第2話 最低ッ!
優太に連れらて来たのはラブホ街を抜けた先の幹線道路沿いにあるカフェだった。
何回かこの街に来たことはあったが、こんな所にカフェがあったなんて知らなかった。
幹線道路沿いにあるにもかかわらず知らないって事はよっぽどラブホテルしか利用していなかったんだろうな。
四人掛けテーブルに案内され、優太と風美が隣同士で座り、俺は沙羅の隣に座った。
普段なら俺が風美の隣に座る。四人で遊びに出掛ける時はいつだってそうだった。
ただ、今は違う・・・
優太が店員に人数分のアイスコーヒーを頼む。何が飲みたい?なんて質問は飛んでこない。誰もアイスコーヒーなんて飲みたくないが、元々飲むつもりもないのだろう。
優太が注文を終えると沙羅が口を開いた。
「違うの!優太!これは―――」
「待って。店員さんが飲み物を持ってくるまで待ってくれないか?沙羅もこんな話人に聞かれたくないだろ?」
淡々と答える優太はまるで別人だった。
普段の優太なら沙羅に意見をいう事は稀だ。
意見を言っても沙羅に軽くあしらわれるのがいつもの光景だった。
しかし、今の沙羅が憔悴してるとは言え、かなり毅然とした態度を取っている。
ここまでいざという時の力強さがあったなんて知らなかった。
風美は相変わらず俺を見ようとはしない。
俺の視線を感じているのか、体が小刻みに震えだした。
優太もそれに気づき、風美を心配そうに見つめた。
風美も優太に視線を返す。すると、風美の体の震えは自然と収まった。
なんとなくだが、二人はテーブルの下で手を握り合っているんじゃないかと思う。
それを考えると少しイラッとする。
二人の様子に沙羅はますます顔色を悪くした。
店員が四人分のアイスコーヒーを運んできたが、誰も口を開かない。
ついさっき真っ先に言い訳しようとした沙羅は優太の今までにない毅然とした態度にビビって何を言えばいいのか分からないと言った感じだ。
いつまでも黙っていたら先に進まないので俺が口火を切った。
「いつから知っていたんだ?」
「一ヶ月前ぐらいだ」
優太は即答した。
間抜けな話だな。
沙羅も俺も二人には気づかれていないと勝手に思い込んでいたが、とっくに気づかれていたんだな。
「違うの、優太ッ!これは誤解なの!勝とは何でもないのッ!」
何が違うのだろうか・・・
この期に及んで言い訳をしている沙羅に俺は内心呆れた。
「何が違うっていうんだ?矢内君とラブホテルから腕を組んで出てきて何が違うっていうんだ?」
「それは・・・勝に無理やり・・・」
おい、おい。この女は何を言い出すんだ?
お前もノリノリで俺と楽しんでいただろうが。
優太は「はぁ~」っと大きく溜息をつき、スマホを操作し、ディスプレイを俺たちに見せてきた。
そこには俺と沙羅が学校の校舎に隠れてキスしている所がバッチリ取られた写真だった。
「無理やりやられてる割には、矢内君の背中に手を回してキスしているじゃないか。これでもまだ言い訳するつもり?」
「あっ、うぅぅ・・・」
流石に往生際が悪い沙羅もこれには閉口した。
優太たちが俺たちの関係に気付いてから今日まで一か月程あったんだ。
これぐらいの証拠集めはしているだろうと俺は予め思っていた。
それにしても俺はなんでこんなに冷静なんだ?
沙羅はかなり優太に執着心をみせている。
俺とは体だけの関係だったから、心から好きだったのは優太ってのは理解している。
だったら浮気なんてするべきじゃなかったな。
バレたらこうなるってのは火を見るより明らかだ。
浮気を簡単に許してくれる都合のいいヤツなんてそうそういない。
そう考えると俺は風美の事がそんなに好きじゃなかったのか?
う~ん、よく分からん。
「終わりにしよう、沙羅。君とはもうこれ以上付き合えない。僕だけならいざ知らず、風美さんまで傷つけた君を許せる気がしない」
淡々と語る優太の声音には微かばかり怒気を帯びていた。
「最後に訊くけど、何でこんな事したんだ?僕に何か至らない所があったのか?」
「それは・・・」
まぁ、その理由は言いにくいよな。なら、俺が代わりに言ってやろう。
「お前とのセックスに満足出来なかったんだよ、沙羅は。お前けっこう淡泊らしいな。セックスは優しいだけじゃダメだぞ」
「ちょっと勝ッ!なんて事言って・・・」
「だって、本当だろ?そもそもお前が―――」
―――パンッ!
カフェの店内に乾いた音が響き渡った。
あっ? 俺、叩かれたのか・・・?
俺の目の前には涙をいっぱいに溜めた風美がいた。
「―――最低ッ!」
それだけ言い残して風美はカフェを去った。
優太も風美の後を追って、カフェを去った。
テーブルには俺と沙羅だけが取り残された。
「最悪、最悪よッ!もう、ほんと、最悪・・・」
沙羅はブツブツ文句を言っているが、あの状況から挽回しようと考えていたのか?
もう修復不可能だろ。
沙羅も俺を残してカフェを後にした。
・・・・・・・・
おい・・・ 誰も一口も飲んでいないアイスコーヒー代、俺が払うのか?
仕方なしにアイスコーヒー代を支払って俺もカフェを後にした。
家に帰って、就寝時間までダラダラ過ごし、今日は色々あって疲れたので早目に就寝する事にした。
面倒事は明日の俺に任せる。
俺は細かい事を考えるのが苦手なんだよ。
言い訳のような事を思いながらベッドに潜り目を閉じた。
『おやすみ、いい夢を。クズにビッチ』
眠りに落ちる前にそんな声が聞こえた気がした。
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