451.(幕間)何度も忠告を無視した

 シュトルンツの女王として君臨し、国を治めてきた。他国に比べて広大な領土は、利益以上の問題を運んでくる。いつも忙しく、あまり子どもと接してこなかった。


 子育てに苦労した覚えはない。なぜなら、私が育てなくても夫が面倒を見てくれたから。その意味で、夫エリーアスには感謝しかないわ。


 跡取りのブリュンヒルトは、私に何か隠している。それを無理に聞き出すつもりはなかった。あの子は賢すぎるの。きっとどこかで破綻してしまう。それだけが心配だった。


 もっと子どもでいられる時期に、何か失敗を経験させておけばよかったわ。溜め息を吐いた私に、夫は首を傾げた。


「アマーリエ、何か心配事かな」


「ええ、ヒルトなんだけれど」


 切り出した心配を聞いて、夫は首を横に振った。心配しすぎだ、手出しはやめた方がいいと忠告してくる。いつもなら頷く彼の判断に、今回は眉を寄せた。


「何かあってからでは遅いのよ」


「だからって、君の考えは極端過ぎる。もう少し考えてくれ」


 珍しく反発するエリーアスに腹が立った。故に厳しく言いすぎたの。元女王としての権限を振り翳し、夫である彼の忠告を踏み躙った。今が最後のチャンスだ。これを逃したら、私が持つ権力は使えなくなるだろう。焦りもあった。


 子飼いの貴族や宰相の義父を呼び寄せ、いくつか策を授ける。女王ブリュンヒルトに不満を持つ勢力に接触を図り、味方になったフリをした。ヒルトに権力を掌握され、面白くない母親に見えるように。


 集まった貴族の大半は、あの子が王位を継いで粛清され、地位を追われた者達だ。私の足元で甘い汁を吸っていた。これを見逃したのは、それで回っていたからよ。代替わりが近いことも影響していた。


 新しい女王が生まれた時、腐った貴族を粛清することで、国民や併合した国の賛同が得られる。公明正大な君主、誰もが好きでしょう? だから演出するために、小さな悪を残す。この手法はお母様も使ったわ。勧善懲悪は好まれる手法よ。


 即位したヒルトは、跡取りのヴィンフリーゼに加えて王子フリードリヒも授かった。さらに、次女パトリツィアまで。三人の孫のためにも、私が悪役を買って出ましょう。これであの子の治世はさらに安定するわ。


 大掃除は親の役割、利益を享受するのは娘の権利。やがて娘が、孫に新しい世界と役目を与えるの。そうしてシュトルンツは栄えてきた。


 愚かな駒を使ってのゲーム盤は、私の失敗で崩れていく。なぜそんな動きをするの。止まりなさいと指図しても、理解できない。こんな扱い難いコマは初めてよ。うんざりしながらも、最悪の場面だけは回避し続けた。


 途中で義娘エルフリーデと、宰相エレオノールを巻き込む。この子達の権力と名声は高くなりすぎた。持ち掛けた裏切りを、彼女達は悩んだ末に受け入れる。ブリュンヒルトの為なら、不名誉も厭わない覚悟は立派だった。


 なのに、反女王の駒はなぜ予想外の動きをするの。


 周囲から人を遠ざけるから、幼子パトリツィアを攫うだけ。たったひとつの指示なのに、フリードリヒにケガをさせた上、大切な嫡子ヴィンフリーゼが行方不明ですって? あり得ないわ。


 愚か過ぎて予定が狂ったけれど、最後の帳尻は合わせてみせる。その考えが間違っているのだと、夫は何度も止めていたのに。あの時の私は素直に聞くことが出来なかった。







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 リクエスト消化。幽閉前後のお母様です。娘ブリュンヒルトのためと言いながら、余計な騒動を起こした結末まで、まだ続きます。

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