第060話 まあ、平和な仕事がいいよね
肉屋に氷を売り、金貨12枚をもらった俺達は西区にある冒険者ギルドに向かった。
ギルドに着くと、時刻は3時だったため、まだ他の冒険者達は仕事から帰ってきておらず、閑散としていた。
まあ、いつものことだ。
俺達はひとまず依頼票をスルーし、受付にいるガラ悪マッチョの所に行く。
「おーす! 休暇を満喫できたかー?」
受付に行くと、ガラ悪マッチョの方から声をかけてきた。
「まあなー。今日からお前に優しくしようと思うわー」
俺がそう言うと、ガラ悪マッチョが俺の後ろにいるフィリアとヘイゼルを見る。
「俺もお前に優しくするわー」
同士よ!
「どういう意味?」
「ちょっとムカつくよね?」
怖いからスルー、スルー。
「それでさー、何か仕事ない? フィリアも復帰して一緒にやるんだけど」
「あー、砂糖は捌き終わったんだったな。フィリア、クランは?」
フィリアは大陸一の巨大クランに所属しているので、その確認だろう。
「話はしています。まあ、特に何かを言われることはなかったですね。ただ、おめでとうです」
「あー……まあ、あそこはその程度か……今後はこの3人での活動か?」
「いつもじゃないですけどね。私は教会の仕事もあるし、商売の仕事もあるんで」
フィリアって働き者だよなー。
昼間からここで酒を飲んでいる俺とヘイゼルの肩身が狭いよ。
「まーだ、何かをやるつもりか?」
「まだ何も考えてませんけど、お金がいるんですよ」
結婚するし、お金はいくらあっても困らない。
貯金が欲しいというのは俺も同意するし、商売をするのは賛成だ。
だからフィリアと一緒に考えているところである。
「それもそうか。まあ、わかったわ。ただし、アンナやミケにちゃんと言えよ。お前らはよく組んでただろ」
「わかってます。というか、あの2人は今どこです?」
「アンナはまだ帰ってない、ミケは昨日、戻って来たらしいぞ。そのうちギルドにも顔を出すだろう」
おー、猫ちゃんが帰ってきてるってさ!
遊んでやろう。
「ミケに会うのも久しぶりだなー…………でも、アンナは遅いな……」
アンナは上手くやったかねー?
「まあ、そのうち戻ってくるだろ。それでどうする? 何の仕事をするつもりだ?」
ガラ悪マッチョが受付の仕事をしだす。
今さらだけど、受付ってギルマスの仕事か?
「それそれ。いいのない? なければ採取する」
「まあ、採取でもありがたいんだがなー…………一応、聞くけど、泊まりは?」
ガラ悪マッチョがわかりきったことを聞いてくる。
「やだ」
「私、布団がないと眠れないの」
「私は別にいいけど…………」
俺とヘイゼルが難色を示し、フィリアは問題ないらしい。
「賛成1、反対2。反対が多数の為、却下されましたー」
「別にいいけど、ヒーラーが一番乗り気なパーティーを初めて見たぜ」
俺は温室メロンなの!
いや、メロンは貴族であるヘイゼルか……
庶民の俺は温室キュウリでいいや。
「マジで言うと、俺らは遠距離攻撃しかできんから奇襲に弱い。夜襲を食らったら終わる」
「あー……斥候もいねーしな。お前が似たようなことを出来るかもだけど、体力もなさそうだし」
「そうそう。だから日帰りがいいわけ。何かない?」
「うーん、まあ、調査かねー?」
調査かー。
この前みたいなやつは嫌だけど、基本、簡単だし、それかなー?
「調査の仕事があるのか? 日帰りだぞ」
「まあ、あるな。ちょっと整理するから今日は…………いや、明日か。明日は採取してこい。採取の仕事をするヤツがあんまいないんだよ」
薬草や黄金草はともかく、毒草は専門的な知識とかいるしなー。
ヘイゼルみたいに詳しくないと厳しい。
「じゃあ、明日は採取してくるわ」
「そうしろ。お前らが3人で組むのは初めてだろ? 慣れた仕事で確認しながらの方がいいぞ」
おー! ホントだ!
さすがはギルマス!
良いことを言うなー!
「わかったー。お前らもそれでいいか?」
俺はフィリアとヘイゼルに確認する。
「そうね。いいと思う」
「採取なら慣れたもんだし、そうしましょう」
2人も賛成らしい。
「じゃあ、明日は採取してくるわー」
「頼むわ。話は終わりか? 酒か?」
ガラ悪マッチョは俺らを酒ばっか飲むダメ人間と思ってるふしがあるな。
「飲むー」
ウチのヘイゼルちゃんが即答した。
「ヘイゼル、お前は家の片付けがあるだろ」
「あ、そうだった…………ギルマス、キャンセルね」
ヘイゼルは酒の注文を取りやめる。
「俺は関係ない…………こともないので、ヘイゼルを手伝おうかな」
酒を飲もうと思ったが、ヘイゼルが『え?』って悲しい顔をしたのでやめた。
「あ、ごめんけど、私は教会に戻っておじいちゃんに話さないと」
フィリアは手伝ってくれないらしいが、まあ、仕方がない。
大事な話だろう。
「いいよ。俺とヘイゼルでやっとくから」
「そうね。そっちが大事でしょう」
「ごめんねー」
「大丈夫、神父様によろしく」
俺とヘイゼルはギルドを出ると、フィリアと別れ、家に戻った。
そして、ヘイゼルの研究室という名の物置部屋で整理を始める。
ヘイゼルの研究道具、本、錬金術に使うらしい器材など、本当に物が多い。
「この部屋にお前のベッドを持ってきて、お前の部屋にした方がいいな」
「そうしようかしら? ってかさ、本当にあんたは自分の部屋はいらないわけ?」
ヘイゼルが手を止め、聞いてくる。
「お前は研究とかあるだろうけど、俺は部屋があってもやることねーもん。そのうち、リビングにソファーを持ち込んでゴロゴロしてると思う」
「まあ、そうだけど、悪いなー」
「いや、マジで言うと、女は部屋がいるだろ。着替えとかあるわけだし」
「あー……なるほど」
ヘイゼルがふんふんと頷いた。
「じゃあ、お前の寝室からベッドを持って来ようぜ」
「そうね。ベッドを置くスペースくらいならあるし」
この家のリビング以外の2部屋は10畳以上はあるし、十分に広い。
逆に言うと、そんなに広いのに狭く見えるくらいにはヘイゼルの物が多い。
俺とヘイゼルは隣の部屋に行き、ベッドを見る。
「重そうだなー……お前の収納魔法で運べない?」
ヘイゼルのベッドは木でできており、重そうだ。
サイズもちょっと大きい。
「無理ね。これを買った時も運んでもらったし」
フィリアと買いに行った時ね。
「しゃーない。そっちを持て」
「ええ」
俺とヘイゼルは何度も休憩しながらベッドを運び出し、汗だくになって、ヘイゼルの研究室まで運んだ。
「疲れた…………」
「休んでろ。マットレスを持ってくるから」
俺は疲れてませんよーって顔をしながらマットレスを取りに行くが、正直、キツい。
5億円を貯めて、魔法袋が欲しくなった。
俺はなんとかマットレスも持ってくると、ベッドに敷く。
そのまま座ってみるが、こっちの世界のベッドの上にマットレスを敷いても柔らかく、十分に寝心地は良さそうだった。
「ヘイゼル、ちょっと寝てみ?」
「うん」
ヘイゼルがベッドに来ると、横になった。
「どんな感じ?」
「うん。向こうのあんたのベッドと変わんないかな。いいと思う」
やはりこの感じでいいのか。
フィリアもこれでいいかね?
「向こうのベッドを持ち込めばいいけど、重いしなー」
「家具屋で買えば、配達してくれるし、設置もしてくれるからこっちでいいと思う。あっちの世界からベッドを持ってくるのは厳しいけど、マットレスくらいなら持てるし」
「そうするかー……後でフィリアに相談だなー」
「そうねー」
俺のベッドはない。
リビングで寝るのは嫌だし、この部屋に2つは置けない。
フィリアの部屋(予定)なら2つ置けるだろうが、ヘイゼルが拗ねるのが目に見えている。
「片付けるかー」
「もうちょっと休ませてー」
「しゃーないなー…………」
俺はベッドに座りながら横になっているヘイゼルの髪を撫でる。
「休憩する?」
ヘイゼルが目線をこちらに向けてくる。
「する」
休憩後、片付けを再開し、夕方にはヘイゼルの部屋を片付け終えることは出来た。
夕方になると、フィリアがやってきたので、ご飯を食べ、お酒を飲み始める。
「じゃあ、あっちの部屋をもらっていいの?」
フィリアがお酒を飲みながらヘイゼルの寝室だった部屋を指差す。
「うん。ベッドは動かしたし、あとちょっと私物が残っているけど、すぐに片付けるから」
「じゃあ、私も少しずつ、荷物を持ち込んでいくよ。今日、泊まってもいい?」
「いいよー」
あ、俺が考えていたヘイゼルの家に泊まる計画がダメになった。
今日は宿屋に決定……
いや、宿屋に不満があるわけじゃないけどね。
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