432.褒めるなんて、何をやらかしたの
結局、真実をすこし脚色して伝えた。ヴィンフリーゼ達が退室すると、エレオノールの物言いたげな視線が刺さる。
「仕方ないでしょう。本当のことなんて言えないわ」
「何も言ってませんが?」
「責める目を向けておいて、言い訳する気ね」
くすくすと笑い合う。六年前の騒ぎで、エレオノールの権力は一時的に削がれた。お母様の狙い通りよ。その後も忠誠を誓う彼女を、私は重用してきた。お陰で以前と同じように、宰相としての辣腕を振るっている。
エルフリーデは騒動をきっかけに、領地へ下がった。軍の指揮権を返上したため、現在は別の騎士団を組織して管理している。女王制のシュトルンツで、初の女性騎士団よ。私も指摘されて気づいたけれど、女王が頂点に立つのに、護衛が男性騎士なのは不都合が多い。
化粧室や入浴時の悲鳴に、男性騎士は対応できないわ。女王のトイレに同行するわけにいかないもの。その意味で必要不可欠なのに、なぜか誰も改革しなかった。お祖母様もお母様も、何も疑問に思わず踏襲した。その慣習を改めるきっかけになったの。
現在の私の警護は、エルフリーデの育てた女性騎士が担当している。交代制で任務が組めて、休暇もきちんと取れるように。人数が必要になるからと、ツヴァンツィガー侯爵の名で募ったのよ。
意外に女性騎士希望者が多く、彼女らは王宮や貴族に仕えている。貴族夫人や令嬢の護衛に引っ張りだこで、就職にも困らないのだ。彼女はついに女性騎士の学校まで建ててしまった。二年前に初めての卒業生を送り出して以来、優秀な人材を王宮でも受け入れてきた。
リュシアンは相変わらず好き勝手しながら、この頃はパトリツィアに勉強を教えることに夢中だ。飲み込みがいいとご機嫌だった。変な薬を爆発させたりしなければ、好きにしていいわ。
「クリス様より、こちらが届きました」
「あら……また拾ったのね」
人名が書かれたリストは、複数の分野に分けられていた。経理、書類作成、整理、武官、魔法師……多岐にわたり分類された名前は、クリスティーネの財産でもあった。
彼女は夫ローヴァイン伯爵との間に子を設けない。産めないのではなく、産まない選択をしたのだ。代わりに孤児院をいくつも経営し、広がった国土をくまなく歩き回り、人をスカウトしてくる。その子達を育てて、王都へ送り出した。
お陰で人材不足の心配をした覚えがないわ。溢れるほどいるんだもの。新しく広がる領地の管理に送り出した子もいれば、王宮で文官として務める子もいる。私の治世は安定していた。
「本当に部下に恵まれたわ」
テオドールから始まり、各国の物語から使える人材を登用して、私はそのまとめ役をしただけ。モブでしかない登場人物が、ここまでストーリーを変えてしまうなんて、ね。
「人を見る目は私より上ですわよ」
コココンとノックしたクリスティーネが、扉の隙間から声をかける。返事があるまで待てないのは、幼い娘と同じじゃない。呆れたと同時に、おかしくなって笑った。
「ふふっ、そうかしら」
「ええ、人を使うのも才能ですし、適材適所に配置する能力も高い。その上信賞必罰、公平な君主とくれば、仕えない理由がないでしょう?」
「そんなに褒めて、今度は何をやらかしたの」
前回は決まりかけた同盟相手を殴ったのよね。理由はお尻を撫でられたから、だった? 今度は誰に何をしたの。普段は寄り付かない王宮へ顔を出した友人であり、転生仲間でもあるクリスティーネに首を傾げた。
「……実は、魔王様とちょっと」
やっぱり。面倒を持ち込んだのね。渋い顔になるエレオノールのピンクのウサ耳が、ゆらゆらと動く。これはお冠かしら。
「全部話してしまいなさい」
隠し事はダメよ。
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