第16話 マナヒアの樹液
「時間をかけずにさっさと倒すぞ!」
ラスの声かけにより、イズ達の闘争心を燃やした。ラスは高い木に登り、全体に指示できる場所に移動した。同時に、スーアクの方も戦闘が開始した。ゴーレムが腕を振り下ろした。その破壊力は地面が容易に沈むレベル。
「っと…。たくっ、相変わらず危ない攻撃力だな」
「無駄口はいいから、やるぞ、ハラマ」
シュッ、シュッと、二人が素早い動きをするため、ゴーレムはついていけていない。反撃はしているが、攻撃の動作が一つ一つ遅いので、簡単に避けられていた。
ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!バキッ!バキッ!
太鼓を叩くような音で地面はどんどん
「同時に攻撃するぞ!スーアク!」
「了解」
ゴーレムの背中に同時に攻撃した。小柄にもかかわらず、ゴーレムにも引けを取らない程のパワーがあった。受けた衝撃で、ズズズッと引き
そこでラスが僕に指示をした。
「カルマ、あいつが体勢を崩したら、生命力を込めた一撃を入れろ!」
「あの〜。僕まだ上手く扱えないけど……」
「落ち着いてやれば大丈夫だ」
自信はないが、やらなきゃ危険な状況は変わらない。生命力を手に集め、溜まるのを待った。生命力は少しの力でも破壊力がある。多くの量の生命力を手から手首にかけて溢れ出てるのを感じ、いつでも攻撃できるようになった。
「ハラマ!スーアク!足を狙え!!」
ラスの指示をしっかりと聞き取り、すぐさま行動に移していた。足に二人の攻撃を受けたゴーレムは体勢を崩し、地面に倒れた。そのタイミングで僕は走り出し、ゴーレムの腹を目掛けて大きくジャンプした。
「おりゃ!!!」
ズドーーーーーン!!!!!っと、硬そうなゴーレムの腹を一撃で粉々に、戦闘不能の状態にした。調整ミスったか?と思わせるレベルの破壊力に圧倒され、数十秒間は言葉が出なかった。ハラマやスーアクは間近でその衝撃を見ていたからか、目が点になっていた。
「すっげーーーな!!カル!とんでもねぇーー威力だな!」
「これは…すげー……」
「ありがとうハラマ、スーアク。これさ、自分でも驚いているんだよね………」
想定以上の強さに驚いていたが、イズの声掛けで正常に戻った。
「今の衝撃でモンスター達が怯んでるぞ!突破するぞ!!」
そう、ここはモンスター達が大量に湧くエリア。グズグズしていると、取り返しのつかないことになる可能性があるエリアである。
その報告を受けたラスは次の指示を僕達にした。
「スーアク、ハラマ、カルマ!イズに続け!!」
イズのほうに向かって走り出したが、イズとの距離がかなり離れているように見えた。
道なき道を走っている。周囲に感じる、モンスターの気配。ただでさえ、この森が不思議な感じなのに、それと合わさったモンスターの気配は胸の内をゾワゾワとさせられる。
突如として、上から1体、モンスターが降ってきた。僕達の動きが止まった瞬間、周囲のモンスター達も姿を現れ始めた。囲まれた。スライムや狼っぽい魔物、そして複数体のゴブリン。敵のゴブリンはスーアクやハラマみたいな感じではなく、何の変哲もない姿である。違うのは体が赤いだけ。
スーアク達が特別なだけか?と思ったが、今の状況からしてそんな事を考えている暇はない。目的地は上からゴブリンが降ってきた方向にあるが、周りのモンスターが多いため、簡単には行かせてもらえない。
どうする?
すると、赤いゴブリンが「キーーー!」と高い叫び声を上げた。それが合図かは分からないが、叫んだ途端一斉にこちら側に近づいて来た。それぞれ武器を手に取り、襲い掛かってくる魔物を相手にした。
「ハラマ、スーアクは後方を。イズとカルマは好きが出来たら、先に目的地に!」
すぐにラスが指示を出した途端、戦闘が始まった。辺りはすぐに乱戦状態となり、何が起こっているのか分からなかった。それでも、今は自分に出来ることの最大限をやる。せめて、目の前に現れる魔物くらいは倒さなきゃ、意味がない!
生命力を
すると次は、二体の狼っぽい魔物。さっきのゴブリンよりも動きが速く、避けるのに精一杯であった。反撃しようと攻撃を仕掛けたとき、一体に右腕を噛まれた。
やってしまった
歯が腕に食い込み、腕の殆どが血に染まった。そのまま千切ろうとする魔物。噛まれた痛さ、千切ろうとする力の痛さで声を上げて叫んだ。近くにいたイズが魔物の喉辺りを短剣で切り刻み、痛みで叫びだした。噛む力が弱まった。腕に杭が刺さった状態から開放された感じで、噛まれた腕がスッと抜けた。腕から血がドバドバと出て、全く力が入らない。
「大丈夫か?ほら、これを腕に巻いとけ。またすぐに襲ってくるぞ」
腕がズキズキして痛むが、サッと渡された布を腕に巻いた。全身に生命力を纏い直し、体勢を整えた。しかし、負傷した右腕は思うように動かない。利き手が使えないというのは、かなり不便だ。
イズが僕の行動に合わせて、二体の魔物を撃破に成功した。倒し終わったあと、イズの超高速移動で僕の周りにいた魔物を切りつけ、一気に片付けてしまった。
「よし、今のうちに目指すぞ」
一瞬の隙を見逃さなかったイズは、駆け抜けていった。イズの背中を追っていると、耳がピクッと動いた気がした。
「魔物が来ても、気にせず走り続けろ」
変なタイミングで放たれた言葉だった。偶然なのか必然なのか、前方から魔物が一体現れた。
僕は指示通り走り続けた。魔物の悲鳴がなったと思ったら、眼の前にイズが戻っていた。
「イズって、魔物の位置って分かるの?」
「いや、分かんねぇ。けど、俺ってさ、耳が結構良いのよ。それを頼りにして探ってるってわけさ」
今も走っているが、さっきみたいに耳がピクっと反応はしなかった。察するに、近くには魔物がいないということなのだろう。
「もうすぐで目的地に着く」
ふと、思ったことがある。マナヒアの木に近づくにつれて、魔物が出てこなくなっている。ミレンさんが言うには、大量に湧くエリア内と言っていた。だから、そのエリアを抜けたという事はまず無いだろう。なのに、走るたびに湧かなくなっている。
周りの木々が少し変わってきた頃、イズが立ち止まった。そこには大きな木が一本立っていた。止まったという事は、目の前の巨木がマナヒアの木で間違いないだろう。
「イズ、これがマナヒアなの?」
「あぁ。すごいだろ?やっぱいつ見ても、圧倒されるな。」
「うん、こんな大きい木初めて見た。そういえばさ、さっきから魔物がいないのは、この木が関係してるの?」
「その通り。マナヒアには、魔物たちが嫌う匂いを発している。特にこの時期になると、樹液が出始め、樹液には通常の10倍の匂いを発生するんだ。だから、魔物がいないんだ」
なるほどと納得してしまった。しかし、ゴブリンであるイズ達はなぜ匂いに平気なのかと、疑問が出てくる。
返ってきた答えが『俺達はイレギュラーなんだ。普通の魔物が苦手な物でも、俺達には平気なのだ』と。スーアクやハラマ、ウワフを見れば、俺が知っているゴブリンとは掛け離れている。そうなると、イズ達は普通のゴブリンではない。
後ろの方からラス達の声が聞こえてきた。あの乱戦場を乗り越え、 ここまで来ていた。傷は多少付いているが、戦闘に支障が無い程度、流石というか、これが猛者なのだと分かった。
「よし、さっさと樹液手に入れて帰ろうぜ!カル!」
木に近づき、皮を剥くと樹液がボトボトと垂れ流れてきた。ラスが袋から瓶を取り出し、樹液をその中に入れた。蓋をしっかり締め、袋に戻す。あとは帰るだけだった。
気のせいだろうか。辺りがモヤモヤとしてきた。霧か?いやでも、こんな突然霧が出てくるのはおかしい。恐ろしいほど辺りは静かで、感覚的に気持ち悪い。
サッ。
ん??何か音がしたような………。その時、ラスが僕を左の方へ押した。マナヒアに当たったのか、後ろの方から轟音が響き、何かが壊れる音がした。
えっ??何が起きた?
状況が分からない。見渡しても霧のせいで、全然見えない。何も聞こえない。そんな中、ポタッと上から青い液体が垂れてきた。この匂い……、まさかと思いすぐに上を見上げた。
ラスの右腕が吹っ飛んでいた……。
これは、ラスの血だ。僕を庇った瞬間に当たったのだろう。
さっきまで少し賑やかな雰囲気だったのが、一気に緊張感のある雰囲気に変わった。
「あっ、あの……」
「気にすんな、こんなの、、痛くねぇ…。仕方ない。とりあえず、そのままでいろ」
すると、ようやくその姿が現れた。目にしたのは異様なオーラを解き放ち、全身が骨の魔物。僕が知っている言葉で表すなら、それは『スケルトン』だった。片手に禍々しい黒い剣を持ち、背に弓を装備している。ゆっくりとこちらに近づいてきて、30mくらいの距離でピタリと止まった。
一瞬だけ、そいつから青い光が見え、僕とそいつは目があったような気がした。
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