さんかくみなも
小富 百(コトミ モモ)
さんかくみなも
「姉様だけティアラずるいわよ」
「後ろのリボンは結べてる?」
「あら爪の研ぎが素敵じゃない」
「王子と踊るのはこのアタシ!」
ねうねう、なうなう、立派な毛皮の縞模様。ひげをピンと張り立てて猫の姉妹は夜会へお出かけ。揃って飾って舞踏会。オシリもカカトも高い方が素敵でしょ?
「見て見て金の蝶ネクタイ」「白く輝くタキシード!」「お顔もキリリと細くって」「光る鱗に見惚れちゃう」
回り回るは螺旋階段。みなが見上げるはヒレの輝く王子様。
そう、この国は湖のほとり。水面の国を統べるのは代々銀のパイチェ様。王子様はただおひとり。後に生まれた卵はぜんぶ、王子が食べてしまわれたの。
茶虎が黄の声、「アタシを見て!王子様」
サビが猫撫で、「アタシ床上手よ王子様」
白が手を引く、「アタシと踊って王子様?」
ぶちが爪出し、「アタシ美猫よ王子様!」
パイチェ様は長い尾っぽを滑らし、
「おお、これはこれは火車の姫君達。
陸の国からよくぞおいでくださった」
ねうねう騒ぐ猫達相手に全く怯まぬ王子様。
嬌声、叫声、爪出し牙出し大喧嘩の四姉妹。
挙げ句の果てに柔い肢体で絡み合い、
「アタシを食べて!王子様!!」
「勿論良いとも、姫君達」
パイチェ様、大きな口をがっぽり開けて四姉妹丸ごと飲み込んだ。
がりごり、がりごり、ばきばき、ごくん。
「ああ、腹一杯。静かになった」
それではみなさん。
「舞踏会を始めましょうか」
ぱしゃん、水面、跳ねる音。
演奏、会釈、会食パーティー、
遊泳ダンスのはじまり、はじまり。
遠く昔、遥かずっと昔のこと。
かつて陸には多くのものが住んでいた。
かつて陸が多くのものを統べていた。
そんなある日、七日間の雨水に覆われた。
それ以来、地上が無くなってもう久しい。
かつて港には多くのものが住んでいた。
ゆきっぱなしの船も多くいた。
銀の鱗が骨を吐くようになりもう久しい。
これきりこれきり、
猫の姿を見たものは無い。
さんかくみなも 小富 百(コトミ モモ) @cotomi_momo
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