3話 七歳児の畑仕事
私が七歳児に戻ってから、早くも半年が経過した。
まだ七歳なので社交デビューはしていないし、学校にも通っていない。
この『恋の学園ファンタジー ~ドキドキ・ラブリー・ラブ~』……通称『ドララ』の世界において、貴族は十三歳から学校に通う。
十八歳で卒業だ。
私の記憶にある日本で言うところの、中学校と高等学校があるようなイメージね。
ちなみに小学校に相当する教育機関は、貴族にはない。
各自家庭教師をつけて勉強するのが一般的だ。
そんな感じで、今の私は自由時間が多い。
侯爵家令嬢として社交マナーやダンス、それに一般教養を学ぶ時間は設けられているが、それほど過密スケジュールというわけではないからだ。
空いた時間は、魔法の練習をしている。
おかげで、初級魔法の習熟度はかなり上がった。
そして、他にも手を出していることがある。
「ふぅ……こんなものかしらね」
私は今、屋敷から少し離れた林の中で土魔法を使って畑を作っている。
作物を栽培するためだ。
なぜ急にそんなことを始めたかというと、理由は二つある。
まず一つ目は、もしもの事態に備えてポーション類を自分で作れるようになっておきたかったから。
今回の時間軸では、まだエドワード殿下やアリシアさんとは会っていない。
私の死亡フラグは立っていないと言っていいだろう。
でも、ゲームのバッドエンドに限らず、不慮の事故というのはいつ起こるかわからないものだ。
備えあれば憂いなしと言うではないか。
二つ目の理由が、魔法のレベル上げのためだ。
ゲームにおけるイザベラは、闇魔法の使い手だった。
それを利用してアリシアにちょっかいを掛けていたのだ。
私が見た予知夢では本当に何もしていなかったので、ゲームでの設定とは齟齬が生じている。
ま、それは今は置いておこう。
とにかく、魔法を極めておけば、いざという時に役に立つかもしれない。
だが、人が一日に発動できる魔法の規模や回数というものは限られている。
体内の魔力を消費するからだ。
基本的には時間経過による回復を待つしかないのだが、特定の作物を調合した特殊なポーションを服用すれば、魔力の回復を早めることができる。
というわけで、私は現在、毎日せっせと畑仕事に精を出しているわけだ。
「これでよしっと。あとは……」
私は、魔法で作成した鍬を手に取ると、畑に向かって振り下ろした。
ザクッ!
ザクッ!
ザクッ!
「おおー、順調順調! よぉ~し、どんどん作るわよっ!」
魔力を身体に通すことで、身体能力が増す。
七歳児の私でも、この通り農作業を楽々行うことができる。
調子に乗って、私は次々に作物を植えていく。
「ふう……。このくらいでいいかな?」
一通り植え終えた私は額の汗を拭うと、大きく息を吐いた。
「さすがにちょっと疲れたかも……」
だが、こんなときのポーションだ。
ポーションには、原料とするもの次第で様々な効能が生じる。
怪我を回復するもの、魔力を回復するもの、疲労を取り除くもの、魔法抵抗力を増すものなど……。
グイッ!
私は疲労を取り除くタイプのポーションを一気に飲み干す。
すると、たちまち全身に力が湧き上がってきた。
「キタキター! ファイト、いっぱーーつ!!!」
体力を回復した私は、休む間もなく次の作業に取り掛かる。
「次は……水やりね!」
私は両手を前に突き出すと、そこから大量の水を放出させた。
バシャアアァン!!
轟音と共に、大量の水が地面に降り注ぐ。
その光景を見て、私は満足げに微笑んだ。
「うんうん、なかなかのものじゃない。これなら薬草を育てるのに十分そうね」
魔法で作った水なので、普通の井戸から汲んできた水よりも格段に品質が良いはずだ。
私は畑の水撒きを終えると、今度は肥料の作成にかかる。
「えぇと……確か、こういうものは植物から抽出したものと、鉱物を混ぜ合わせるんだったわよね?」
私は、以前読んだことのある『ドララ』の知識を思い出す。
普通なら家畜の糞や生ゴミを使うところだが、この世界は乙女ゲームだ。
開発者はそのあたりにも配慮していたらしい。
ゲームとしてプレイしている時はどうでもいい拘りだと思ったけど、実際に取り組むとなると有り難いと思う。
うら若き侯爵家令嬢がゴミまみれになっていたら、風聞が悪いからね。
まあ、農作業をしていること自体あまり広めるべきことではないけれど。
「ふんぬぅ!!」
私は渾身の力を込めると、土魔法を発動させる。
ボコッ!
ボコボコボコッ……。
地面の下から鉱石の塊が現れた。
「よしっ! 成功よっ!」
ゲーム知識様さまである。
「後は、これを粉末にして……」
それからしばらく、私は黙々と魔法を利用して農地の開発に勤しんだ。
魔法の鍛錬にもなるし、ポーション作成のための作物は育てられるし、いいこと尽くめだ。
今回の人生はバッドエンドなんかにはしないぞっ!
「…………? あれは……姉上……?」
その時の私は、少し離れたところからこちらを覗く者の気配に全く気づかなかったのだった。
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