耽美

ゴシック

第一章

「芸術は終わったんだ」


 仄かな寒気が哀しみを秘めて肌に触れる晩秋の真夜中、周囲を山に囲まれた盆地にあるこの村は白い夜霧に深く沈み、静寂の音を鳴り響かせている。不思議に風は止み、獣一匹の声もなかった。妖しい月光は雲に遮られ、暗闇が落とされた山々の稜線と夜空の境は曖昧にとけあっている。こんな夜には誰しもが胸底に寂寥感を積もらせ、朝焼けに満ちた大空を待ち望む。


 駄目だ。


 夜は明けそうになかった。遠くの夜空には星屑が煌めいていたがそれはあまりにも遠すぎる。救いのない終末の様だ。だが、そのことを知っているのは少年乃木ただ一人であった。この深夜に彼は今詫摩山の頂上にいる。この巨人に切り倒された大樹の伐り株の如き山は人々の不幸を重ねたものであった。つまるところ、愚者には低く見え、賢人には遥かな高さをもって迫るのだ。


 乃木は雑草に仰向けに倒れ、黒い涙を流していた。彼の伸ばす手の先には星屑があり、彼のみが最もその行為が徒労であることを解していた。絶望に蝕まれ、蠅にたかられる少年の肉体は死んでいた。彼の灰色の瞳にはもう何も映っていなかった。彼は彷徨いの末にここにたどり着いたのであった。あぁ、しかしこの健気な少年は心の中ではまだ祈っていた。彼は世界を拒絶していた。


 Ziggyだ。いつの日かZiggyがあの空の彼方から光を振りまいて地上にやってきて、僕たちを救ってくれるんだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る