第15話 最初の試練
足に生命力を集中させ、急接近した。あまり使ってはないとはいえ、とんでもない速さである。
手を握り、ミレンさんの腹を目掛けて全力で殴った。しかし、呆気なく横に回避されてしまった。まだ制御できず、威力で体制を崩してしまった。
「おっとっと。まだまだ!」
すぐにミレンさんのいる方向に向かい、再び接近した。今度は右、左と連続して殴った。しかし、ミレンさんは後ろに、一歩二歩と下がり、
「10秒くらいかな。私の生命力がもう無くなっちゃったね。これから修行して、消費を抑えていこうね」
ミレンさんの言葉通り、生命力は消費が激しい。どれくらいの寿命をくれたのかは分からないけど、他の人の生命力をすぐに使い切ってしまった。しかも、たったの10秒という短さ。全然コツや制御の仕方が分からなかった。しかし、使ってみてなんとなく理解した。
「さっ、これを飲んでね。これはね、すぐに疲れが取れるポーションなんだ」
渡されたポーションを飲んだら、言葉通り疲れが一気に吹っ飛んだ。すぐに立つことができ、体が自由に動くことができる。
「すごい…。すぐに疲れが取れた」
「まぁ、魔女だからね。こういうのを作るのは、得意なんだ。さっ、次の段階に移ろうね」
「えっと、次は何をすれば……」
「自分から生命力を発動させる事、これが次の段階だね。早速やってみようか」
目を閉じ、深呼吸をした。ドクンッ。今までで一番心臓の音が大きく聞こえた。その途端、心臓から全身にかけて、エネルギーが溢れ出てくるのを感じた。僕は確信した。これが、自分の生命力だと。
「うん、出来たみたいね。じゃ、使うのやめていいよ」
そう言われ、心臓の中に戻すようなイメージで使うのをやめた。元の状態になったが、先程の疲労は襲ってこなかった。
「あれ?さっきのような疲れが全くない……」
「すぐに使うのやめたから、生命力をほとんど使わずに済んだっていう話ね」
自身で生命力を使う事ができたので、ラス達のいる場所に行った。ラス達は既に修行が始まっており、ラス達の声が森中に響いていた。
「やぁ、ラス。昨日伝えた事、早速始めよっか」
「了解です。ミレンさん。おーーーい!!集合だーーー!!」
集合の合図が聞こえ、イズ達の行動が止まった。そしてすぐにその場に集まった。
「よし、集まったね。今から君たちに素材を集めてほしいんだ。集める素材は3つあるが、今日は私が一つ決めさせてもらうね」
「ミレンさん、どんな素材を手に入れればいいんだ?」
ラスが質問した。これから採取しに行くのに、素材の情報がないのは困るので、ラスの質問はありがたい。
「君たちには『マナヒアの樹液』を手に入れてもらうかな。注意点としては、モンスターが大量湧きするエリア内にあるから、くれぐれも気をつける事だね。さっ、5分後には出発だ」
言い終わり、一斉に準備し出した。どこに行ったらいいか分からないので、とりあえずラス達について行った。いつも修行してる所に小さい小屋があり、そこからそれぞれ武器を持ち出していた。
「はいこれ。カルはさ、今日が初めてだから、これやるよ」
『カル』と呼ぶのはハラマである。親しくするために、あだ名で呼ぶことがあるそうだ。ミレンさんの事は、普通に『ミレンさん』と呼ぶらしい。敬うためにそう決めているだとか。
渡された物は、小さいポーチである。この中に小さいナイフと3個のアイテムがある。見る限り、戦闘時に使うもののようだけど、具体的には分からなかった。
「袋に入ってるこれは?」
「あーーそれね。カルは初めて見るもんな。それはな、煙が出る爆弾だよ。まっ、威力はないけど、目眩ましや一時的に逃げる時に使うもんよ。何があるか分からないからな。気を引き締めていこうな!」
ある程度持ち物について分かった。ハラマから短剣を渡され、全員集合した。そしてもう一度、ミレンさんから一言、全員に言われた。
「時間は3時間以内にここに戻ってくる事、いいね?。じゃ、いってらっしゃーい!」
その声と同時に、ラス達は走り出した。僕も遅れを取るわけにはいかないので、走って後を追いかけた。
危険エリアまで遠いのかとラスに尋ねると、そんな事はなく、走って15分くらいで到着するとの事。ならなぜ走っているのかというと、先程ミレンさんが言っていた危険エリアで時間がかかるとラスは予想したからである。しかも、今日初めて参加する僕がいるから、尚更時間に余裕をもちたいという事だった。
そう言われると申し訳なく思うが、イズからは
「気にすんな。こればっかりは経験しないと分からない事だらけだからさ。今日が初なら、その分経験すればいいだけさ!」
と、すごく嬉しい言葉をもらってしまった。他のみんなもイズと同じ考えで、『気にすんな!』と言ってくれた。
走りが原因で疲労が蓄積し、そろそろ限界を迎えそうな時、ようやく危険エリアに到着した。
これから戦闘があるのにもかかわらず、僕は「はぁ、はぁ」っと、息を切らしていた。本当に申し訳なかった。
ここは通称『デミストレス』と呼ばれている地域でモンスターが大量湧きするエリアである。辺りを見渡すと、早速モンスターが見えた。それも、1体だけではなく、ざっと11体といったところ。
ラスによると、まだまだ増えると言った。そう考えると、ここを突破するのは、そう簡単ではないとこの森に言われている気がした。
いったん周りの様子を確認し、タイミングを見計らっていた。マナヒアの樹皮は今いる所から、北東の方にあり、その方向には運悪く、3体のモンスターが近くを徘徊していた。
少し時間が経ったら、お互いに離れ始め、ようやく良いタイミングがなった。その瞬間、ラスはみんなに指示した。
「よし、突破するぞ」
バレない程の声量で伝え、ゆっくりと動き出した。
カサッ……。草むらが微かに動いた音がしたような気がした。その時、黒い影が背後に現れた。スーアクが敵の存在がいると分かり、急いで伝えた。
「みんな!うしろ!!」
ラスは咄嗟に僕を掴んで、距離をすぐに取った。イズは周囲を警戒し始め、スーアクとハラマは目の前の敵に注目した。
そこに現れたのは、全身が岩でできたモンスターだった。いわゆる、ゴーレムだ。
赤く光る目が、僕達を見下ろしていた。
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