454.(幕後)嫌になる程そっくりだった

 ヴィンフリーゼ・リリエンタール・シュトゥッケンシュミット――私は女王制のシュトルンツ国の嫡子に生まれた。弟と妹がいるけれど、どちらも王位に興味はなかった。私自身は女王に選ばれたことに満足しているわ。王族に生まれたからには、頂点を目指したいの。


 私が十二歳の頃に祖母が騒動を起こした。それ以降縁が遠かったけれど、今日はお墓に花を手向けにきた。隣で手を合わせるお母様により王都追放の上で幽閉された祖母は、歴代女王の中でもやり手な方だと思う。事件が発覚した時、お母様は私やフリードリヒに決断を迫った。


 お祖母様を切り捨てるか、留めるか。お母様の中で結論は出ていたはずよ。そうでなければ、私達の反応で結果が変わってしまうもの。そんな甘い人じゃない。周囲を従えるカリスマ性と、清廉潔白な顔で残酷な命令を下せる一面、どちらも両立した人なのだから。


 泣きじゃくってお祖母様を許すと口にしたフリードリヒは、王家を出されることが決まった。お祖父様の実家であり、伯父様が継いだバルシュミューデ公爵家の従姉妹ローザリンデと結婚する。婚約段階でさっさと公爵家に引っ越した時は、少し寂しかったわ。


 フリッツはあの子なりに考えたのね。祖父母と疎遠になった今、家族の間を繋ぐのは王家を出る自分しかいない。だから任せて欲しい。そう言われたの。泣いて後ろを走ってきた弟が、急に頼もしく思えた。王位は孤独だと習ったけれど、お母様が二人も弟妹を生んでくれたから……私の孤独は半分以下ね。


 弟は王家を出て臣籍降下した。王位継承権二位の妹パティは年齢が離れている。お母様は計画的に子を成す方法をご存知なのかしら。


 教育や躾は厳しかったけれど、お陰で女王になる素地は鍛えられた。基礎から応用に至るまで、様々な方面に広く浅い知識を溜め込む。そこから必要な部分だけ深掘りした。自分が不得意な分野は、得意な者を側近に選べばいい。


 お祖母様は自分ですべてを管理しようとしたけれど、お母様は真逆だった。他国から有能な者を集めて配下に置く。側近を束ねて采配する能力は、お母様譲りなのかしら。私にも確かに受け継がれていた。


 夫パトリスを得て、これからシュトルンツ国を治めていく。大陸のほとんどの国が統合され、制覇は間近だった。お母様はきっと、歴史に名を残す女王だわ。それには及ばないけれど、穏やかで平和な日々を維持することは私にも出来る。


 女王ブリュンヒルトは、同時にとても良い母親だった。パティが誘拐された日、父が助けに来てくれて……戻った王宮で涙ながらに抱きしめられた。温かい腕と戻ってこれた安心で、私は人目も憚らず泣いたの。それ以外にも悪阻で辛い時、文句ひとつ言わずに助けの手を差し伸べた。


 幼い頃の思い出は少ないけれど、愛情が足りなかったとは思わない。それどころか、あの忙しい執務の合間に、よくぞと思うほど愛された。刺繍が苦手で、不器用な一面もあって。そんな母は、私の手本であり自慢なの。いつか、子ども達に語って聞かせたい。


 顔を上げて祖母の墓で揺れる花を見つめた。祖父はフリッツと暮らすことに決まり、ここに心残りはない。明日からまた、忙しい毎日が始まるわね。


「ヒルト、肩が冷えています」


 さっと用意した上着を羽織らせる父は、どうみても使用人の立ち位置だった。いつも穏やかに微笑を湛える整った顔と裏腹に、恐ろしい一面を隠し持つ。よくこんな人を夫に出来たと、母に感心するばかりだった。


「母上、父上。僕の領地に寄ってください」


 せっかく出てきたのだから、寄り道してくれ。そう強請る弟に、両親は頷くのだろう。引退したというのに、相変わらず忙しい人達だけど。それでもフリッツが強請ったのだから叶える。


「いいと思うわ。パティも一緒に行ったら?」


 妹に促すと、彼女は首を横に振った。


「私はお姉様のお手伝いがあるもの。忙しいのよ」


 少し背伸びして大人ぶりたい年頃のパティは、ふふんと胸を反らして忙しいと強調する。私よりやや大きい胸が、少しばかり腹立たしいけれど。可愛い妹の髪を撫でた。


「では先に帰りますわ。お母様とお父様をよろしくね、フリッツ」


「もちろんです、姉上」


 いつもと違い、女王陛下と呼ばない。家族だけの墓参りに相応しかった。義妹のローザリンデとも談笑して、明るく別れた。帰り道の馬車で、眠るパティに膝を貸す。彼女の金髪を何度も手櫛で梳きながら、ぽろりと涙が溢れた。


 祖母が生きているうちに会いたかった。でも会わないと決めたのは私自身、誰に強要されたのでもない。その誓いを破ったら、祖母は私を叱責したでしょう。だからいいの。パティを通して手紙に私の言葉を散りばめ、肖像画を贈った。帰ってきた手紙に目を通し、祖父母の生活に気を配る。


 出来ることは全てした。後悔なんてしない。


「君は意地っ張りだからね」


 パトリスの呟きに、涙で頬を濡らしたまま微笑んだ。そうよ、お祖母様の孫で、お母様の娘だもの。私達は嫌になる程、そっくりだった。







********************

 ヴィンフリーゼから見た、両親と祖父母です_( _*´ ꒳ `*)_お墓参りのシーンにしました。王族が一堂に集まっては危険ですけどね←をいw

 ここから幕後、つまり本編終了後の時系列になります。明日はフリッツ目線です。

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