3 デブと言われてキレたら、やりすぎて…
「あの、金龍鶏の卵を分けてほしいんだけど。」
プリムラは、倒れている村長に向かって、優しく頼み込んだ。
その言葉に、村長と若者は唖然とした。
いま、この状況がわかっているのか、という表情だ。
気まずい雰囲気が流れる。
「えっと、言葉がわかる?金龍鶏、卵、ほしい。」
プリムラは、単語とジェスチャーで自分の意志を伝えようとすると、村長はその事に気が付き、ゆっくり立ち上がると苦笑を浮かべた。
「言葉はわかります。」
「ああ、よかった。」
プリムラが安心したような顔をしたが、村長と若者は、養鶏場にいる魔人を横目に首を横に振った。
「申し訳ありません。金龍鶏の卵はありません。」
「ない?一個も。」
プリムラが首を傾げる。
「ええ、卵も金龍鶏も全部、持っていかれました。」
「持っていかれた?あの人たちに?」
プリムラが、養鶏場で金龍鶏を次々と籠にいれている魔人を指差して、質した。
「そうです。」
「魔王に差し出すために、全部持っていくんだそうです。」
若者が不満げに魔人たちを睨んだ。
「別に全部持って行かなくてもいいでしょうに。」
プリムラは、少しため息をついた後、その魔人たちのほうへ歩き始めた。
「あの、どこへ行くんですか?」
「もちろん、卵を分けてもらうのよ。」
村長の問いに、プリムラは笑顔で答えた。
その答えに二人は絶句した。
後ろにいるティエラはため息をついた。
「全部、詰め終えました。リゴルさん。」
残った金龍鶏を全部籠に詰め込んだ魔人二人は、上司格の魔人を振り返って報告した。
「よし、ザイラス様のところへ運べ。」
「はい。」
二人がリゴルと呼ばれた男の命令で、籠を運ぼうとした時だった。
「あの、すみません。」
リゴルの後ろから声が掛かった。
それに反応して振り返ると、後ろに白と黒のゴスロリ調の服と、白いエプロンを纏った
しかも、かなり
「だれだ?おまえは。」
「すみません。その金龍鶏の卵を分けてもらえませんか?」
唐突な申し出に、リゴルは一瞬戸惑った。しかし、すぐに尊大な態度を見せながら、自分の前に立つプリムラをジロジロと見つめた。
「いま、なんて言った?」
「ですから、金龍鶏の卵を分けてほしいと。」
プリムラは愛嬌のある笑顔を見せて、再び頼んだ。
「ああ、金龍鶏の卵。分けてやるものはないな。」
「でも、そこにあるのは金龍鶏の卵ではないですか?そんなにたくさんあるんですから、少しくらい分けていただいても。─お金は払いますから。」
プリムラは、魔人たちを前にして、すこしも臆することなく、自分の要求を頼み込んだ。
それを後ろで見ている村人のほうが、ハラハラしていた。
「おい、いいか、よく聞け。ここの鶏と卵はすべて魔王バキュラ様に差し出す捧げものだ。残った鶏もザイラス様の命令ですべて運ぶところだ。おまえに分けてやるものは一個もない。さっさと帰んな。このデブ。」
最後の言葉にプリムラのこめかみがピクンと反応した。
「足元の明るいうちに帰んな。デブねえちゃん。」
後ろに控える魔人二人も嘲笑をあげて、追随した。
それを聞いて、プリムラのこめかみがさらにピクンと反応する。
それを見たティエラは、不吉な予感を感じ、前にいる村人に声をかけた。
「ここから離れた方がいいですよ。」
その言葉に、村長と若者は魔人が暴れ出すというふうに解釈し、二人は関わりあうのを恐れ、自分の家へ逃げていった。
それを見送って、ティエラは自分の周りに
「いま、デブって言ったわね。」
プリムラがポツンと呟いた。
「怒ったのかい?デブねえちゃん。」
二人の魔人がリゴルの前に出て、プリムラを威嚇した。
「死にたいようね。」
「あん?なんか言ったか?」
片方が耳に手を当てた瞬間、プリムラの指が鳴った。
「ダークランス(闇の魔槍)」
二人の魔人の影が揺らいだ瞬間、その影から鋭い切っ先が槍のように突き出し、一瞬で二人の魔人を股間から口へと突き抜けていった。
まさしく串刺し状態となって、二人は絶命した。
それを目の当たりにしたリゴルは、言葉が出ず、身体を硬直させる。
「そのあほみたいな口を閉じなさい。」
そう言うとリゴルの目の前で指を鳴らす。
「ダークランス(闇の魔槍)」
リゴルの足元の影から黒い槍が突出する。
それをリゴルは間一髪で躱すと、後ろに飛び退いた。
「てめえ!何もんだ!」
リゴルが腰に装着した剣を抜いた。
「あんたなんかに名乗る名前はないわ。」
そう言うとプリムラは、人差し指を立て、そこに黒い小さな炎を灯した。
「ブラックフレア(漆黒の獄炎)」
黒い小さな炎がリゴルに向けて飛んでいく。それを見て、リゴルがその炎を消し去るべく、剣を振るった。
炎は剣に触れると、爆発するように燃え広がり、リゴルだけでなく、養鶏場も巻き込んで燃え上がった。
「ぎゃあああああ ── !」
黒い炎は炎の柱と化し、リゴルや養鶏場を巻き込み、さらにその高さを増していった。
巻き込まれたものは、あっという間に消し炭になり、やがて、燃える物がなくなったのか、黒い炎はゆっくりと鎮火していった。
「ふん、おろかものめ。」
「おろかものは、プリムラの方じゃない。」
「なんですって。」
後ろから歩み寄ってきたティエラに向かって、プリムラは睨みつけた。
「だって、肝心の金龍鶏も燃やしてしまったではないですか。」
ティエラの指摘に、プリムラははじめてそのことに気付き、急いで金龍鶏の入った籠を探した。
灰の中に籠の燃えカスと、金龍鶏だった物体を見つけたプリムラは、青ざめた顔でその場に座り込んだ。
「どうしよう。」
途方に暮れた顔のプリムラを冷めた目で見下ろすティエラは、深いため息をついた。
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その様子は、丘の上のおれの目にも届いた。
「やっちまったな。プリムラ。」
黒い炎の柱を見たおれは、それをやった張本人がだれか、即座に思いあたった。
「なんか、すごいことになってるね。パパ。」
おれの横でローザは楽し気にしゃべる。
「なにをしているんでしょうね。プリムラは。」
おれの後ろで、アウローラは呆れたような顔で、両手を上げて首を振っている。
(おまえがいうな。)
おれの心の叫びが、口から出そうになるのを、おれは必死に堪えた。
「肝心の金龍鶏の卵は大丈夫かしら?」
馬車の屋根の上でアリスが、不安の一言を口に出した。
そうだ。金龍鶏の卵はだいじょうぶか?
おれはいてもたってもいられず、村のほうへ歩いていこうとした。
「ご主人様、どちらへ?」
「村だ。金龍鶏…、いや、プリムラたちのことが心配だ。」
「わざわざご主人様が行くほどのことではありません。アリス、見てきてくれない?」
屋根の上のアリスに指図すると、「は~い」という軽い返事とともに、アリスは宙を飛んでいった。
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