4話 フレッド参戦

 さらに一か月ほどが経過した。


「ふんふ~ん。ふんふん~」


 私は鼻歌交じりに、今日も元気に畑仕事をする。


「う~ん、いい天気ねぇ……」


 私は額に浮かび上がった汗をハンカチで拭った。

 季節は初夏に差し掛かっている。

 そろそろ収穫時期の作物も多くなってきた。

 私は、作物の成長具合を確認するために、畑の隅へと移動する。


「どれどれ……。あら、もう実が熟してるみたいね……」


 やはり魔法で生育を促進させているだけあって早いものだ。


「でも、これだけじゃまだまだ足りないかぁ……。もっと頑張らないとね」


 私は一人呟く。

 七歳児に戻ってから既に七か月ほどが経過している。

 まだ幼い身ではできることが限られている。

 そんな中で私が見つけたのは、この農業という手段だった。

 地球のゲーム知識があるとはいえ、所詮はただの子娘に過ぎない私に何ができるのか?

 最初は不安だったが、やってみるとこれが結構面白い。

 作物を育てて、それが育っていく過程を見るというのは、とても心躍ることなのだ。

 ただ、本当にこのままでいいのかという思いもある。

 エドワード殿下やアリシアと今後も関わらないようにする。

 そんな単純なことだけで、本当にバッドエンドを回避できるのかと……。

 しかし、今は他に思いつく手立てがないのだ。

 だから私は、今自分にできることを精一杯やるしかない。


「さあ、今日のお仕事はこれくらいで終わりにしましょうかね」


 私は額の汗を拭いながら、大きく伸びをする。

 すると、そこで背後に誰かがいることに気づいた。


「………っ!? 誰!?」


 振り返ってみると、そこには見覚えのある人物が立っていた。

 私の義弟、フレッドだ。


「えっ!? フレッド? どうしてここに?」


 予知夢では、私に毒の短剣を突き刺したフレッド。

 そのせいで苦手意識を持ってしまった私は、彼に話しかけることができていない。

 エドワード殿下やアリシアに対する方針と同じで、できるだけ関わらない方がいいと思っていた。

 なのに、なんでこんなところにいるのだろう?

 まさかまた何か企んでいるんじゃないだろうなと思い、警戒心を露わにする。


「あの、姉上。こんなところで何をされているんですか?」


 フレッドは、青髪をたなびかせながらそう質問する。

 彼は私の一つ下なので、今は六歳だ。

 顔立ちはかなり整っており、将来はイケメンになること間違いなしである。


「見ての通り、農作業よ。悪いかしら?」


 私はツンとした態度で答える。


「いえ……。悪くはないですけど……。ただ、意外だなって思って……」


「どういう意味よ?」


「だって、姉上はアディントン侯爵家の令嬢じゃないですか。それも、僕とは違って実の娘であるあなたが、なぜ畑仕事をしているのかなって……」


「…………」


 確かに彼の言う通り、私は侯爵家の実の娘として生まれてきた。

 本来なら、畑仕事をする必要なんてどこにもない。

 だけど、私はあえてそれを選んだ。

 バッドエンドを自分なりに回避しようとするためだ。

 しかし、それをフレッドに話すわけにはいかない。

 今回の人生でも、油断すれば彼にまた害されるかもしれないからだ。

 不用意に手の内を明かさない方がいい。


「別に、深い理由なんてないわ。私はただ単に、こういうことが好きなのよ。趣味みたいなものね」


「そうなのですか? 奇遇ですね。実は、僕の方もそういうのが好きでして……」


「へぇ~。それはそれで意外ね」


「それで、もしよかったら、これから僕もここで作業させてくださいませんか?」


「え……?」


 フレッドの提案を聞いて、私は一瞬固まった。

 彼と一緒の作業をする……?

 それは、一体どういった意図があってのことだろうか……。

 また私を殺そうとしているのか?


「お断りよ。そもそも、これは私が一人でやっていることだし、あなたの手伝いはいらないわ」


 なので、ここはきっぱりと断ることにした。

 フレッドと関わってもいいことはない。

 彼はいずれ、私を殺してしまうのだから。

 だが、そんな私の答えを聞いたフレッドは、見てはっきりと分かるほどにションボリしてしまった。

 そして、悲しげに俯く。

 あれ、なんか思ったよりも落ち込んでるみたい。


(ちょっと言い過ぎたかな……?)


 よく考えれば、今回の人生において、フレッドは私に対して何もしていないじゃないか。

 あれはあくまで予知夢。

 そして、『ドララ』での設定上の話だ。

 私がしっかりと立ち振る舞えば、きっと大丈夫なはず……。


「分かったわよ。じゃあ、手伝ってもらってもいいかしら?」


「本当ですか!」


 フレッドはパッと表情を明るくさせる。

 やっぱり、可愛い顔をしているなぁ。

 さすがは乙女ゲームの四大イケメンの一人なだけはある。


「ただし、邪魔だけはしないでよね」


「はい! ありがとうございます!!」


 こうして、私の農作業仲間として義弟のフレッドが加わったのであった。

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