41話 火花

「ふん。そう言えば、カインもイザベラに言い寄っているのだったか。諦めろ、イザベラは俺の妻となる女だ。王子である俺がそう決めたのだ」


「ふざけんな! イザベラ嬢の気持ちはどうなるんだよ。俺は立派な騎士になって、イザベラ嬢を幸せにするんだぜ!」


 エドワード殿下とカインが口論をしている。

 エドワード殿下は次期国王なだけあって、俺様タイプだ。

 唯我独尊というか、自分の意見を曲げることはしない。

 一方、カインは平民上がりの熱血系。

 己の意志を真っ直ぐ貫きつつも、最終的には貴族である私から”選ばれる”ことを目標にしている。

 こればかりは二人の生まれ育ちや性格による違いなので、必ずしもどちらが正解とも言えない。

 女性側の意思を尊重しているカインの考え方を好む人も多そうだが、俺様気質でグイグイ来るエドワード殿下のようなタイプがストライクな人もいるだろう。

 しかし、少なくとも今の二人の相性が水と油のように悪いことは確かだ。


「わ、私は別に……。その……」


 私は、二人の板挟み状態になっている。

 二人とも嫌いな男性ではない。

 『ドララ』は結構やり込んだゲームだし、エドワードルートもカインルートもクリア済みだ。

 むしろ、他のゲームと比べてもかなり好きな攻略対象だと思う。

 でも、だからと言って、今すぐにどちらかを選ぶなんてできない。

 バッドエンドを回避するため、自分が恋愛事の当事者となることは避けてきたからだ。


「イザベラ。お前は俺と結婚するのが嫌なのか?」


「イザベラ嬢。あんたが本気で嫌だって言うなら、無理強いはしねえ。でもよ、エドよりも俺の方があんたを幸せにできるように頑張るぜ」


 二人が私の顔を覗き込んでくる。

 正直、どちらも選べない。

 ここは、一旦引くしかない。


「……ごめんなさい。少し考えさせて下さい」


 私はそれだけ言って、逃げるようにその場を離れようとする。

 その時だった。


「イザベラ殿? それにエドワード殿下とカイン殿も。これは何の騒ぎですか?」


 穏やかで理知的な声が聞こえた。

 振り返ると、そこには見知った顔があった。


「オスカー!」


 オスカー・シルフォード。

 氷魔法で有名なシルフォード伯爵家の跡取り息子だ。

 私の同級生でもある。


「おお! オスカーじゃねーか!」


「お久しぶりです、カイン殿。ところで、この騒ぎは何なんでしょうか?」


 オスカーがそう問いかける。

 彼ら同士でも多少の交流があるようだ。

 ま、それはそうか。

 『ドララ』では、オスカーもカインも、エドワード殿下の親友兼側近になっていたしね。

 家格・能力・性格などを総合的に見れば、彼らの仲が深まっていくのは自然なことなのだ。


「ああ、こいつがイザベラ嬢を妻にしたいとかほざきやがったからよ」


 カインがエドワード殿下を指差して言った。

 ……いや、そういう言い方はないんじゃないだろうか?

 王子に対してかなり踏み込んだ発言だ。


「ほう? それはまた随分と思い切ったことを仰るのですね。この私を差し置いて」


 オスカーが挑発するように笑みを浮かべた。


「ふっ、貴様こそ、イザベラとは釣り合わんのではないか? イザベラに相応しいのは俺に決まっている」


「いえ、イザベラ殿は私が相応しいと思います。イザベラ殿は聡明で美しい。きっと、彼女を幸せにできるのは、この私だけでしょう」


「おうおう! 俺のことを忘れてもらっては困るな!!」


 三人ともバチバチと火花を散らす。

 えっと……、これってどういう状況なのだろうか?

 誰か説明して欲しいんだけど……。

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