42話 三つ巴の戦い

「しゃあ! 最初からこうすりゃ良かったんだよ!」


 カインが木刀を構え、そう言う。


「ふん。剣術だけならともかく、魔法も込みなら俺の方が勝ち越しているのを忘れたのか? この勝負はいただいたも同然だ」


 エドワード殿下が魔力を高めつつそう返す。


「甘いですね。氷魔法の真髄を見せて差し上げましょう。イザベラ嬢と秋祭りを回る権利は、私がいただきます」


 オスカーが眼鏡をクイっと持ち上げながら言い放つ。

 私達は、王立学園の訓練場にやって来ていた。

 なんか、みんなやる気満々になっている。

 バトルロワイアル的な感じで白黒つけるようだ。

 私の意思は?


「それでは、行きますよ!」


 オスカーの合図で、三人が一斉に動き出した。

 そして、戦いが始まる。

 まず最初に仕掛けたのは、オスカーだ。


「【氷柱雨】!!」


 オスカーの手から無数の鋭い氷の槍が放たれる。

 だが、


「無駄だ。【火壁】」


 エドワード殿下はそれを炎の壁で防ぐ。

 オスカーの攻撃を防いだエドワード殿下に対し、今度はカインが攻撃を仕掛ける。


「オラァッ!! 【剛撃剣】!!!」


「ふん。甘いな。【水盾】」


 カインの一撃は、水の盾によって阻まれてしまう。

 その隙にエドワード殿下は後ろへ跳んで距離を取った。


「さすが、見事な防御力です。ですが、まだまだですよ。【氷結地獄】!」


 呪文を唱えると同時に、地面から大量の氷の柱が突き出した。

 それはまるで地獄の門のような光景で、思わず息を呑む。

 しかし、


「無駄だと言っているだろう。【土壁】」


 エドワード殿下の前に巨大な岩が出現し、攻撃を防ぐ。

 すると、そこにオスカーが再び攻撃を仕掛けた。


「くらいなさい! 【氷刃】!!」


 手のひらに生成された鋭く尖った氷の塊を、オスカーがエドワード殿下に向かって投げつけたのだ。

 だが、それもエドワード殿下に届く前に、地面に落とされてしまった。


「くっ!」


 オスカーは悔しげな表情を見せる。


「ふっ、どうだ? 俺の防御魔法は?」


 エドワード殿下は余裕たっぷりに言った。

 王族である彼は、剣術に加えて多彩な魔法も修めている。

 特に各属性の防御魔法については優先的に学ぶようにしている。

 普段は護衛もいるし、初撃さえ防げれば後は護衛兵達が襲撃者を倒してくれるからね。


「勝ち誇るのはまだ早い。次は俺だ。いくぜぇっ!!」


 カインが叫びながら突っ込んでいった。

 そして、木刀を振り下ろす。


「甘すぎるぞ、カイン。【風障壁】」


 風の膜が、木刀を弾いた。

 そのままカインは体勢を崩してしまう。


「もらったぁあああっ!!」


 そこを狙って、エドワード殿下は『覇気』を開放する。

 ん?

 覇気?

 こんな模擬試合で、ずいぶんと本気を出すんだなぁ。


「これで終わりだ! 【天剣斬】!!」


 上空に出現した光り輝く大剣が、カインへと振り下ろされる。

 だが、


「【加速】!」


 カインが唱えると、一瞬にしてその場から消え去った。

 あれ?

 今のって……。

 身体強化魔法の中でも、相当に高位の魔法のはずだけれど。

 『ドララ』のカインは、最高学年になるまでこの魔法を使えなかったように思う。


「何だと!?」


 エドワード殿下は驚きの声を上げる。

 そして、すぐに辺りを見回し始めた。

 だけど、もう遅い。


「ここだよぉおっ!!」


 カインが声を上げながら、エドワード殿下の後ろに現れた。

 エドワード殿下は、完全に不意を突かれてしまっている。


「ちぃいっ!」


 慌てて振り返ろうとするも、間に合わない。

 次の瞬間……。

 バキッ!!

 大きな音がして、エドワード殿下の木刀が折れてしまっていた。

 うわぁ、すごいなぁ……。

 私は心の中で呟く。

 エドワード殿下の木刀は真ん中からポッキリと折れており、先端は宙を舞っていた。

 そして、少し遅れてカランと音を立てて落ちる。


「へへっ! 武器を失ったら戦いようがないだろ? この勝負は俺の勝ち……」


 カインがそう言い掛けた時だった。


「【氷結地獄】!!」


 チャンスを伺っていたオスカーが、魔力を高めて攻撃魔法を放ったのだった。

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