最終話 皆も転移する時は気を付けよう!
ここはどこだろう?
俺はまるで雲の上で寝ているかのような感じがしている。
視界に入ってくるのは白い色だけ。
他は何も見えない。
身体を動かすこともできない。
なんだこれ?
…………いや、夢か。
俺はトカゲに餌をあげていたはずだ。
こんな雲の上っぽいところでは寝ていない。
って、またかい…………
女神様ー!
『はーい』
つかぬことをお聞きしますが、ここは天国です?
俺、トカゲに食べられて死にました?
『いえ、死んでませんよ。あなたはすぐにペッと吐き出されて気絶しています』
吐き出すくらいなら食べるなや!
いや、食べられても困るけども!
『あなたはサラマンダーに相当、信用されてませんね。ビーフジャーキーをくれないんだって、拗ねてます。意地悪されたと思われていますよ』
えー……
少しは待てよー。
これはウンディーネちゃんの加護のせいかな?
『ウンディーネが冤罪だと怒っています』
ウンディーネちゃん、俺に何かをしてくれた?
『あなたがこっちの世界に来て、生水などからお腹を壊すのを防いでくれてたんですよ』
地味にすげーな。
そういえば、俺の人生で食あたりは一度もない。
というか、風邪も引いたことがない。
ウンディーネちゃん、ありがとう!
『いえいえーですって……単純だな』
俺もちょっと思う。
『それにしても、あなたはよくやってくれました』
まだ終わってなくね?
『いえ、もう終わります。今、レティシアが一人でビーフジャーキーをやりながら祈っています。そのうち、サラマンダーも落ち着くでしょう』
最初から一人でやれよ……
俺、何もしてなくね?
『実際、この男、口だけで使えないわねーって愚痴ってますね』
従妹、ひどい。
ぐうの音も出ないけどね。
こんなんで良かったんですか?
『あなたに一番頼みたかったのはレティシアの成長です』
成長?
まあ、精霊の扱い方は教えてやったし、トランプを使った詐欺師テクニックも教えてやったな。
『それではありません。精神的な成長です。あの子は転生というイレギュラーでこの世界に来ました。本来ではありえないのですが、彼女はトラックに轢かれ、死ぬ直前にこっちの世界に転移したのです。そして、すぐにこっちの世界で死にました。私はあまりにも不憫だと思い、肉体を元の世界に返し、魂だけをこっちの世界で転生させました。王族にし、心を読むという破格のギフトも与えました』
なるほど。
『だけど、それはあまりよくないことでした。王族ともなると、敵も多いかなと思い、彼女に心を読むギフトを与えたのですが、彼女はそのせいで人を信用しなくなりました。彼女は両親とイレーヌ以外は兄弟姉妹でも信用しなくなったのです』
兄弟姉妹もなのか……
だから、あいつから兄弟姉妹の話を聞かなかったんだな……
次期王様争いとかかね?
『いえ、そういうのではないのですが、兄弟姉妹は親とは違い、必ずしも無償の愛を与えるものではありません。嫉妬することもありますし、ケンカをすることもあります。所詮は子供ですからね。その辺の折り合いが良くなかったんです』
俺は一人っ子だからよくわからないが、確かにガキなんてそんなもんだろうな。
心を読むデメリットか……
そう考えると、イレーヌさんってすごいんだな。
『イレーヌも良かったですが、それ以上にあなたが良かった。あなたはすぐにギフトを看破し、彼女に騙されるということを教えました。それは悪い意味でもあり、良い意味でもあります。そして、あなたはレティシアに親身になってくれました。あなたはレティシアから信用を勝ち取ったのです。知っていますか? 彼女はあなたと会ってから心を読むということをやめたのです』
何が良かったんだ?
唐揚げか?
『まあ、それもですね…………私はあなたにレティシアの精神的支柱になってほしかったんです。そして、あなたは私の期待に応えてくれました。感謝します』
俺は母親とは違うのだ!
『結婚したのが良かったですね。人は良い人と一緒になると成長するものなんですねー。あのソフィアですら自分よりもあなたや旦那さんを優先します』
母さんはともかく、まるで結婚する前の俺がダメみたいな言い方だな……
『フィリアから金を巻き上げようとしたのは誰ですか? ヘイゼルから魔法を搾取しようとしていたのは誰ですか?』
めっちゃ人聞きが悪い!
『実際、そうじゃないですか……それなのにあなたはお金や魔法よりも当人達が欲しくなったから騙すのをやめて、一緒になったのでしょう』
いやいや!
親交を深めている内に良い感じになったんですよ!
言い方に気を付けてください!
『…………まあ、いいです。あなたに2回も祝福をあげたことを忘れないように』
はーい。
感謝しまーす。
あ、妻にも感謝しまーす。
『よろしい。では、あなたに褒美のギフトを授けましょう』
わーい。
やったー。
『考えたんですが、あなたには転移を授けます』
ん?
転移?
父さんのルー○?
『ルー○です。あなたに与えるとロクなことがないと思って、制限付きでスマホのアプリにしたんですが、不便でしょう?』
まあ、24時間の充電期間が特にね。
『ですので、完全版の転移を授けます』
うーん…………
『あれ? 不満です?』
いえ、そういうわけではないのですが…………
『何でしょう?』
それ、レティシアにあげてくれません?
俺はスマホでいいので……
『何故です?』
あいつ、あんな何もないところでこれからの一生を過ごすんですよね?
キツそうだし、転移をあげてくださいよ。
『彼女はすでに心を読むギフトを与えています。ギフトを2つ持つことは許されません』
じゃあ、そっちは捨てちゃってください。
使ってないみたいだし。
『あなたの転移とレティシアの心を読むギフトを交換しますか? そうすれば、心を読むギフトが手に入りますよ?』
さっきのレティシアの兄弟姉妹の話を聞いて、要ると思います?
妻の愚痴なんか聞きたくないですよ。
『リヒト…………あなたは本当に成長しました。自分以外をまったく信用せず、神ですら金儲けの材料としか思っていなかったあなたがここまで成長するとは…………クソガキの子はクソガキだなと思っていた自分が恥ずかしい』
クソガキって…………
『よろしい。いいでしょう。では、レティシアのギフトを没収し、転移のギフトを授けます』
ありがとうございます。
『もし、あなたが将来、新たなる祝福を欲した場合、いくらでも授けましょう』
それはいりませーん。
フィリアとヘイゼルと仲良くしまーす。
『そうですか…………3人で仲良くするのはいいことです…………あ、いや! そういう意味ではないですよ!』
いいからさっさと元の世界に返せや、ムッツリ女神!
◆◇◆
俺は目を覚ますと、レティシアが俺の顔を覗き込んでた。
「何してんだ?」
俺は起き上がると、レティシアに聞く。
「いや、あんたが何してんのよ。早々に気絶しちゃってさ」
「女神様に呼ばれてたんだよ。それよか、サラマンダーは?」
周囲を見渡したが、でかトカゲの姿は見えないし、強力な力も感じない。
「ちゃんと小さくしたわよ」
「そっか……もはや俺が教えられることはないようだ」
免許皆伝だな!
「まあ、あんたは寝てただけだしね。それよりさー、なんか心を読むギフトが消えて、転移のギフトが使えるようになったんだけど? あんたのお父さんと同じやつ」
そういえば、ギフトをもらえたらわかるんだったな。
「女神様のご褒美だ。良かったな」
「…………これ、あんたのじゃない?」
「俺にはスマホがある。お前に物資をいちいち補充するのはめんどいから自分で買いにいけ」
「そう…………ありがと」
「感謝は帰りのタクシーで頼むわ。馬車はもう勘弁よ」
当分は乗らない。
アルトの町で日帰りの仕事をやろう。
「私も馬車はもういいわ」
「だよな。あー、疲れた」
「いや、だからあんたは寝てただけじゃん」
「お前、それを他のヤツらに言うなよ。俺の救世主のイメージが崩れる」
特にフィリアとヘイゼルには言わないで。
「まあ、いいわ。戻りましょう。暑いわ、ここ」
俺とレティシアは来た道を戻り、教会へと戻る。
教会に戻ると、ローガンと共に修道女のおばさんにイレーヌさん、そして、フィリアとヘイゼルが待っていた。
俺とレティシアが後始末を終えたことを説明すると、ローガンと修道女のおばさんが感謝をしてくる。
俺は2人に今後、レティシアを頼むと伝えると、帰ることにした。
「よっしゃ、終わった。さあ、お前のルー○を見せてくれ」
「何それ?」
ヘイゼルが首を傾げる。
「レティシアは父さんと同じ転移が使えるようになったの。それで俺らは帰れる」
「おー、やったー!」
ヘイゼルは喜んでいる。
かわいいヤツだ。
「それって、リヒトさんがもらえるはずのギフトじゃない?」
今度はフィリアが聞いてくる。
「あげた」
「いいの?」
「そっちがいいだろ」
「ふーん……リヒトさんがそう決めたならそれでいいよ」
フィリアがニヤニヤしながら俺を見る。
かわいい……かな?
いや、かわいい!
「では、使命を終えた我らはここで失礼をします。おい、タクシー、アルトの家までよろしく」
俺はそう言いながらレティシアの頭に手を置く。
フィリアとヘイゼルもそれぞれレティシアの肩に手を置いた。
「私のあだ名がタクシーになりそうな予感がするわね。未来視で見なくてもわかる…………行くわよ。ルー○!」
レティシアはブツブツと文句を言っていたが、魔法名を言い、転移した。
俺達の視界は一気に教会から10日ぶりの我が家に変わる。
もちろん、天井に頭をぶつけることもなかった。
「おー! 本当にできた! 私は転移使いの巫女なのね!」
レティシアは思いのほか、喜んでいる。
「いやー、帰ってきたなー。本当に便利だわ」
「あの、ありがとう…………」
レティシアが感謝してきた。
「まあ、大切に使え」
「そのこともだけど…………今まで、ありがとう。私はレティシアとして……巫女として、生きていく。あんたのおかげよ…………本当にありがとう」
レティシアが頭を下げる。
俺はそんなレティシアの頭に手を置いた。
「俺の心が読めるか?」
「読めない」
本当に心を読むギフトは消えたようだ。
「だろうな。まあ、気にするな。血を分けた従兄妹じゃないか…………かわいい妹よ、頑張れ」
「うん、頑張る…………私の方が年上だけどね」
「自分でそれを言うか…………28歳」
「やっぱり妹で! 10歳だから!」
今度、お姉ちゃんって呼んでやろう。
「わかったからさっさと戻れ。イレーヌさんがボッチになってるだろ。あと、ビーフジャーキーを弁償してこい」
「それがあったわね…………じゃあ、帰るわ。あんたらも元気でね」
レティシアがフィリアとヘイゼルに手を振る。
「殿下、頑張ってください」
ヘイゼルは姿勢を正し、頭を下げた。
「レティシア様、今度、お祝いしましょう。私、作りますんで」
フィリアがニコッと笑い、提案する。
「それはいいわね。じゃあ、落ち着いたらまた来るわ。ばいばーい!」
レティシアは俺達に手を振りながら転移を使い、消えていった。
「行っちゃったね」
フィリアがポツリとつぶやく。
「あいつなら大丈夫だ。転移もくれてやったし」
「そうね……」
フィリアは笑顔で頷いた。
「それよか、ようやく終わったわねー。私、疲れちゃった」
ヘイゼルが腕を上に伸ばしながら言う。
「だなー。ロストに向けて出発してからめっちゃ長かったもんな。ようやく落ち着ける」
あれから2ヶ月近く経っている。
まったく……新婚の貴重な時間を使っちゃったぜ。
「どうする? あっちの世界に帰る?」
正直、汗をかいてしまったから風呂に入りたい。
でも、その前にやることがある。
「はい、こっちー」
俺はフィリアとヘイゼルの腕を掴み、ソファーまで引っ張っていった。
「あんた、本当に好きよね」
「お風呂に入ってからにしない?」
俺は2人をソファーに座らせると、文句を言う2人の口を塞ぎ、黙らせることにした。
女神様も3人で仲良くすることは良いことって言ってたから仕方がないよね!
……
…………
………………
……………………
「あのさー、やっぱお祝いを今夜にしない? イレーヌが脂っこいもんを食べたいって…………」
レティシアが急に転移してきた。
そして、俺達を見て固まった。
「ご、ごめんなさい!!」
レティシアは顔を真っ赤にし、すぐに帰っていった。
女神様に転移のギフトを没収してもらうように頼むか…………
~Fin~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます