36話 エドワード殿下の重大発表
「私から重大な発表をさせてもらう」
壇上でエドワード殿下がそう言う。
「はうぅ……。殿下、格好いい……」
「素敵~!」
「目の保養だわ……」
女生徒達からは絶賛の声が上がった。
(人気者だねえ……。さすが、『ドララ』のメイン攻略対象なだけはある)
私はそんなことを考える。
すると、エドワード殿下が口を開いた。
「私には、愛する女性ができた!」
彼の言葉に会場内がざわつく。
当然だ。
入学式のこのタイミングでこんな話が出るとは誰も思わないだろう。
しかも、入学したばかりの新入生の前で。
私は嫌な予感がした。
脳裏に『ドララ』での出来事がよぎる。
それは、エドワードルートのイベントの一つ。
入学式前にアリシアさんと運命的な出会いをしたエドワード殿下は、第二学年としての挨拶の場を借りて、彼女への期待を大々的に表明するのだ。
(まあ、それだけ光魔法の適性持ちは珍しいということだけれど……。ゲームでは既に私という婚約者がいる身だったのに、少し軽率だよねぇ)
アリシアさんは、どうも自分が魔法の適性を持っているからこの王立学園への入学が許可されたという認識を持っているようだった。
それは部分的には正しいのだが、正確ではない。
通常の魔法に対してちょっとした適性があるぐらいでは、王侯貴族が通うこの学園に入学することはできない。
教師陣から彼女に寄せられている期待は、主に光魔法に対するものだ。
彼女の持つ光魔法は、闇の瘴気を打ち払う効果がある。
これは、他の魔法にはない特色だ。
その上、対象者の傷や病に対する回復を促進させる効果や、ゴースト・アンデッド種に対して有効な攻撃魔法まで持っている。
これらの特性は、とても希少価値が高い。
(エドワード殿下には、いろいろとお世話をしてあげたのになぁ……。やっぱり、ゲームの設定通りに進むよう、運命力のようなものが働いているのかな?)
思えば、入学式前にアリシアさんを見かけた時も、エドワード殿下は彼女のことを気にしている様子だった。
あれはあれで、『ドララ』にもあったイベントだ。
まあ、ゲームでアリシアさんに声を掛けて励ますのは、イザベラではなくてエドワード殿下だったけどね。
「私が愛する女性、それは……」
エドワード殿下はそこで一度言葉を切った。
そして、アリシアさんの方を真っ直ぐに見つめて……。
あれ?
アリシアさんじゃなくて、なぜか私の方を見ているのだけれど。
「君だよ、イザベラ」
エドワード殿下の言葉を聞いて、私は頭が真っ白になる。
「「「きゃーっ!!!」」」
周囲の女生徒達から黄色い声が上がる。
「イザベラ様? 今年の主席合格者の……」
「家格は言うまでもなく高いし、ポーション作成や魔法の実力も飛び抜けていると聞いている」
「何より、あの美貌。同じ女の私でもうっとりしちゃう」
「悔しいけど、あの方なら納得せざるを得ないわ……」
女生徒達がそんなことを呟く。
だけど私はそれどころじゃない。
えっ!?
今、なんて言ったの、あの人!?
「やはり殿下もアリシア殿を……。しかし、こんな風に先手を打たれるとは。……アリシア殿、大丈夫ですか?」
隣にいたオスカーが、そんなことを言う。
私は、それに答える余裕がない。
心臓がバクバク言っている。
だって、これって……。
(公開告白!? それも、ヒロインのアリシアさんじゃなくて、私に対して!!)
入学初日に何をやっているんだ、あの人は!
いくら何でも早すぎるだろう。
心の準備ができていない。
そもそも、どうして私なのか?
私は悪役令嬢なのに。
『ドララ』においてエドワード殿下は攻略対象の一人で、在学中にアリシアさんと愛を育むことになる。
彼も年頃だし、女性に興味があること自体は当然のことだ。
でも、まさかこんな場で公開告白されるとは思っていなかった。
彼からの婚約話はずっと躱してきたのに。
私は、混乱したまま壇上のエドワード殿下を見る。
彼は、少し照れたような表情を浮かべている。
その顔を見て、ドキリとした。
(あんな顔をする人だったかしら?)
私の知っている『ドララ』における王子様は、もっと自信たっぷりな感じだったはずだが。
いや、よく考えたら、今の彼の方が本来の姿なのかもしれない。
王子としての立場に縛られて、本心を隠さざるを得なかっただけで。
思えば、あのゴブリンキング討伐の際にも、少し弱いところを見せていた。
これから先、彼がどういう人間になっていくのかは分からない。
少なくとも、今のエドワード殿下は、ゲームの中の彼とは違うようだ。
私は、彼に見惚れていた。
すると、彼と目が合う。
恥ずかしそうに微笑んでくれた。
私も思わず笑みを返す。
周囲からまた歓声が上がった気がするが、今はどうでもいい。
エドワード殿下が口を開く。
「私と婚約してほしい、イザベラ。私は君のことが好きだ!」
今度は大きな声でハッキリと。
ああ、これは夢だろうか?
信じられない。
まるで夢の中の出来事みたいだ。
でも、頬をつねったら痛かった。
つまり、現実だ。
「「きゃーっ!!」」
再び女生徒達の悲鳴のような声が上がる。
「イザベラ嬢、返事を聞かせてほしい」
エドワード殿下に促される。
私の答えはもちろん決まっている。
私は彼に思いを伝えるべく、壇上の彼に近づいていったのだった。
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