第5話 イオの戦闘

 緊迫した状況の中、イオとストーカー男の闘いが始まっていた。短剣を振り回す男に対し、避けて、避けて、避け続ける。そういう行動に男は煽る。


「おい。全然攻撃してこねぇじゃん。あんだけ殺気立って、雰囲気だけかよ。」

「貴方こそ、全然当たらないですね。殺す気ないなら、消え失せてください。」

煽り返すイオ。男は気にせず、イオの顔を狙って切ろうとする。しかし、一歩下がったところで、回し蹴りが顔面に直撃。そのまま後方に下がった。かなりの衝撃だったのか、鼻辺りを抑えて、呼吸が乱れている。


「くっそ、やってくれたなぁ!!」

怒号を上げるも、追撃のパンチが腹に命中する。一方的にやられる男。男はその場で腰が抜けたように

跪いた。イオは、そのまま様子を伺う。しかし、男はピタリと動きが止まった。


「どうしました?もう、終わりでいいですね。」

 男は跪いた。ゆっくり近づくイオに、バッグから何かを漁っている。すると、ナイフをイオの方向に向かって、投げつけた。しかし、無言でナイフを片手で取り、地面に落とした。出血をしても動じず、男の前までやって来た。

「無駄な足掻きでしたね。さぁ、大人しく…」

そう言いかけた瞬間、イオが急に膝をついた。その隙をついて男はイオの腹を思いっ切り蹴飛ばした。倒れたイオに対し男は立ち上がる。


 イオが急に倒れる理由は何かないのか。辺りをよく見渡す。すると、さっき落としたナイフの下が少し濡れているっぽい所があった。ということは、ナイフに毒が塗られていたのか。

 そう考えていると、男はイオに近づき、腹を刺そうとした。辛うじて腕が少し動き男の腕を掴む。しかし、痺れているイオの体は男に敵うはずもなく、ナイフが腹に刺さった。腹以外にも腕や足にも刺した。何回も。

 あたり一面、血の海となり、周りにいた人たちは悲鳴を上げ、一気に逃げ出した。


「女は刺した。早く出てきた方がいいぞ!」

完全に狂ってる。一部始終を見ていた僕らは、言葉を失っていた。今出たら、完全に殺される。周囲を見渡すが、騎士や兵士はいない。この混乱で遅れているのか?だとしても静かすぎる。!

 姉さんが僕を庇うかのように抱き「大丈夫…」とだけ言った。足音が段々近づいて行き、強い殺気が肌で感じる。終わった。と思ったその時、足音が止んだ。


(なんだ?急に足音がしなくなったぞ。)

窓の隙間からそ〜っと見た。そこには、刺されたはずのイオが立っていた。

「どこ、向いているのですか?」

男は動揺が隠しきれない様子。当たり前だ。イオは刺されたはずだ。なのに、平然としている。

「なっ、何で立っていられる!?致命傷なはずだ!!しかも、毒まで仕込んだ。なのに…」

「私は毒が効かないのです。それと、私は刺されていませんよ。」

刺されてない?毒が効かない?訳が分からない。確かに、刺される瞬間は見ていた。それと、今も太ももから出血している。


「脚の出血は誤魔化せませんが、腹、胸、腕などの出血は上手く誤魔化せたようです。」

「何が言いたい…」

イオは胸辺りから、小さいサイズの袋を出した。見た目は、何の変哲も無いただの袋。その袋を見た男は、何かに気づいた様子だった。


「その袋、、まさかお前、」

「お察しの通りです。この中に、赤い液体が入っています。」

しかし、それだと刺す感触とかで(バレたりするのでは?)と疑問に残る。しかし、男は騙されていた。なぜ騙されたのか。少し考えたら、閃いた。そう、ここは異世界。俺が知っている世界ではないということ。つまり、イオは、男に何らかの魔法を使ったと推理した。


「あなたが私を刺す瞬間、あなたに幻影魔法をかけました。この袋を私の体と思わせたので、あなたを騙すことができました。」

「なるほどな。いつ魔法に掛かっちまったか知らんが、中々見ない戦闘スタイルだな。お前、何者だ?」

「さっさと、終わらせます。」

「俺の質問は無視かよ!」

イオと男の闘いが再開する。男の剣の振りが先程とは明らかに違っていた。腕を切り落とす勢いで、斬りつける。しかし、イオはそれを見極めるような感じで、避ける。だから、男の攻撃が全く当たらない。


 突然、イオが何やらブツブツと言っていた。すると、男の攻撃間隔がどんどん短くなっていった。イオの行動を阻止したいのかもしれない。僕にはイオが何をしようとしているのか、分からない。しかし姉さんは何か分かったような顔をしていた。


「姉さん、イオは何をしようとしているの?」

「もしかたら、詠唱をしているのかも。ここからじゃ、何言ってるか分からないけど。」

「なるほど。だから、ブツブツと何か言ってたのか。」


 姉さんの回答に納得した。しかし、戦闘中に詠唱って、成功するものなのか。僕が思ってた詠唱は、後方から攻撃するのが一般的だと思ってた。


「声が小さくて、何言ってんだ?魔法なら、そうはさせねぇぞ!」


ここまで避けてきたイオだが、怒涛の攻撃で腕や腹部などが切り刻まれていく。しかし、イオは詠唱を止めない。そして。


「相手の視界を奪え。幻影魔法、景色変化シーナリチェンジ。」


 突然、男の行動に変化が起きた。動かなくなったのだ。その隙に、腹に勢いよくパンチと、首に手刀をやり、男が倒れた。

 戦闘が終わり、イオがこちらに向かって来る。その姿は、ボロボロ、至る所に出血している。


「怪我はありませんか?カルマ様、リミア様。」

「僕は大丈夫だよ。」

「そんな事より、早く怪我を治さないと!」

姉さんは、すごく心配している。それもそのはず、間近で戦闘を見たのだ。言い換えれば、死ぬかもしれない出来事だった。それを見て、心配しない人なんかいない。


「心配はいりません。とっくに回復魔法で治しています。」

思わず、「早っ!」と、姉さんと被った。店の中の人達も心配してくれた。こんなに優しい平民なら、国王が信頼するのも納得だった。


「ねぇ、イオ。さっき使った魔法ってどんなものなの?」

「簡単に説明しますと、相手の視界を別の景色にさせる魔法です。」

「視界を悪くさせるなら、暗くするほうが手っ取り早いのでは…」

「…。ロマンです。カルマ様。」

(えぇ…)と思いながらいると、遠くの方から馬が走って来る音がした。その瞬間、騎士達がやっと来たのだと確信した。





 その後、騎士団が駆けつけ、男を拘束した。イオは戦闘したことにより、事情徴集された。周囲の平民達にも聞き込みを行っていた。さらに、周囲の警戒で、各地に騎士達が配置され、監視を強化していた。

 僕たちは、すぐに騎士団達の馬車に乗せられ、城に戻った。イオはまだ騎士と話をしている最中で、後で城に戻るそうだ。国王である父が、戻って来た僕たちの所にすぐに来た。


「カルマ、リミア。無事か?怪我はないか?」

「はい、僕は何ともないですよ。」

「私も大丈夫だよ。お父様。」

「そうか。二人が無事で本当によかった。」

無事だと分かった父は、安心した様子だった。国民を想い、家族想いな父の姿は、かっこいいし、自分。もそうなりたいと心から思った。


「それで、なぜ、カルマとリミアが狙われたんだ?」

「ごめんなさい、お父様。それはまだ分からないわ。」

姉さんが答えた。よく考えたら、なぜ僕たちを狙ったのだろうか?服装的にも高価な物は身につけてないと思うし、僕たちが貴族だという事も知らないと思う。次の瞬間、父の声質が急に変わった。その声は、優しい感じではなく、怒りがある感じで低い声だった。

「どちらにせよ、リミアとカルマを襲った奴には厳しい罰を受けて貰おう。」


父を怒らせてはいけない。本能がそう言っている。

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