からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人たち

甲陽 明

はじめに言っておくが…

 はじめに言っておくが、おれは転生者ではない。

 どこかの世界の人間が刺されて、異世界の生物として転生し、のちに魔王になるとか、どこかのゲームのプレイヤーがいつのまにか、NPCとともに別の世界に転生し、マスターとして世界征服に乗り出すとか、そうしたものとはちがう。


 おれは、世界ができた時から魔王だ。

 いや、だった。


 別になりたくてなった訳ではない。

 押し付けられたかのように、いつの間にか魔王になっていたのだ。


 それでも、はじめはおれも魔王らしく、がんばったよ。

 世界征服とか、神に対抗するものとか、人間たちの恐怖の対象とか、まじめに頑張ったさ。

 そして、神に祝福され、いろいろな仲間や種族に助けられた勇者と戦い、見事に打ち取られたよ。


 そしたら、また魔王としてがんばってだってさ。

 だから、復活してまた魔王として君臨し、そして、再び勇者が出現して、おれを倒す。

 それを何度も繰り返した。

 忘れるほど。


 しかし、もういやだ‼


 考えても見ろよ。

 無限と思える時の流れの中、ほめられることも尊敬されることもなく、無償で魔王として働いてきたんだ。(もはやボランティアと言っていい。)

 いい加減、いやにもなってくる。


 だから、おれは、なにもかも打ち捨てて、勝手きままに暮らすことに決めた。

 幸い、他の魔王も誕生してきているから、おれがいなくてもこまることはない(─はずだ)。



 おれだけの城を築き、ひとりだけじゃあさびしいから、魔王時代の愛人五人を引き連れ、いろんな作業をしてくれる使役者ゴーレムを作り、そこに引きこもった。


 その日からおれは、「からっぽやみ」(注)な生活をはじめたんだ。


 毎日、食べて、寝て、本を読んで、運動して、勉強して、瞑想ぼうっとする。そんな退屈な毎日を心から楽しんだ。

 俺の決断はまちがっちゃいない(─と思う)。






 そうしてそこそこの時間ときが流れた。


(注)「からっぽやみ」とは、異世界の東北地方の方言で、「怠け者」とか「ぐうたら」とかいう意味である。

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