第39話 ダンスレッスン

 ガイアナ姫がクルスの手を取る。

 クルスは自然とガイアナ姫に引き寄せられた。


(近い……)


 あまりの密着度合いに、クルスの胸は高鳴った。

 ガイアナ姫から漂う甘やかな匂いが、クルスの鼻腔をくすぐる。


「教えてあげる」


 ガイアナ姫が身体を寄せて来た。

 クルスの右脇腹とガイアナ姫の左脇腹がくっつく。


ドクッ、ドクッ、ドクッ……


(心臓の音が聞かれやしないか心配だ)


「ワルツは……まだ難しいか。ジルバなら簡単かな」

「それも、知らない……」 

「まず、クルスは、私の肩甲骨の辺りに右手を添える」


 言われた通りにクルスは手を動かした。

 驚くほど華奢で柔らかい背中だった。


「左手は、私の右手と握り合う」


 クルスは手の汗を拭いたかった。


「スロー、スロー、クイック、クイック」


 ガイアナ姫のリードでクルスは自然と身体が動く。

 地面に長く伸びる二人の影が揺れる。


(リズムに身を任せて踊るって……いいな)


 クルスはさっきまでの緊張が解けていくのが分かった。


 クルスも慣れて来て、ガイアナの背中をそっと押す。

 クルスの意を感じ取ったようにガイアナ姫がターンする。


 フレアスカートが花びらみたいに舞う。


「クルス、じょうず!」

「ありがとう」


 ガイアナ姫がクルスのリードでステップを踏む。

 頬を紅潮させ、軽いステップで飛び跳ねるガイアナ姫は可愛くてとても綺麗だった。

 ガイアナ姫の残像に囲まれたクルスは、美しい万華鏡の中にいる様な気分になった。


 普段、お転婆なガイアナ姫。


 だが、さすが、貴族。


 しっかりとダンスのたしなみを持っていた。


 クルスはステータスを確認した。


 ダンススキル『ジルバ』を身に付けていた。



「ダンスって楽しいでしょ?」

「ああ」

「じゃ、次はワルツ教えてあげる」


 ガイアナ姫の言葉に、応えるかのように曲が変わった。

 スローテンポでロマンティックな三拍子の曲が流れだす。


「イチ、ニ、サン。イチ、ニ、サン……」


 ガイアナ姫のカウントでクルスはワルツを踊る。


「あ、ごめん」

「大丈夫」


 ガイアナ姫の足を踏んでしまった。

 だが、彼女は笑顔で首を少し縦に振った。


「ねぇ、クルス」


 白銀の長い髪を揺らしながら、ガイアナ姫がクルスを見つめる。


「今からパルテノ村を案内してよ」

「え……でも」

「大丈夫。そっと抜け出してもバレないから」


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る