第004話 初収入!


 俺は馬車にガタゴトと揺られながら街道を進んでいる。

 先ほど、俺が曲がった十字路に戻り、目的地がある南へと曲がったところだ。


「疲れた足は癒えるけど、お尻が痛いなー」


 座布団が欲しいわ。


「この男、めっちゃわがままです」


 馬車の中で猫が俺を避難してくる。


「ほらー、猫ちゃん」


 俺は干し肉を手に持ち、猫の前で振る。


「…………飛びつくわけないです」


 猫ちゃんは興味なさそうにプイッと横を向く。

 しっぽを見ても、特に喜んではなさそうだ。


「…………お前、猫じゃねーの?」

「獣人は獣じゃないです」


 獣人?


「…………獣人ってなーに?」


 俺は猫の横にいる長身の剣士に聞く。


「は? 獣人は獣人だろ」


 こいつ、見た目通り、頭は良くなさそうだな。

 獣人って何って聞いて、獣人って答えやがった。


「旦那、獣人は獣と人間のハーフみたいなもんって認識で良いですよ」


 御者をしている商人のおじさんが前を見ながら説明してくれる。


「ハーフ? え? それって…………」

「…………旦那、俺の説明が悪かった。獣の特性を持っている種族だよ」


 あー…………そういう人なのね。

 俺はてっきりそっちかと思ったわ。


「亜人みたいな感じ?」

「旦那、異世界人だろ」


 あれ?

 速攻でバレたぞ、おい…………


「わかるの?」

「亜人は差別用語だ。まず、この辺では言っちゃダメなやつだから気をつけな」


 ダメな言葉らしい。


「猫ちゃん、ごめんね」


 俺は差別用語を言ってしまったので猫ちゃんに謝罪する。


「いいです。悪気がないのはわかりますし、異世界人なのはわかってましたから」


 猫ちゃんにもバレてたらしい。


「猫ちゃん、名前は何ていうの?」

「ミケです」


 …………やっぱ猫じゃん。


「よーし、ミケ、お詫びに俺がタダで占ってあげよう。俺は占いをやっているんだ」

「占い師……? ……やっぱ胡散臭いです」


 信用ゼロだな。


「まあまあ。占いなんて気休めと思えばいいだろ。何を占ってほしい? 普段なら金を取るんだぞ」

「じゃあ、ミケの妹がどこにいるか占って」


 妹…………?


「いねーだろ。何も見えねーぞ」

「え? …………本物?」


 ミケのしっぽが立った。


「いるんだよなー、こういうヤツ。こちとら一生懸命見ようとしてるのに嘘つくヤツ。無駄に力を使っちゃったじゃないか。本当なら料金が2倍になるんだぞ」


 マジで占いをしていると、こういう嘘をつくヤツは多い。


「ご、ごめんなさい。じゃあ、弟がどこにいるか占って」


 またかよ…………


「どの弟だよ? 3人もいるじゃねーか。ちゃんと言え。マジで金を取るぞ」

「ミケ、マジ?」


 長身の剣士が驚いたようにミケに聞く。


「………………この詐欺師、本物だ」


 その言い方だと、本物の詐欺師になっちゃうじゃん。


「誰が詐欺師だ。で? どの弟? 多分、1番下の弟だと思うけど」

「それ! どこにいるの!?」


 ミケが立ち上がり、俺に接近する。


「ちけーよ」


 そう言いつつも、ミケの頭を撫でる俺。

 ふわふわだー。


「いいから教えて」


 ミケは俺が頭を撫でるのを気にせず、尻尾を振りながら聞いてくる。


「東の方かなー。見たことがない場所だから何とも言えん。えーっと、魚食ってんな。漁港かな?」


 港みたいなとこで魚釣りをして、釣った魚を食べてる。


「東の港…………リードかな」


 金髪蛇女は心当たりがあるようで、そうつぶやいた。


「それだ! リーダー、悪いけど、この仕事が終わったらちょっと抜ける」


 ミケは長身の剣士に言いにくいそうに告げる。


「構わないよ。あんたはそれが目的だったんだから」


 長身の剣士は優しい笑みを浮かべながら頷いた。


「あー、一応、言っておくけど、占いは絶対ではないので、外れてもクレームを言わないように」


 これだけは言っておかないといけない。


「何? あんた、嘘ついたの?」


 長身の剣士は先ほどの優しい笑みを消し、睨んでくる。


「嘘はついていない。でもね、ミケがその場所に行った時に弟君がそこにいるとは限らない。弟君だって動くからね。そうなると、俺が嘘をついたってことになる。そう思うヤツはいるんだよー。だから、占いは絶対に断言はしてはいけないものなの」


 他にも占いで未来を知ってしまったがゆえに運命が変わることもある。

 この塩梅が難しいのだ。


「それでいい。たとえ、移動したとしても痕跡は残るだろうし、やっと見つけた手がかりだもん」

「まあ、納得してるのならそれでいいよ」


 これで亜人って言っちゃったことはチャラかな。

 ついでに宣伝も終えた。


「旦那ー、俺も占ってもらっていいか?」


 ほら、釣れた。


「金を取るぞ」

「いくらです?」


 初回は1万円なんだが…………

 この世界の金の価値がわからん。


「宿屋で1泊すると、いくらだ?」

「ものによるとしか…………安い素泊まりなら銀貨2枚程度だし…………あー……異世界人だから金の価値がわからないのか」

「そうそう」

「全世界共通で金貨、銀貨、銅貨だ。銅貨1枚でパンが買えるし、銅貨10枚で銀貨、銀貨10枚で金貨だ」


 ふむふむ。

 銅貨1枚が100円くらいかな?

 物の価値が同じとは限らないが、とりあえずはその認識でいこう。


「じゃあ、初回割引きで金貨1枚」

「高くないか?」

「2回目は金貨10枚を取るぞ」

「いや、高すぎだろ」

「本物は高い。商人なら解れ」


 俺がそう言うと、商人のおじさんは懐から金貨を取り出し、こっちに投げてくる。


「ほれ、これでいいか?」

「まいど。長男と酒場に行け。そこで酒を飲みながらゆっくり話し合え。それで解決だ」

「…………まだ何も言ってないんだが」

「自分の跡を継がせるのを長男か次男で悩んでるんじゃねーの?」


 長男は後を継ぎたくないと思っている。

 本当は軍に入りたいのだ。


「確かに金貨1枚は安いな…………」


 商人のおっさんはボソッとつぶやく。


「次は10枚だからな。ただし、危ない橋は渡らないし、ものによってはめっちゃ高くなるから気をつけろよー」


 占いなんて、小銭稼ぎだ。

 そこまで力を入れることではない。


 俺の本当の職業は…………


 俺は金髪蛇女を見た。

 金髪蛇女は俺が見てきたことで首を傾げる。


 その表情は普通に見えるが、本当は苦しいはずだ。

 だって、身体に巻き付いている蛇は絞め殺さんとばかりに女の身体を締め付けているのだから。




 ◆◇◆




 その日、関所までは着かなかった。

 暗くなり始めたところで、馬車を街道から外れた広場に停車させ、夜食を取った。

 そして、暗くなったところで就寝だ。


 俺とおっさんが馬車で寝て、女3人は外でテントらしい。

 おっさんは横になると、すぐにいびきをかいて寝だした。


 俺はあまり眠くないのと、あの蛇が気になっていた。


 うーん、どうしようかねー。

 というか、多分、もう24時間は経っているな。


 俺は24時間のカウントダウンは終えたと思っているが、アプリを起動させるのはエーデルに着いてからでいいと思っていた。

 占いでもそれで問題ないと出てる。


 俺はおっさんを起こさないように起き上がり、馬車を出た。


 外は暗かったが、焚火はついたままだった。


 俺はそーっと女共が寝ているテントに近づく。

 すると、俺の首に冷たいものが当たった。


「そっちに何か用か?」


 俺が振り向くと、長身の剣士が俺の首に大剣を当てていた。


「あの金髪が気になってね」

「死にたいか?」


 あ、夜這いと思われてる。


「ちょっといいか?」


 俺は焚火の方を指差す。

 すると、長身の女は剣を下ろし、焚火の方に歩いていった。

 俺もその後に続き、女が腰かけたのを見て、対面に座る。


「なんだ? 弁明があるなら聞こう」


 完全に夜這いと思われてますね。


「その前に名前を聞いてもいい? 俺はリヒトだ」


 よく考えたら俺はミケ以外の名前を聞いていなかったし、自分も名乗ってなかった。


「私はアンナだ。ようやく名乗ったか、リヒト」

「…………忘れてた」

「覚えておけ。名乗らない人間ほど信用できんものはないぞ」


 ごもっとも。


「これは失礼を……やはり異世界に来たことを動揺しているのかもしれない」


 怪しい商売をしている俺が相手に名乗らないなんてありえない。

 冷静かと思っていたが、俺も結構、混乱しているようだ。


「お前、いつ来たんだ?」

「昨日」

「は? 昨日?」


 アンナが呆ける。


「来たばっかです」

「…………それにしては落ち着いているな」

「最悪なことにはならない…………そう占いに出てる」


 最初は死にかけましたけどね。

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