第3話 図書館で勉強

 意味深な紙切れを見て唖然とした。僕は今の世界の文字を読むことはできない。しかし、この紙切れは日本語で書かれていた。文字は決してきれいとは呼べないが、形が日本語そのものだった。

 ノートにはまだ字が書かれておらず、新品であることから、紙切れが落ちることはおかしな現象である。誰かが入れた可能性が高いが、書いた人物や入れた目的などは不明である。


 色々考えていると、ガチャっとドアを開けた音がして「カルマ様。」と後ろから呼ばれた。

「ずっと机の前に立ってどうかなさいましたか?」

「あっ、いや、何でもないよ。それよりも、次は図書館に行くんだよね。すぐに準備するから。」

 ペンとノート、教科書っぽい物を持ち部屋の外に出た。さっき行った方向とは反対の廊下を歩き、右手側に階段が見えた。階段を上ったらすぐ右隣に図書館があった。


 その間、僕とイオとの会話は無く、時間だけが過ぎていった。転生して間もなく、僕自身初対面というものがあるからか、何を話していいかわからない感じである。

「図書館に着きました。」

「付き添いありがとう。」

「では、このままお入りください。」

 目の前の大きな扉を開け、中に入った。広い空間に数え切れない本の数。本当にすごい。

立ち止まって辺りを見渡して見ると、人は全然いなく、僕たちだけが利用している状態だった。机がある方へ連れて行かれ、そこにノートや教科書などの持ち物を置いた。


 勉強と言っても、何の勉強をするのかが分からない。一度手元にある教科書を見ると、文字が並んでいて、人物ぽい名前などがあったことから、歴史の教科書と予想した。

「イオ、今日の勉強は何をするの?」

「今日は歴史でございます。」

予想が的中した。しかし、文字が分からなければ重要な部分は理解できない。なんとかして文字の勉強をしたい。

「あのさ~、その、文字の勉強に変えてもいい?」

「なぜですか?今日は歴史の勉強をすると約束したはずです。」

当然そういう質問が返ってきた。どうする?素直に話すか。いや、それだと歴史の勉強を約束した意味がない。

(誤魔化せるかわからないけど、言ってみるか。)

「実は、文字の読み書きが苦手なんです。」

「どういう意味ですか?」

「えっと、昨日文字の練習をしていたけど、中々上手くいかなかったので、今日もう一度勉強したいなーと。」

誤魔化すのが下手だと改めて感じる。イオは真顔で表情を何一つ変えなかった。ただ、怒ったりとか面倒くさいという態度は無く

「わかりました。ではすぐに用意をします。」

と言って室内から探し出し何冊か持ってきた。厚さはそれ程厚くなく、薄くもなくといった感じ。

「ありがとう。僕のわがままを聞いてくれて。」

「いえ。お気になさらず。では早速始めていきましょう。」


 イオの説明はとても丁寧だった。この世界の文字は左から右に読む。一つの形につき一つ読む、感覚的に平仮名や片仮名を読んでいる感じだった。1時間程経った頃、ある程度読めるようになり、これから本題の歴史を勉強をする。

 内容は、王国の崩壊寸前の出来事である、『デネブロスの襲撃』。


 今から200年前、当時の国は全体的に栄えていて、経済的に活発だったと言われている。しかし、突然ゴーレムたちが国を攻撃し始めた。大きいサイズから小さいサイズまでと幅広く、被害は町を半壊させたという。そんな大惨事の中、デネブロスという人物が国を乗っ取ろうと襲撃した。国を攻撃するにもかかわらず、たった一人といった異例な戦力だった。王国側はゴーレムに戦力を使っていたため、戦力としてはそんなに多くはない。戦力、約100体を使ったが、全員殺されるといった桁外れの戦力だった。

 しかし、一人の魔女がデネブロスと激しい交戦をして、王国が崩壊寸前する前に倒しきった。魔女の名は『ミレン』。襲撃後、一時的に英雄扱いされるがゴーレムを召喚したと疑惑を掛けられ、指名手配となってしまったのである。

 ここまでの出来事がデネブロスの襲撃の概要だった。資料集的な本を渡され、その事件について詳しく調べると、当時国の人口は約10万人だったのに対し、死者数は約3万2000人だと言われている。ここから多くの人が犠牲になっていることがわかる。しかし、デネブロスという人物について、ほとんど情報が見当たらなかった。出身はどこか。魔法使いか、あるいは騎士なのか。どんな人物と関わりがあったのかなど、不明な部分が多かった。そのため、そもそもデネブロスは存在せず、魔女の仕業という説もあった。

 

 歴史を勉強したと言ってもまだ浅いが、なんとなくこの世界について知れたことがある。

・魔力測定のときで魔法は存在する

・過去のことから魔女は存在する

・国があり昔と変わらない体制であるならば、騎士や兵士がいる。

 今のところ分かっているのはこのくらい。歴史を知っても『日本語』は出てきていない。だとすると、あれは最近書かれたものだと可能性が高いと考えられる。それでも書いた人が分からないので、増々謎が深まるばかりであった。

 一度イオに最近起きた事件などを聞いて、手がかりを掴むしかない。

「あのさイオ、変なこと聞いて悪いんだけど、最近何か事件とか起きてたりする?」

「何も起きていませんよ。」

質問に対して即答だった。驚きや焦りはなく、ただ冷静に。僕にとってそれは少し不気味に感じた。

「たとえ、事件が起きても私が必ずお守りします。安心してください。」

「うん、ありがとう。」

 彼女の言葉に嘘は感じない。彼女が僕の味方なのは変わらないと思った。まだ、生活に慣れていないだけ。

 2時間程勉強をし、今日の勉強を終えた。イオにこの後の予定を聞くと、買い物があるらしく、僕もついて行くことにした。

紙の件については、これから調べるとして僕は一度部屋に戻った。





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