第043話 依頼と転移
アルトの町を出発した俺とヘイゼルと馬は整備された街道をゆっくり歩いている。
俺は時折り、馬を撫でたり、その辺の草をあげたりしながら楽しんでいた。
「馬がそんなに珍しいの?」
俺が馬の背中をさすっていると、ヘイゼルが聞いてくる。
「俺の国にも馬はいるけど、滅多に見ないな」
テレビではよく見る。
君の所の元王女様が競馬中継ばっかり見てたから。
「馬を見ないの? 移動方法は? 歩き?」
「昔は馬で移動してたみたいけど、今は別の方法だな」
自転車、バイク、車、電車。
本当に色々ある。
「へー。どんなのか見てみたいわ」
この仕事が終わったら見せてあげるよ。
「ビックリすると思う」
「ふーん、あんたも大変ねー。結構、発展した所から来たんでしょ?」
「わかるん?」
「この前の銃もすごかったし、あんたのその服やら水晶玉やら明らかに練度が違うもん」
その辺から推測したのか。
「まあなー。でも、まあ、こっちも楽しいよ。お前やフィリアもいるし」
というか、帰れるしね。
「うんうん! 良いことを言うわね!」
嬉しそうで何より。
俺はそのままヘイゼルと話したり、馬を構いながら歩いていると、ふと、何かを感じた。
「うーん、ちょっと止まって」
「ん?」
俺がヘイゼルに止まるように言うと、ヘイゼルの足が止まり、馬の足も止まった。
俺は剣を鞘ごと抜き、不思議パワーを込めて、倒す。
「あっちだな」
「あっち? 何も見えないけど…………」
「うーん、俺の占いが外れたのかなー?」
これは外れたことがないんだけどなー。
「まあ、行ってみましょ」
「そうするか」
俺達は街道を外れ、そのまま平原を歩いていく。
そして、結構な時間を歩くと、遠くに馬車らしき影を見つけた。
「あれかね?」
「だと思う。また随分と街道を逸れたわねー」
「なーにをしてんだか」
俺達はそのまま歩いて近づくと、遠くで見えた影は確かに馬車だった。
「これで間違いないっぽいよなー」
「馬車が他にあるとは思えないし、ほら」
ヘイゼルが指差した先には馬が横たわっている。
なお、ハエみたいな虫が飛んでおり、死んでいるのはわかる。
「馬がウルフに襲われた隙に逃げたって言ってたし、間違いないな。しかし、こんな所で何をしてたんだ?」
犯罪かな?
「うーん…………あ!」
ヘイゼルはキョロキョロと周囲を見渡していると何かを発見したらしく、走っていった。
そして、しゃがんで立ち上がると、カゴを持っていた。
「何それ?」
「平原キノコよ。これを採取してたのね」
平原キノコ?
キノコってじめじめした所に生えるイメージだけど、平原にも生えるのか。
「何それ? 美味しいの?」
もしくは、やばいキノコ?
「このまま食べてもいいけど、薬になるのよ。そのー、えーっと、滋養強壮的な……」
ヘイゼルの頬がちょっと赤くなる。
「はいはい。そういうキノコね。商人さんが売ろうとして集めたか、自分用かは知らないけど、それを集めるために街道を外れたのね」
まあ、100パーセント自分用だろう。
だって、こんなに街道から外れているのにその説明がなかったんだもん。
説明したくないからあえて、言わなかったのだろう。
「そいつは積み荷にカウントされるのかね?」
「されないんじゃない? 馬車の中じゃないし」
じゃあ、俺達がもらってもいいわけだ。
「じゃあ、もらっておこう」
「え? あんた…………」
その若さで……? みたいな顔して憐れむんじゃない!
「俺は元気だよ!」
試してみるか!?
「そ、そう? じゃあ、いいけど」
「それ、売れねーの? もしくは、お前の錬金術の材料にならないの?」
「うーん、そこまで高いわけじゃないからなー。それにこれは錬金術じゃなくて、薬師の領分よ。私はいらない」
微妙なのか……
「じゃあ、いいや。馬車に放り込んでおこう。馬車の積み荷は大丈夫かね?」
俺は馬車の中に入り、積み荷を確認する。
積み荷は木でできた箱に入っているようで、中身が何かはわからない。
だが、荒らされた様子もないし、多分、無事だろう。
「積み荷は大丈夫っぽいわー!」
俺は外で待っているヘイゼルに報告する。
「オッケー! じゃあ、馬を繋いでさっさと帰りましょう」
「ほーい」
ヘイゼルが一緒に来た馬を馬車に繋ぎ、荷台に腰かけたのを見て、俺も隣に座った。
「行くわよ」
「おー!」
俺達は出発したが、整備された道ではなく、ただの平原を進んでいるのでかなり揺れている。
「ここまでして欲しかったのか……依頼人、何歳だよ?」
「さあ? 若い嫁でももらったんじゃない?」
けっ!
毎晩、お盛んなのかね?
「まあいいや。このまま帰って、さっさと金貨16枚をもらおう」
「そうね。お尻が痛いけど、結果的には楽な仕事だったし」
お前もか……
俺もめっちゃお尻が痛い。
「こんなに楽なら他の仕事も考えてみるか……」
「そういえば、もう一個あったわね」
「結局は同じ馬車の捜索だからなー。やってもいいと思う」
「それもそうね。まあ、他の人に取られているかもしれないし、今度、仕事する時に決めましょう」
「そうするか」
俺達は馬車にかなり揺られながら進み、街道まで戻ってきた。
街道に戻ると、かなり楽になり、馬が歩くスピードも上がる。
俺達は午後を過ぎたあたりで町の東門に到着した。
「お! 随分と早かったなー」
俺達が門に戻ると、馬を渡してくれた門番の兵士が声をかけてくる。
「すぐに見つかったわ。じゃあ、馬車を頼む。俺らはギルドに報告してくる」
「了解」
俺とヘイゼルは馬車から降りると、町に入り、ギルドに向かった。
ギルドに着き、中に入ると、いつものように他の冒険者はおらず、閑散としている。
俺とヘイゼルはガラ悪マッチョの所に行き、依頼の報告をした。
「街道からかなり離れたってマジか?」
依頼の詳細を報告する際に、発見した場所の位置も話したのだが、ガラ悪マッチョが食いついてくる。
「嘘ついてどうすんだよ」
「本当よ。かなり平原を歩いたし、馬車に乗って帰ったわ。おかげでお尻が痛くてしょうがないわよ」
まだ、痛いのか……
さすってやろうか?
「うーん、ちょっと締め上げるかなー」
ガラ悪マッチョが言うと、ちょっと怖い。
完全に輩だ。
「いや、そこまでしなくても……」
「そうよ。何をする気よ」
「いやな、依頼人には正確に状況を説明してもらわないと困るんだよ。今回は見通しのきく平原だったし、お前らはすんなり見つけられるだろうが、これが森とかだったらその情報のせいで冒険者が危なくなるんだよ。ここはきっちりしておかないと、他の冒険者が迷惑だ」
ほう……
なるほどね。
すげーギルマスっぽい。
ただの暇人じゃなかったんだな。
「まあ、そういうことなら」
「確かに困るわね」
俺の場合は占いがあるけど、なかったら1日では絶対に見つからんかっただろうしな。
「まあ、色を付けてやるから報酬は今度な。ちょっと請求してくる」
「頼もしい」
「さすがはギルマスね」
「そうだろう! こういう時くらいは仕事をしないと、俺の居場所がなくなっちまうわ! わはは!」
逆に言うと、そういう時じゃないと仕事をしないのね。
まあ、こいつがすごんだら財布の中身を全部渡しそうな気がする。
「じゃあ、よろしくー」
「おう! お前らはどうすんだ? 明日も仕事をするか?」
「いや、ちょっとこれからヘイゼルと用がある。明日か明後日には顔を出す」
「わかった。また、仕事を見繕っとくわ」
「はいよ」
俺達は本日の仕事を終えたので、酒も飲まずにギルドの外に出た。
「これから家?」
外に出ると、ヘイゼルが聞いてくる。
「ああ。できたらお前の家がいい。大丈夫か?」
「ええ。大丈夫よ」
「じゃあ、行こう」
俺達は北の商業区にあるヘイゼルの家に向かう。
今まではギルドの近くに宿屋があったので、すぐだったが、やはり北区だと遠い。
10分以上歩き、ようやくヘイゼルの家が見えてきた。
「やっぱ遠いなー」
「まあねー。でも、夜は静かでいいわ。前は夜中に酔っ払った冒険者がうるさかった時もあったし」
「わかるわー」
俺が泊まっている宿屋は1階に食堂があり、夜も酒を提供しているため、かなりうるさい。
寝たいのに寝れない時もある。
「そういう意味ではここは悪くないわ。あ、どうぞ」
ヘイゼルの家に到着すると、ヘイゼルが鍵を開け、中に入るように勧めてきた。
俺はそのまま入ると、ヘイゼルに勧められるがまま、昨日座った席に着く。
「何か飲む? お茶とお酒があるけど」
「いや、いいよ」
その言葉は後で俺が言う。
「じゃあ、話って? 隠し事って言ってたけど」
ヘイゼルが対面に座り、本題に入った。
「俺が異世界人なのはわかるな?」
「そりゃね。聞いたし」
「実はな、俺、元の世界に帰れるんだ」
「…………………………ん?」
ヘイゼルは理解できないらしい。
そらそうだ。
「俺は今、フィリアに大量の砂糖の売買をお願いしてる」
「何かやりとりしてたね。ん? 大量?」
ヘイゼルは大量という言葉に疑問を持ったようだ。
「そう。いきなり異世界に転移してきたのに砂糖を大量に持っているわけがない。ちなみに、俺の家は砂糖を売っている所でもない」
「……………………1回戻って、売れそうな砂糖を持ってきた?」
「そういうこと」
ヘイゼルはちょっと抜けているけど、基本的には賢い。
「ごめん。理解できない。帰れるって何? 聞いたこともない」
「お前、前に聞いたけど、魔法学校に異世界人の友達…………知り合いがいたよな?」
「友達で合ってるわよ! あんた、私のことを友達がいないって思ってるでしょ!」
そっかー。
ちゃんといるのね。
「悪い悪い。それでそいつは帰れないってことでいいな?」
「そらそうでしょ。帰れるもんなら帰りたいんじゃない?」
そうかもしれない。
俺はどう思ったのだろう。
ホームシックにかかったか、気楽に生きたか……
「そうか……一応、確認したかったんだ」
「まあ、そうよね。で? どうやって帰るの?」
「それな。実はお前を今から招待しようかと思っている」
「へ? 招待? え? 私も行けるの!?」
まあ、驚くよね。
気持ちはすごくわかる。
「そうそう。実は俺だけじゃなく、他の人間も行けるんだよ。そこで親愛なる我が師を招待しようと思って。隠し事はしないって言ったし、仕事を手伝ってもらう関係上、知っておいてもらわないといけないからな」
「は、はあ……? 頭が混乱しそう……ホントに行けるの? ちゃんと確認した?」
「実は我が家では今、フィリアが留守番をしている」
「ほえ!?」
ヘイゼルがマヌケな声を出した。
「いや、ほえって……」
「急に名前が出てきたし、フィリアが今、異世界にいますって言われたらそりゃあ驚くわよ!」
「まあ、そうだな。で? どうする?」
「い、家かぁー……うーん……あ、でも、フィリアがいるのか」
ヘイゼルの悩んでいるところがちょっと違っている気がする。
「大丈夫。家に親はいない」
「へ!? あんたとフィリアってそういう…………」
異世界のところに食いついてほしいんだけどなー……
俺の思ってた反応と違う。
「いや、そこはいいから。来る?」
「うーん、じゃ、じゃあ、ちょっとだけなら…………」
あ、また説明するのを忘れてた。
「悪い。実は異世界を行き来するのに丸1日の充電期間がいるんだよ」
「え……? ということは泊まり?」
「まあ、そうなる」
「と、泊まり!? あわわ…………えっと、んっと、ちょっと待ってなさい!」
ヘイゼルは慌てて立ち上がると、奥の部屋に駆け込んだ。
あいつ、完全に勘違いしてないか?
俺はそのまま待っていると、奥の扉がそーっと開いた。
「ま、待たせたわね」
「何か用意でもしたん?」
「うるさいわね! 女の子は色々あるの! 男は触れちゃダメ!」
顔が真っ赤だよ、この人。
「行く?」
「い、行くわ! さあ、連れていきなさい!」
ヘイゼルはその場で両腕を広げる。
俺はそれを見ると、立ち上がり、ヘイゼルの横に立つ。
そして、ヘイゼルの肩を掴み、引き寄せた。
「…………………………」
ヘイゼルは完全に固まってしまっている。
「ヘイゼル、落ち着いて、これを見ろ」
俺がそう言うと、ヘイゼルがギギギと音が出そうな動きでスマホを見た。
「落ち着いてー、怖くないよー、全然、怪しくなよー」
俺が落ち着かせるためにそう言うと、固かったヘイゼルが笑う。
「ふふっ。詐欺師じゃん」
ヘイゼルは笑いながら画面を見続けていたので、俺はスマホのアプリを起動した。
「気持ち悪っ!」
ぐるぐる画面を見たヘイゼルが騒ぐ。
そして、俺の目の前が光に包まれ、何も見えなくなった。
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