意味
あるとき俺は、1人の女性と付き合っていた。名はナギ。ナギはとてもかわいい娘で、俺にはもったいないくらいの女性だった。俺はナギのことが好きだった。今だからこう言えるが、付き合っていたときはそう思っていなかった。俺がナギと付き合っていたのは、「彼女がほしかったから」だ。好きだから、じゃない。それでもナギと一緒にいるのが楽しいときもあったし、気分のいいセックスもした。白々しく駅で待ち合わせなんかして、遠方へ出かけることなんかもあった。だからこう思うんだ。彼女と一緒にいた時間には、ちゃんと意味があったって。でも、俺には所詮むずかしいことだったのかもしれない。結局おれは、彼女の前で1度も”ぼく”という仮面を脱がなかった。いや、脱げなかった。勇気がなかったんだ。本当の自分を見せたら、きっと彼女は俺を受け入れないだろう。ただただ俺は、捨てられるのが怖かった。人間に飼われている動物なんかはそんな気持ちなのだろうか。そう思うと、あいつらもけっこう苦労しているんだなと思った。
ナギはある日、突然おれの前からいなくなった。俺は四六時中泣いた。たぶん人生で1番泣いたであろう。ナギと一緒に通った道、ナギが使っていた歯ブラシ、ナギが座っていた部屋の中。すべてが俺を苦しめる材料になった。俺はわんわん泣いた。一生分の涙が流れた気がした。でも内心ではわかっていた。俺はこの苦しみから逃れるために泣いているんだ、と。泣くためにその材料を探しているんだと。人生の一大事のはずなのに、どこか冷静にそう思う自分がいた。それはなんかすごく、人間の嫌なところのように感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます