ殿の仰るとおりです」


「仕方ねえな。余計な男が二人も付いてくるのは気に入らねえが、イザベラ嬢がそう言うんなら……」


 カインもそう続く。


「な、なぜだ、イザベラ! 俺はお前と二人きりで……」


「エドワード殿下は皆で行くのが嫌ですか?」


「当然だ!」


「では、エドワード殿下は不参加ということで。私、カイン、オスカーの三人で回ります」


 私は冷ややかに返す。

 だって、こんなところで揉めていたんじゃ時間が勿体ないじゃないか。


「ぐぬっ! ま、待て、イザベラ。分かった! 参加すればいいんだろ? 参加すれば!」


「はぁ? 何か仰いました?」


「俺も参加すると言っているのだ。参加させてくれ!」


「ありがとうございます。それを聞いて安心しました」


 これで話はまとまった。

 私は、にっこりと微笑むと、三人に向き直る。


「詳細な時間等はまた後日連絡致します。今日はお疲れさまでした。それでは失礼致します」


 私はそう言って、その場を後にする。


「イザベラ様ぁ……」


 ふと、隣からか細い声が聞こえてきた。

 すっかり忘れていた。

 アリシアさんだ。

 彼女は別に関係なかったのだけれど、なぜか今まで私に付き合ってくれていたのだ。


「ここまで付き合わせてしまって、ごめんね」


 私はアリシアに謝ると、彼女の手を引いて歩き出した。


「いえ、大丈夫ですぅ。それよりも、秋祭りのことなのですけど……」


 彼女がおずおずとそう切り出す。

 そう言えば、最初に秋祭りのことを話題にしたのは彼女だったね。

 そこにエドワード殿下が割り込んできて、さらにカインやオスカーまでもが乱入してきた形だ。


「ああ。アリシアさんも秋祭りに行くんだっけ? 誰と行くか決まっているの?」


「え? あ、あの……。わたしはイザベラ様とぉ……」


 アリシアさんが控えめに答える。

 最後の方は、声が小さくてよく聞き取れなかった。


「ん? 何?」


「……い、いえ。何でもないですぅ……」


 アリシアさんは、何故かションボリとした表情で俯いてしまった。


「そう? ならいいけど……」


 この時の私は、彼女の異変に気づかなかった。

 彼女の目に宿った、仄暗い光にも……。

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