第8話 式神とわらび餅
不思議だぞう屋のお客様は、大半が女性なのだが、たまに男性がお一人で来られることがある。僕の陰陽師仲間の中田さんはその一人だ。
陰陽師というと、映画などのイケメンの安倍晴明をイメージするところだけど、中田さんは、僕とほぼ同じくらいの年頃で痩せていて、少し額が後退している、飄々としたおじさんだ。
僕も然り。世の陰陽師のイメージからは遠い。陰陽師の仕事をする時は、ちょっと着物っぽい衣裳でも着たらどうか。少しは「らしく」見えるかもしれないなどとからかわれている。
陰陽師といえば安倍晴明が式神を使ったことが有名だ。
実は僕にも式神がいる。
僕に昔から式神がついていたと分かってから、中田さんも式神がほしくなったらしい。せんだって京都の晴明神社に行って、一条戻橋でお願いをしてきたと言う。
今日はその時の京都土産を持って久しぶりにやって来た。
カウンターの端と端で久美子さんと中田さんが僕を挟んで話をしている。
こういう方が来ている時は、他のお客様が来ないから面白い。思いっきりこの手の話ができるというものだ。
「見える」人に言われたところによると、
僕の式神は、子供の時からついていたという華さん。子供の頃よく野山を駆け回って遊んでいたからか、野草の精霊のようなものらしい。
他にも、陰陽師になってから自分で作った式神が何体かと、いつからか来てくれた、これらの式神のとりまとめをしてくれている
この華さんと翳さんは式神と言っても、物語にでてくるような意思のない‘’物‘’ではないので、結構自由に自分の考えで動いているらしい。時折出かけて、いないこともある。
そんな僕の式神さんの話をしていると
ふと中田さんの足が目に入った。
「中田さん、足に白い蛇が巻き付いてるよ」
「えっ?」中田さんが慌てて足を見る。
「 そうか、昨日からなんだか足が痛いような痺れるような感じがしていたんだよね」
「白い蛇だから、悪い物じゃない。仕事したいって言ってるね」
「仕事かあ、、、私の整体の手伝いをしてもらうかな」
「ふんふん、この子、10歳くらいの男の子の姿だね。流れを良くすることができるって言ってる。式神になりたいって」
早速のご利益。晴明神社すごいなあともちきりになる。
「ぴったりの名前をつけて欲しいと言ってる」
さあ、どうしよう。
久美子さんもすっかり話に入って、三人であーでもないこーでもないと案を出しては漢字を探す。
結局中田さんが最初に出した瀧のイメージから「早瀬」とすることになった。
中田さんは、早瀬が言っていることはまだ分からないけれども、心が通い合ったらだんだんにわかるようになるだろう。しばらくは僕が、‘’通訳‘’だ。
「施術を手伝ったら、生卵がほしいそうだ。」やはり蛇なんだなあと中田さんは少し引きながらも、生真面目にメモをとっている。リアルでは蛇が苦手なんだそうだ。まあ、普段は可愛い10歳の男の子の姿をしているんだしと自分で自分に言い聞かせているのが可笑しい。
「滞りを流してくれる力のある助っ人、良かったじゃない。今日からあなたは式神使いの整体師!」
と茶化すように言うと、まんざらでもない様子だ。
久美子さんが、
「流れを良くする式神さんなんていいなあ、私にもついて来ないかしら。なんか子供の時にいた‘’私にしか見えないお友達‘’みたいで楽しそう」
と羨ましがっている。
チリリン
「あらまあ、なあに? とっても楽しそうねえ。笑い声が外まで聞こえてましたよ」
と圭子が目を丸くして入ってくる。
「中田さんに式神ができたんだよ」
「それはそれは! おめでとうになるのかしら? どんな式神さんなの?
その式神さん、わらび餅好きかしら?ちょっと作ったので持って来たの。みんなで食べましょうよ」
では、と中田さんの横の席に早瀬の分もわらび餅の器を置いて、みんなで食べる。
ひんやりして、ぷるるんとした食感。きなこの淡い甘さが懐かしい味だ。早瀬もまあまあ好きだと言いつつ、それより添えた緑茶のほうが気に入ったらしい。どうやら辛党のようだ。
早瀬の分はしばらく待ってから、僕がお腹に収めた。
二人を送り出すと、圭子と店の片付けを始めた。
「中田さんも陰陽師のお仕事されてるの?」
「いや、仕事としてはなかなか。本業の整体の方で手一杯みたいだよ。式神も来たことだし、もっと忙しくなるかもな。
だいたい、世の中には陰陽師って名乗ってるいかがわしいのも多いからね。困ったもんだよ」
「見えない世界のことですからねえ。あなたもお仕事が来てありがたいことですけど、あまり怖いのは引き受けないでくださいよ」
「はっはっはっ。本当だな。お祓いなんか前面に出したら怖い話がたくさん来そうだ。勘弁勘弁。」
実は一つ、今依頼が来ている話が井戸がらみで結構厄介そうなんだが、これは圭子には言わないでおこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます