438.女傑のお茶会は赤裸々に
「寂しいって思うのは、贅沢かしら」
「どうでしょう」
ぽつりと本音を口にする。お母様から受け継いだ、王宮上階の空中庭園で溜め息を吐いた。右隣には夫テオドール、リュシアンは正面で本を片手に首を傾げる。右側にクリスティーネとエレオノール、彼女らの向かいにカールお兄様とエルフリーデが並んだ。
我が国の重鎮が勢揃いね。珍しいことよ。普段はそれぞれに役割をこなすために、各地に分散しているのだから。
「ローヴァイン伯爵は元気?」
話を向けられたクリスティーネは、うーんと空中を睨んだ。
「元気なんですけど、最近ベッドインが少なくて」
明け透けな彼女の発言に、なぜかエルフリーデも食いついた。
「分かるわ、カールもそうなの」
「まあ、皆様は物足りないんですのね」
艶々の肌でにっこり笑うエレオノールの余裕に、私はそっと目を逸らす。嫌だわ、あんな風に見えるのかしら。
「エレオノールのところは、愛犬に何か与えてるの?」
「そうですね、最近ではいろいろと」
「後で聞かせて」
食いつきのいいエルフリーデの隣で、カールお兄様は居心地悪そうに目を逸らした。そこへテオドールが追い打ちをかける。
「よく効くと評判の薬をご用意しましょう」
「いや……いい。っ! やっぱりくれ」
一度は断ったものの、睨みつける妻に気押されて、カールお兄様は前言撤回した。そう言うところよ、尻に敷かれる原因は。呆れるの半分、残りは笑いが込み上げてきた。
「ふふふっ、こんな会話をするなんて……あの頃の私達に想像できて?」
「ないですね」
「追い詰められていましたもの」
明るく否定するエルフリーデより、エレオノールは深刻そうな声で苦笑した。ピンクのウサ耳は、リボンを絡めて可愛らしく装っている。幾つになっても若く見えるのよね。ピンクが肌映りいいのかしら。
「寂しいと思えるほど、頑張った証拠です。ブリュンヒルト様もお分かりでしょうに」
くすくす笑うクリスティーネが、用意された果物の葡萄を口に入れる。もぐもぐと唇が動いて、すっと皮を取り出した。その後は種も。
美味しく実を食べたからこそ、種や皮だけ残った皿に寂しさを覚える。そう言われれば、そうかもしれないわ。本当に頑張ったもの。
「次世代に任せて、私達は徐々に手を引いていく。世界の物語は完結間近なのだから」
これ以上余計なことはしない。新しく生まれかけた勇者による『プロイセ建国物語』も、きっかけを失って萎んでしまった。このまま平和に着地したいわ。
「ローヴァイン伯爵とカールお兄様には、マムシ酒を届けておくわね」
ぽっと頬を赤らめる初心な女性はいない。女傑ばかりのお茶会で、リュシアンがぽつり。
「回春効果の高い薬か。売れそうだな」
そういえば、薬師の一面もあったわね。きっと高く売れるわ。女性達に煽られて、その気になったリュシアンは、出会った頃から外見が変わらない。ハイエルフって狡いわね。
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