死ねない転生者

魁羅

第1章 王国編

第1話 新しい人生

 高所から感じる強い風、人気のない屋上、もうすぐ手に入る自由。


 屋上の柵を乗り越え、幅の狭い足場の上に立っていた。一歩踏み出せば確実に死ぬだろう。しかし、僕は死ぬことを恐れてなどいなかった。今の自分はただ生きているだけで、それ以外は無くなっていた。


 自分の家族、学校の居場所、自分の金、そして感情。全部無くなって、全部あいつに奪われた。けど今の自分にはどうでも良かった。悲しいこと、苦しいことなど何も感じず、あいつに対して憎む気力すら残っていなかった。


 僕は、この世界で生きたくないと思った。だから死ぬことを選んだ。この苦しみから開放されるなら死んでやると本気で思った。


 周りの風が強くなり始め、体がふらつく。そして前に重心を掛け、僕は落ちた。地面がだんだん近づいていき、死というのが目の前にあった。地上に

「くじゃ」 と音が鳴り地面に叩きつけられた。冷たい血が流れているのが肌で感じる。強い痛みが全身に伝わったが、感じた痛みが一瞬で消え意識がなくなった。


 暗くて無音な空間に僕はいた。姿、形はないけれど。周りに人がいる気配は全く無かった。ここは死後の世界なのだろうか。自殺した者たちは、こういう場所に行ってしまうと聞いたことがある。

 (自分も同じ場所に来たのかな。)と思っていると視界の右?あたりが妙に光っている。


 暗い空間に一筋の光が差していて、その光はどんどん視界に広がっていった。(眩しい)と思った瞬間、見慣れない部屋があり、自分はベッドで横になっていた。


 目が覚め、徐々に意識がはっきりしていき、部屋の様子が見えてきた。部屋は静かで、窓からは陽の光が差し、天気が良い朝だと伝えていた。僕は体を起こしてベッドから立ち上がった。静かな部屋の中で現状起きていることについて考え始めた。


 一番疑問に思っていることは「何故生きている」ということだった。はっきりとは覚えていないが、確かにあのときは死んだはず。なのに知らない部屋、新しい体、窓から見える知らない町がある。考えられるのは、ここは日本ではないということ。つまり、僕は異世界に転生していると答えが出た。


 そう考えていると、部屋の外からドタバタと誰かが走ってくる音が聞こえた。するとドンと勢いよくドアが開き、そこには背の高い女性の姿があった。

 「いつまで寝ているの!」

大きい声を掛けられ、そちらを振り向く。見覚えは全く無いが、初めて会った人ではないとわかる。戸惑った様子で言葉を返した。

 「あっ、えっと、お、おはようございます。その、誰でしたっけ?」

 「あんた何言ってるの?自分の姉を忘れるなんて。」

呆れた様子で、僕を見る。

 「ご、ごめんなさい姉さん。その…悪い夢を見て混乱しちゃって」

 

 言い訳をしているような返答だった。しかし嘘はついていない。あの暗い空間も夢の一つだと思うし、実際に混乱もしていた。その返答を簡単に信じるわけがなく。

 「う〜ん、何かいつもと違う気がするなぁ。よし、ちょっと質問するね。じゃ、あたしの名前は?」

下を向いて考えたが、答えが出なかった。

 「わからないです。」

 

 素直に答えるしかなかった。家族なのに名前が出なかったことは、申し訳なかった。

 「わからない、か。仕方がないね。私はリミア。ちなみに、自分の名前はわかる?」

このとき、はっきりと覚えていることがあった。それは、自分の名前だった。なので、質問に対して答えることができた。

 「カルマです。」

大きくため息をして目を合わせた。

 「自分の名前はわかるのね。まぁ、いいわ。それともう朝ごはん出来てるから、早く来て。」

そう言うと、姉さんは、さっさと行ってしまった。僕も姉さんの後を追い、自分の部屋を後にした。


 

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