旅(仮)
山田
物語のない男
なにもかもを壊したかった。保守的な俺には無理な話かもしれないけど、それでも俺には理想とする自分がいた。なりたい自分が。
子どものころはそんなことなかったはずなんだ。もっと活発だったし、今よりかは堂々としていた。でもだんだん歳をとるにつれて、自分が自分じゃなくなってきたような気がするんだ。そもそも”自分”っていうものの定義が難しいけど、俺が俺でない気がした。本当の俺は硬い殻の中にひきこもっていて、他人に見せる顔は、いうならば接客用の自分。ぼく。ずっと僕をやっているうちに、だんだんと、それが自分なんだと思うようになってきた。それは人付き合いに不和が生じないための僕で、本当の自分ではない気がしたんだ。今やもう、その本当の自分とは目で見えないくらいに離れてしまった。いや、闇だ。闇の中にいるひきこもっている自分を、見つけることができなくなってしまった。「なにを思春期の中学生みたいなこと言ってんだよ。」と思う人もいるかもしれない。でも俺はそうだ。こんな歳になっても未だに、思春期の中学生のままなのだ。
俺の人生に「物語」のようなものはない。なぜならばすぐ忘れてしまうから。今この瞬間を1枚の白い紙に書いてはいるけれど、用が済めばそれをゴミ箱に捨ててしまう。だから俺は何も積み重ねてなどいない。俺の人生に物語なんてものはないんだ。
ではこうしてはどうだろうか。ここに物語を作り上げるのである。どんなに稚拙なものだっていい。それが自分の物語ならば、そこに価値は生まれるのではないか。そうか。やってみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます