第6話 1日の終わり、そして明日

 あの後、僕と姉さんはすぐに部屋に行かされた。部屋に着くと、僕はすぐにベットに横になった。あのような出来事、目には見えなかったけど魔法を使った戦闘、どれも経験したことのないものばかり。そのせいか、どっと疲れが襲ったのだ。




 1時間程経った頃、イオが城に戻って来たと別のメイドから報告を受けた。中々戻って来ないから心配していたけど、やっと戻って来た。


「心配をおかけして申し訳ございません。カルマ様。只今、戻りました。」

大丈夫そうなイオの姿を見て、咄嗟に駆け寄り、抱きついた。理由は分からない。しかし、こういう行動をしたという事は、心の底から心配していたと思う。イオは少しびっくりしていたけど、そんな僕を優しく抱いてくれた。『もう、大丈夫ですよ』と言わんばかりに。

「安心してください。何があっても、カルマ様をお守りします。約束です。」

この温かい感じ、どこか懐かしい感じがした。そして、この温かさが欲しかったのだと感じた。


 しばらく経ち、夕食の時間になった。テーブルの上にはナイフとフォークが置いてある。料理人たちが次々と料理を運んで来た。前菜のサラダ、汁物のスープ、そして各々にパンが配られた。メインは肉料理で、ステーキみたいな感じの料理だった。デザートのケーキを食べ、夕食は終了した。何事もなかったが、朝の雰囲気とは、何かが違う気がした。


 一旦部屋に戻り、風呂の支度をした。その支度も終わり、風呂の時間までやることがなくなった。棚にいくつか本があったのが見えたので、1冊本を取り出した。その様子を見ていたイオが、少し不思議そうな顔をする。


「珍しいですね。カルマ様は基本、本を読む事が少ないはずですが。」

「あ〜、えっと、たまには本でも読もうかなって。折角あるのに、読まないなんて勿体ないと思うけど?」

「そうですか。今日のカルマ様は変ですね。普段は景色を見ることが多いんですが。」

イオに何か怪しまれている。このままでは少しまずい気がしたので、話題を変える。


「そ、そういえばさ、魔力検査のときに、僕って0だったじゃん?他にも魔力が無い人っているの?」

「いいえ、カルマ様が初めてです。長い歴史を見ても、誰しもが魔力はありました。」

「そうなんだ。これから僕にも魔力出てくるよね?」

「まだ、出てない可能性がありますが、大抵5,6歳で魔力があるか分かります。ですが、それまでに魔力がないと、今後も魔力無しのままだと思います。」


その話を聞いて、また落ち込む。異世界にいるなら、一度は使ってみたかったんだけど、それが絶望的とは思わなかった。


「カルマ様は魔力以外にも、力はあるはずです。」

「そうかな?慰めてくれるのは嬉しいけど。僕にそんな力はないよ。」

「大丈夫です。気づいていないだけで、カルマ様にはあります。」


 正直、ここまで慰められるのは、初めてだった。しかも、いつもと雰囲気が違い、不自然な発言や行動をする僕に。そんなイオについ、「ありがとう」と言葉が出た。

「いつでも相談にのってください。」


 その後、少し本を読んだら、風呂に入る時間になった。風呂の準備をして、イオに風呂場へと案内される。


 脱衣所に着いたら、一旦イオと別れ、服を脱いだ。ドアを開けると、広い風呂場が目の前に広がっていた。

(無駄に広いなぁ〜)と思いながら、頭を洗い、桶でお湯をすくって、流した。体も洗い、広い風呂に入った。湯加減は、ちょっと熱いくらいだが、少し時間が経ったら、そんな事は思わなくなった。

(それにしても、こんなに広いのに、入ってるのが僕だけって…。何か落ち着かない。)


 風呂から出て、パジャマっぽい服に着替える。脱衣所から出ると、イオが待っていて、一緒に部屋に戻った。


「カルマ様。今日はゆっくり休んでください。それでは。」

そう言って部屋のドアをゆっくり閉めた。

「イオ、お休み。」

そう言って、ゆっくりとまぶたを閉じた。異世界の生活が終わった。何だか、実感がない。まるで夢のような時間だった。目を閉じると、色々考えてしまう。明日がありますように。




 

 目の辺りが眩しく感じた。そう思って目を開けた。すると、窓から日が差している。朝だ。何事もない、良い朝。こんな朝を迎えるのは、久々な気がした。窓辺に椅子があり、そこにイオが座っていた。


「お目覚めですか?カルマ様。」

そう声を掛けられ、返事を返す。

「おはよう、イオ。よく眠れたよ。」

「それは良かったです。では、目を覚ますために、顔を洗いましょう。少々お待ち下さい。」

そう言って、部屋を出てしまった。顔を洗うなら、風呂場へ行くべきと思ったが、言われた通りじっと待つ。

 やることがないので、一旦窓の外を見る。外の景色には、昨日行った町が見えたり、城の門も見える。高い位置にあるだけあって、見晴らしはすごく良かった。

 ドアの開く音が聞こえ、イオが戻ってきたことがわかった。手に持っていたのは、水が入った桶と、タオル。これで、顔を洗うのだと察した。手に水を掬う。その水はとても冷たくて、顔に付けた瞬間一気に目が覚めた。


 食堂に向かう途中、門の方が何やら騒がしかったが、朝食が先だと考え、その場を後にした。食堂に向かい、朝食を取る。昨日とメニューが違うが、どれも食べていて美味しかった。食事中、皆の様子が少し違う気がした。何だか、妙に静かというか。昨日の件が原因だろうか、今朝の騒がしさの対応で早速疲れがあるのだろうか。

 朝食が終わり、部屋に戻った。今日の予定は、昨日買わなかった小麦を買う、勉強、フリータイムといった感じの予定だった。しかし、買い物に関しては、僕と姉さんは城の外に出ては行けないとイオから報告を受けた。理由は分かっている。とはいえ、そしたら今日はやる事がない。暇な日になりそうだ。

 

 フリータイムの時間になり、僕は外に出た。外と言っても自分の家の庭だ。イオはすぐに買い物に行ったし、他のメイド達は予定が入っており、僕の担当にはなれないという事らしい。なので、今は一人で庭を散歩している。昨日見た花壇もあった。近くで見ても綺麗さは変わらず、今日も咲いている。このまま進んで行くと、広い野原が一面に広がっていた。奥の方に柵らしき物があり、おそらく、この野原までが敷地だと思った。

 気になって、柵の方に向かう。その柵に着いて、周りを右、左と見渡した。

(この柵、何でこんな低いんだ?)

この柵、妙に低い。本来、通れないくらいの高さの柵にすると思うが、この柵は違った。どうせ暇だし、この柵の先に行くことにした。


 「よいしょっ。」と柵を登り、そのまま降りた。(柵の意味あるのか?)と思いながら、そのまま真っすぐ進んだ。このまま迷子になるのは、流石に(まずい)と思い、柵が見える範囲で活動する。すると、大きい木の下の草むらが、カシャカシャっと動いた。そっちの方向に足が動く。そっと近づき、静かに覗き込む。すると、僕と同じくらいの年の少年が下を向いて座っていた。


 瞬間的に(誰?)、(どこから来た?)と聞きたい事が出てくる。声を掛けようとすると、少年が顔を上げ、じっと見つめてきた。


「わっ!?きみ、誰?」

「いや、それこっちのセリフだよ。とりあえず、名乗るけど。僕はカルマ。あの城に住んでいる貴族さ。」

「貴族?…。あー!えっと、ごめんなさい。勝手に近くまで来てしまって。」

そして、何度も何度も謝る少年。少年の名は、ユウといった。


「ところで、なんでここにいるの?」

「それは…。その。虐められてて、ここまで逃げてきたんだ。」

まじかよ。この街で虐めだなんて。いい街だと思ったが、裏でそんな事が。助けたいけど、外出れないし、多分この子が見つかったら、まずい気がする。


「事情は分かったけど、僕が聞きたいのは、どうやって、城の近くまで来たのかって言う事なんだけど。ここ高い位置にあるし、門からは入れないと思うんだけど。」

「えっと、街と繋がる道を偶然見つけて、ずっと歩いていたら、ここに来たって感じ。」

「その道って、他の人にバレてたりする?」

「いや、多分知らないはずだと思う…」


 それって、結構まずくないか。もし、その道を知った人が現れたら、いつでも城に侵入できる可能性があるって事だろう。バレてないのであれば、今すぐにこの子を家に帰したほうがいいだろう。城に入れたら、侵入者扱いだし、イオはいないし。

 覚悟を決めた。この少年を家に帰す。


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