第030話 今後の予定


 フィリアが下着を購入すると、その後は服を買いにいった。

 普段着る物とパジャマを何着か購入し、時計やアクセサリーなんかも購入した。

 なお、時計やアクセサリーは俺が買ってあげた。

 ナイスガイだね!


 その後はクーラーボックスを購入したり、向こうで使えそうなものを見たりしながら買い物をし、昼になると、レストランで昼食をとった。

 午後になると、スーパーのコーナーで食料と酒を大量に購入し、大荷物を持ってタクシーで帰宅した。


 家に帰ると、フィリアは俺の部屋で買った服に着替えてきた。

 多分、さっき買った下着も着けていることだろう。


「ねえねえ、洗濯ってどうやるの?」


 リビングに戻ってきたフィリアがさっきまで着ていた母親の服を持って聞いてくる。


 俺は洗濯機に放り込んでおけと言おうと思ったが、もし、フィリアが家に残った場合のことを考え、やり方を教えることにした。

 その後も乾燥機の使い方など、電化製品の使い方を教えていく。


 大抵のものを教え終わった時にはすでに夕方の6時を過ぎていた。


 俺達は酒を飲みながら買ってきた食料でご飯を食べ始める。


「今日はありがとうねー」


 フィリアが酒を飲みながらお礼を言ってきた。


 買い物に付き合ったことか、蛇のことか…………ま、両方か。


「気にしない、気にしなーい」


 色々と知れたし。


「明日の朝には帰る? 私はもうちょっとゆっくりしたいけど」


 今日は買い物がメインだったしなー。

 正直、俺も明日はゆっくりしたい。


「お前の部屋で2日もこもりきりか?」

「あー、さすがに不審かー。ご飯も食べずにこもりきりはマズいね」


 多分、部屋にいないってことがバレると思う。


「俺ももうちょっとゆっくりしたいが…………」

「その辺を考えないとねー」


 宿屋の俺の部屋も一緒だろうなー。

 いっそ大森林で転移するか?

 でも、あそこはちょっと怖いな。

 戻ったらモンスターや冒険者と遭遇する可能性もゼロではない。


「お前、ヘイゼルと会ってないか?」

「ヘイゼルさん? あー、昨日、何か借家のことを聞かれたね」


 やはりフィリアを頼ったか……

 他に頼めそうな人もいないし、同性で教会の修道女は安心だろうしな。


「それだな」

「ヘイゼルさんが借りた部屋で転移するってこと?」

「俺はあいつに魔法を教わる予定だし、お前はヘイゼルの家に遊びに行ってることにすればいい」


 それなら2、3日家から出なくても不審ではない。


「こっちの世界のことをヘイゼルさんに説明するの?」

「どっちみち、あいつには運び屋になってもらう予定なんだよ。今日、クーラーボックスを買っただろ? あれに氷を入れて、あいつの収納魔法で収納する」


 今日買ったのは大きめのサイズのやつだし、普段はヘイゼルの家に置いておき、売る時に持っていこう。

 

「なるほどねー。でも、ヘイゼルさんがうんって言うかな?」

「大丈夫。あいつのことは任せておけ」


 多分、断らないと思うし、最悪、あんなヤツ、秒で騙せる。


「うーん、あの人もここに呼ぶことにならない?」

「呼んだら居座りそうだなー……」


 でも、絶対に連れていけって言いそうだ。

 もしくは、羨ましそうにこっちを見る。


「魔法使いは研究者だから基本的に好奇心旺盛なんだよね」


 これは連れていけだな。


「問題はこのアプリが3人も転移できるかだな……」

「私は置いてけぼりは嫌だよ」


 でしょうねー。


「やはり色々と検証が必要だな」

「具体的には?」

「まず、俺がこれを使えるのは確定している。あと、お前を連れていける。あとはお前1人で使えるかとお前を連れていける原因だな。触れているからか、アプリを見ているからか……」

「あのね、その検証はやめた方がいいと思う。あれからちょっと考えたんだけど、怖いのは私がそのスマホを操作し、リヒトさんだけが転移した場合だよ。リヒトさんはスマホを持っていないから帰れない。私はスマホを持ってるけど、もし、このアプリのキーがリヒトさんだった時、私だけでは使えないから転移できない。このケースがある。そうなったら最悪」


 俺はこっちに帰れない。

 フィリアはここで永遠に一人……

 きついな……


「あっちで使ってみるとか?」


 そうすれば、最悪、お互いに元の世界にいるだけだ。


「それ、本気で言ってる?」

「いや、それはない。言ってみただけ」


 目がこえーよ。


「検証はやめるか……」

「そうして。ヘイゼルさんを入れた3人で転移できるか。これは検証してもいいと思う」


 何人まで転移できるんだろう?

 多分、制限はない気がする。


「あとはスマホの充電と損失に注意か……」


 たとえ、スマホを失くしても俺の占いで探せる。

 ポータブル充電器も買った。

 だが、壊れたらどうなるんだろ?

 寿命が来る前に引き継ぐか……いや出来んのか?

 そして、衝撃で壊れたりすることもあるし、急に故障することもある。


 最悪、俺がこっちに帰れないか、フィリアが向こうに帰れないか…………


「壊れるならこっちで壊れてほしいねー」


 未練はないのか?

 そんなに酒とご飯とベッドと風呂がいいか?


「そん時は娶ってやるよ」


 こっちの世界でフィリアを放り出すわけにはいかない。

 戸籍をどうしよ?

 ってか、母親はどうしたんだろ?


「メイスとかハンマーない?」


 フィリアが笑いながら聞いてくる。


「ねーよ。壊すな」


 まあ、最悪、あっちでもこっちでもどうにかなるか。

 俺がやることは詐欺と占いと除霊だし。

 それはどっちの世界でもできる。


 それに俺の両親がそうであるように、異世界でも幸せにはなれるだろうし、幸せにしてやることもできるだろう。


 俺、今、めっちゃかっこいいことを言ったね。

 この言葉は後々に取っておこう!



 まあ、ぶっちゃけて言うと、ママかパパが何とかしてくれると思う。

 だって、あいつら、こっちの世界に転移してるし、普段から行動が怪しいんだもん。




 ◆◇◆




 翌朝、あっちの世界に戻る準備をし終えたので、最後にコーヒーを飲んでいる。


「うえぇ……何これ?」


 フィリアが嫌そうな顔をしながら舌を出した。


 俺がコーヒーを飲もうとしたらフィリアも飲みたいと言ってきたのだ。

 俺は絶対に不味いからやめろと止めたが、飲んでみたーいって言いながら甘えてきた。

 その結果がこれだ。


「お前は絶対に無理だと思ったわ」


 ミルクと砂糖を多めに入れたが、無理だった。

 だって、フィリアは酒飲みのくせに完全に子供舌なんだもん。


「水、水!」


 フィリアがキッチンに駆け込む。


「冷蔵庫にジュースがあるからそれ飲め」


 昨日、お酒じゃない果物ジュースも買ったのだ。

 なお、重かった。

 タクシーだけど、大量の酒も合わさって非常に重かった。


「あー、苦いし、不味かった……こっちの世界にもハズレはあったのか……」


 フィリアはまだ舌を出してる。

 かわいい舌だこと。


「だから言ったのに」

「よく飲めるね」

「慣れたら美味いよ?」

「私は慣れなくていいや」


 そうしなさい。

 君は甘い物ばっか食べてなさい。


「そろそろ戻るかー」


 コーヒーも飲み終えたしな。


「あーあ、もうちょっといたかったけど仕方ないかー。私は砂糖と氷の調査があるしなー」


 フィリアには残りの砂糖5キロと氷の売れるところを調査してもらっている。

 よく働く子だね。


「お前、冒険者業は?」

「あー、そっちもしないとなー」

「クランに入ってるんだっけ?」

「だねー。まあ、自由なところだし、ノルマもないからいいんだけど、鈍っちゃうのは嫌だな」


 フィリアはヒーラーだし、戦うことはあまりしないだろう。

 俺より弱いって言ってたし。

 それでもあまり実戦から離れると、勘が鈍るんだろうな。


「何かやんの? アンナやミケはいないけど」

「うーん、あの2人とは息が合うんだけどなー。リヒトさん達の仕事を手伝おうかな? 私、採取が得意だし」

「得意なんだ?」

「教会の庭いじりしてるしねー。慣れたもんだよ」


 そういえば、教会には結構、花が咲いてたな。


「ヘイゼルに見習ってほしいわ。お前、あいつの採取しているところを見たらビビるぜ? マジで不器用」

「でしょうねー。あの人、貴族でしょ?」


 バレとるやんけ。


「知ってんの?」

「立ち振る舞いを見ればわかるよ。どう見ても貴族のそれだもん。というか、皆、わかってるよ。でも、詮索しないのが冒険者のルール」


 必死に隠し、バレてないと思っているヘイゼルちゃん。


「今度から優しくしてやろうっと。というかさ、お前、クランに入ってんのに俺らと冒険していいの?」

「別に問題ないよ。普通に関係ない男の人とパーティーを組んでる人もいるし」

「ダメじゃね? 2重じゃん」

「そういうクランなんだよ。女の人しか入れないけど、自由にしていいよって。仕事やパーティーの斡旋もしてくれるし、半分組合みたいなもん」


 いいなー。

 俺も入りたい。

 無理だけど。


「それでよく回るなー」


 運営とか大丈夫か?


「援助されてるもん。教会とか魔法士ギルドとか色々」

「援助? なんで?」


 いかがわしい匂いがしてきたぞー。


「教会でいえば、私みたいな修道女が冒険者をやることが多いからだよ。回復魔法を使えるしね。それなのに修道女に何かあったらマズいから援助してる。魔法士ギルドも一緒。優秀な魔法使いを失いたくないもん」


 いかがわしくなかったね……

 いかがわしいのは俺の心だったか。


「そら、お前らもヘイゼルを誘うわけだ」

「そうそう。あの人こそ、そういうのが必要だもん。貴重で優秀な魔法使いなのに危なっかしい」


 実際、ピンチだったからなー。


「あいつには事情があるんだよ」

「事情? まあ、貴族だし、あるんだろうね。詮索はしないけど」

「あいつ、家出娘」

「…………リヒトさんって、すごくバラすよね」


 それだけ君を信用してるんだよー。

 というか、噂好きのお前らに言われたくない。


「じゃあ、まあ、一緒に行ってみるかね」

「商売の方もあるし、教会もあるからたまにだけどね。リヒトさんは? 黄金草?」

「まずはヘイゼルに貸している黄金草の分を取り立てだな。あとはギルマスと相談しながらかな? ヘイゼルもいるし、危なくないやつかなー」


 貧弱2人。

 たとえ、フィリアを入れても貧弱3人。


「完全に子分にする気じゃん。それともあれも娶る気?」


 あれ“も”だって。

 こいつはこいつで完全に嫁ぐ気でおるし…………

 というか、昨日から思ってたけど、もう嫁いだ気でいない?


「まあ、魔法の師匠だし、教えてもらいながら仕事をしようかと思ってる。それになんか、こう、庇護欲がね?」

「やっぱり男はああいう可愛い感じの………………いや、あれはちょっとっていうか、かなりぶりっ子とは違う気がする」


 あいつにそんな要素は皆無だ。

 高慢ちきだもん。

 たまに媚びへつらう目で見てくる程度。


「せめて、ドジっ子っていうことにしてあげて。あいつって、憐れじゃん」

「まあ、気持ちはわかるよ。放っておけない感じでしょ?」

「それそれ」

「まあいいけど。じゃあ、帰ったら冒険者ギルド?」


 ヘイゼルも冒険者ギルドにいるだろうし、ガラ悪マッチョにも話をすると考えればそこかなー。


「だなー」

「わかった。じゃあ、ヘイゼルさんに部屋は一応、探してみるって言っといて」


 一応?

 まあいいや。

 詳しくはヘイゼルに聞こう。


「じゃあ行くか!」

「うん!」


 俺はスマホを取り出すと、フィリアがいつものように腕を抱いてくる。

 ただ、何となく、以前よりも近い気がした。

 特に腰の辺り。


 うーん、いい匂いがするね。


 いや、これ、甘いものの匂いだわ。

 どんだけ持って帰る気だよ…………

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