イイことがしたい。

眞柴りつ夏

第1話

 窓から差し込むぼんやりとした明かりに、私はごそごそと動き出す。

 隣からは規則正しい寝息。そう、彼はいつも、一度眠ってしまうと何があっても起きない。

 そっとベッドを抜け出し、トイレへと向かった。そっと扉を閉め、便座に腰を下ろす。ふう、と息を吐いた。起きないとわかっていても、少し後ろ暗い気持ちのある私はいつもこの瞬間が緊張するのだ。

 立ち上がり、便座の背面に設置してある収納棚を開けた。生理用を詰めてあるボックス、その中に、私のお目当てのものはある。


「今日は……あなたに決めた」


 薄く微笑む顔に罪悪感があったのは、少しだけ前の話だ。




 一樹と結婚したのは2年前。

 納品に来ていた彼を眺めるのが好きだったのが同僚にバレ、「お茶でもどうですか〜?」とその子が半ば強引に組んだWデート。緊張しいなので無駄にヘラヘラと場をこなし、駅へと足早に向かっていると一樹が追いかけてきた。

 「こういうの、よくしてるんですか?」と直球で聞かれ、「そんな訳ないでしょ」と唖然とした顔が面白かったらしく、「また会ってくれます?」と彼はくすくすと笑いながら首を傾げた。

 悔しいけど、それが可愛かった。


 初めて二人で会った時に、色々話をして分かったのは、4つ年下、趣味は特にないそうで、時間を持て余すと筋トレをしているらしい、ということ。


「あとはそうだな。可愛いものが好きです」

「可愛いもの?」

「ぬいぐるみとか」

 

 178センチある筋肉質な男の口から出てくる破壊力に、ひとしきり笑った。

 3度目の食事の後、「性急過ぎてごめん」と言いながらキスされた。付き合ってください、って言われたのは、キスの後抱きしめられながらだった。「順番が変」と笑うと、「緊張してて」と苦笑するのも可愛かった。

 お互いに恋愛経験はまあそれなりに。でも日本人特有なのだろうか、性の話ってなんでかタブーな、どこか気恥ずかしいものがあって、お互いにあまり口にしなかった。

 それも、今となっては良くなかったな、と思っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る