日本に戻れる異世界転移生活で詐欺師が望むモノ ~戦闘チートはないけど、占いと日本の物資で頑張ります!~

出雲大吉

第001話 異世界へ行けるアプリ!


 俺は大学終わりの夕方からいつもの仕事をし、朝方には家に帰った。

 さすがにちょっと眠い。


 俺の家はちょっとした金持ちのため、かなり良い一戸建てだ。

 両親は海外で遊び惚けているが、俺は大学があるため、この広い家に一人で住んでいる。


 俺は今日の儲けで購入した弁当と缶酎ハイをテーブルの上に置き、テレビを見ながらスマホを弄っていた。


「今日は3万円の儲けかー…………日にこれだけ儲けられるなら大学に行く意味もねーなー……」


 俺は霊媒師である。

 俺は物心がついた時から様々な能力が使えた。


 他の人には見えないものが見えたし、ちょっとした未来も見えた。

 霊や悪いものを祓うこともできた。

 他にも運命を変えたり、言霊も使えた。


 というか、具体的に言うと、霊媒師ではないかもしれないが、自分の事を何て言えばいいのかわからないので、そう名乗っている。

 なお、これは中学から名乗っており、中学、高校、大学の心無い友人は俺の事をインチキ霊媒師と呼ぶ。

 もしくは、インチキ占い師や詐欺師。


 理由は簡単。

 俺はこの不思議パワーを金儲けにしか使っていないからだ。


 俺の母親も不思議パワーを使えた。

 というか、俺はそんな母親の力を受け継いだのだろう。


 母親はこの不思議パワーを使い、宝くじなどの博打で儲けていた。

 だからこの家だって豪華だし、両親は働きもせずに海外で遊び惚けている。


 父親もなんかあるらしいが、詳しくは聞いていない。


 俺は立ち上がると、テレビの横にある棚まで行き、置いてある家族写真を見る。


 そこに写っているのは黒髪のおっさんと金髪碧眼のおばさんだ。

 その間に黒髪でオッドアイな子供が座っている。

 もちろん、両親と俺である。


 母親は聞いたことがないイースとか言う国の外人らしい。

 つまり、俺はハーフだ。


「…………スピリチュアル系の芸能人として、デビューしようかなー」


 そして、アイドルや女優を騙…………アドバイスし、いい関係を築くのもアリかもしれない。


「ハァ……あほくさ」


 俺はテーブルに戻ると、再び、携帯を弄りだす。


 今日は何をしようかなーと思いながらまとめサイトを見ていると、スクロールの操作を間違え、変なところをクリックしてしまった。

 すると、スマホは何かをダウンロードし始めた。


「あ、ミスった。変なもんをダウンロードしちゃったよ」


 俺はウイルスかもーって焦ったが、占いによると、今日の俺はツイていると思うので、まあいいかと思った。


「ん? なんだこれ?」


 どうやらダウンロードを終え、勝手に何かのアプリがインストールされているようだ。


「チッ! 霊的なもんは得意だけど、機械はわかんねーんだよな……こういうのに詳しい客に聞くか……」


 俺はめんどくせーなーと思いながらインストールされたアプリを見てみる。


「…………文字化け? なんだ、この文字?」


 英語ではないし、ましてや日本語でもない。

 アプリのショートカットには謎の文字が書かれている。


 俺はその時、何故かそのアプリをクリックし、起動したくなった。


「あれ? これ、何かの魔法っぽいもんがかかっているな。危ない、危ない。フッ! 残念だったな! 霊媒師であるこの俺にはそんな魅了的な魔法は効かんぞ! わはは-!」


 俺は危ない危ないと思いながらもスマホをクリックし、アプリを起動させた。


「あれ? あ、やべ! 看破したと思って、油断しちゃった!」


 アプリを起動してしまうと、スマホ画面がぐるぐると回る謎の動画が始まった。


「気持ち悪っ!」


 だが、その動画から目を離すことが出来なかった。

 そして、俺の目の前が光に包まれ、何も見えなくなった。




 ◆◇◆




「ふえぇ…………」


 俺は思わず、幼女みたいな声が出た。


 それもそのはず……俺はさっきまで自宅にいたはずだ。

 なのに、視界に広がっているのは草原である。

 草と空しかない。


「え? え? 何これ? ここどこ?」


 俺はキョロキョロと周囲を見渡すが、何もない。

 いや、草はあるんだけど…………


「マジでなんだこれ? これまで様々な不思議を体験したが、これはぶっちぎりの一位だぞ…………」


 どっかにワープでもしたのか?

 それとも絵本の世界にでも入ったか?


 ってか、俺、裸足だし……


 俺は途方に暮れ、その場で立ち尽くしていた。


 どのくらい立ち尽くしたかはわからないが、俺はふと、これはさっきのアプリのせいだと思い、スマホを起動させる。


「えーっと、圏外か…………」


 まあ、そうだろうなーと思い、アプリを起動させた。

 すると、画面には謎のカウントダウンが表示されている。


「23時間44分……50秒、49秒…………」


 カウントダウンは少しずつ、減っていっている。

 これはもしかして、次のワープまでの充電期間かもしれない。


「24時間……1日に1回使えるのかな? まあ、24時間後に帰れる保証はないが、待つしかないか……スマホの充電は……96パーセント。まあ、大丈夫だな」


 俺はスマホの充電が十分にあることにホッとした。

 これで充電が切れたら充電器がないこの状態では頼みの綱が切れることになる。


 俺はどうせ圏外だしと思い、スマホの電源を切った。

 そして、周囲を再度、見渡す。


「ホント、何もないなー。こんなところで24時間もいんの?」


 飯もない。

 布団もない。

 屋根すらない。


 気候的には暖かいし、凍えることはないだろうが、きつい。

 というか、腹が減ってきた。

 そういえば、俺、朝飯を食べるところだったんだ……


「動くか……ここが地球かどうかもわからんが、オオカミや熊でも出たら餌になってしまう」


 俺は不思議パワーを持っているが、強いのは霊にだけだ。

 獣にもその辺のヤンキーにも負けてしまう。

 というか、盗賊とか出たらヤベーな。


 一刻も早く隠れられる所に行かなくては!


 おそらく、その辺の一般ピーポーはここで下手に動き、更なる不運やアクシデントに見舞われるだろう。


 しかーし!

 俺は違う!

 俺には不思議パワーがあるのだ!


 俺は目を閉じ、自らを占う。


「むむ! 北が幸運、東が現状維持、西が災難、南が女運に恵まれていると出た!」


 占いは必ずしもそうなるとは限らないが、大体当たるし、大抵は上手くいく。

 俺が高校を卒業し、今の大学に入ったのもこの占いに従ったからだ。

 今のところは大学で特に幸運があったわけではないが……


「東と西はないな」


 北か南か…………

 ここは南だな!


「さて、南は…………え? どっちだ?」


 えっと…………


 俺は空にある太陽を見る。


「太陽がある位置が…………なんだっけ?」


 こういう時に一般常識がないときついね。

 別にバカじゃないけど、知らねーわ。


「そうだ! 年輪が偏っている方向が南と聞いたことがある!」


 俺は周囲を観察し、切り株を探す。


「草しかねー……」


 詰んだわ……


 俺は仕方がないので、適当な方向に歩くことにした。




「あー、腹減ったなー。しかも、足が痛い……」


 あれから1時間近くは歩いていると思う。

 それなのに風景がまったく変わらずに草原のままだ。

 獣は見当たらないが、人も見当たらない。


「絶対に日本ではないなー……」


 日本にはこんなに広い草原はないだろう。

 外国か…………いや、外国にもこんな草原はない気がする。

 草がなかったら砂漠っぽいんだけど。


「マジで異世界か、それとも別の星か…………」


 何にしても、人がいないので、どう判断すればいいのかわからない。


 俺はさらに歩き続けるが、ついにはへたり込んでしまった。


「ダメだ。腹が減って動けねー……」


 これ、24時間が経つ前に死にそうだわ。

 というか、せめて水だけでも欲しい…………


 俺はここで24時間が経つのを待とうかなーと諦めの境地に入っていた。

 すると、猛烈に嫌な予感がしてくる。


 俺は立ち上がり、周囲を観察しようと思ったが、すぐにビクッと体が動かなくなった。


 すぐ近くにでっかいブタが二足歩行で歩いてきているのだ。


「い、異世界人? 宇宙人?」


 俺は希望を込めて、つぶやくが、頭ではわかっている。


 あれはモンスターだということが…………


「ゲームとかに出てくるオークに見えるけど、きっと良いブタさんだと思うなー」


 そんなわけがない。

 だって、斧を持ってるし……


 ブタさんは俺をジッと見る。


「ブタさんは草食動物だよね? どんぐりが好きなんだよね?」


 雑食だったような気もするが、きっと草食動物だろう!


 俺がブタさんに話しかけると、ブタさんはにやりと笑った。

 直後、俺の危機察知能力が発動する。


『動くなっ!!』


 俺はブタさんが斧を振り上げると同時に、言葉に言霊を乗せて、叫んだ。

 すると、ブタさんの動きがピタッと止まる。


 俺はその隙に脱兎のごとく逃げ出した。

 言霊は数秒も効果はない。


 俺は足の痛さや空腹も忘れて、必死に逃げている。


 クソッ! クソッ! クソッ!!

 こっちが西だったか!!


 どうやら俺は最悪な方向を歩いていたらしい。


 俺は必死に走るが、後ろからドスドスという音が聞こえだしている。


 チッ! 向こうの方が速い!

 追いつかれる!?


 俺は必死に走っているが、徐々に足がもつれ始めた。


「――――痛っ! って、あたた!」


 走っていた俺は小石を踏んだ痛みで完全に転んでしまった。


 すぐに立ち上がろうとするが、もう足が動かない。

 俺は吐き気がするほどに走ったせいで完全にグロッキーだったのだ。


 直後、地面に黒い影が見えた。


 俺はそーっと、後ろを向き、見上げる。


 そこにはでっかいブタさんが斧を振り上げていた。


 あ、死んだ、これ。


「ぷぎぃぃーー!」


 俺が目を瞑った直後、ブタさんの叫びに似た悲鳴が聞こえてきた。

 俺はいつまでもやってこない死に疑問を覚え、目を開く。


 すると、俺の目の前には脳天を槍で刺されたブタさんが立っていた。


「ほえ!?」


 どうなっての!?


「君、大丈夫か?」


 声が聞こえた。


 そうか!

 こっちが南だったのか!


 きっと素晴らしく美人な騎士様が助けてくれたんだ!


 俺は声がした方を向く。


 そこにいたのは長身の立派な服を着た男がこちらを見ていた。


「チッ! 男かい!!」

「え!? 助けたのにその言い草はなんだ!?」


 うるせーわ!


「女が良かったー!」

「私だって、助けるなら女が良かった――って、避けろ!!」


 俺を助けてくれた恩人がオークを指差した。

 俺はそれを見て、オークを見上げる。


 立ったまま死んだオークが俺の方向に倒れてきたのだ。


 やっぱこっちが西だったわ…………


 ぐえー!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る