420.主犯の供述がもう手元に?
「大変お待たせいたしました。こちらが関わった人物のリストで、こちらが主犯の供述です」
「供述?」
もう捕まえたのね。早いじゃない。褒めてあげようと思いながら伸ばした手から、書類は遠ざけられた。むっとする。
「先に人払いをお願いいたします」
言われて気づいた。子ども達が部屋にいるわ。これでは物騒な話は出来ない。乳母達を呼んで、引き取ってもらう。機嫌よく手を振るパトリツィアは、この頃自分で歩くのにハマっている。抱っこは卒業だと胸を逸らしていた。
ピアノを習っているフリードリヒは、手先が器用みたいね。これからレッスンすると言い置いて走っていった。まだ頭の傷は治っていないのに。
溜め息を吐いた私の代わりに息子を追いかけるのは、長女ヴィンフリーゼだ。ある意味私そっくりに育ったわ。頼もしいと思ったらいいのか、不思議な気分よ。きっとお母様も私に対して、同じように思っていたんじゃないかしら。課題を与えたくなるわ。
「これでいいかしら」
「はい、我が麗しの女王陛下に帰還のご挨拶を」
「早く主犯の書類を頂戴」
長くなりそうな挨拶を遮った。くつくつと喉を震わせ、リュシアンが笑っている。エレオノールとエルフリーデは、後ろを向いて肩を震わせた。エルフリーデ、護衛対象から目を離したらダメじゃない。
「その前に労いの言葉を頂きたく」
さり気なく背中に書類を隠して一礼するテオドール。いつになく意地悪ね。ここは私が折れるべき? それとも叱りつけるのが正しいかしら。迷ったけれど、王太女や他の子を助けた褒美がまだだったわ。
監禁されたお陰で、子ども達との時間も作れた。襲われたことがトラウマにならないか心配だったけれど、三人とも平気そうだわ。昼寝の時間も、夜の就寝中も、悪夢に魘された様子や報告はない。
抱き締めて「無事で安心したわ」と告げた私に、子ども達は嬉しそうに抱きしめ返した。あの時間を得るための監禁なら、テオドールに感謝するべきだわ。
「大変だったわね、テオドール。あなたのお陰で助かったわ。報告をもらえるかしら」
「どうぞ。先にこちらからお読みください」
渡されたのは、関係者リストだった。目を通せば、錚々たる人物が名を連ねている。正直、怪しい動きを把握していたが、証拠がなく泳がせていた連中よ。一網打尽に出来るのは助かるけれど……ここで嫌な予感がした。
テオドールは主犯の供述を取った。僅か五日で、これだけの証拠をそろえて主犯に聴取する時間があったの? だって、城の一割近い騎士や使用人も捕らえたのよ? 尋問だけだって、手が足りないのに。
どうやって、どんなふうに? 疑問が浮かんでひとつの答えに集約されていく。嫌な予感は確証に変わった。
「そっちの供述、犯人はお祖父様とお母様……両方かしら」
どちらかではなく、両方絡んでいなくては無理よ。外で自由に動ける手足と、王宮に留まる頭脳。私とテオドールの関係と同じだもの。
「察しが良くていらっしゃる。どうぞ目を通してください」
無言で白い表紙に手を置いた。大きく息を吸って、苛立ちを滲ませて吐き出した。どんな理由があれ許せない、母である自分が叫ぶ。なのに、執政者の私は別の判断を下していた。政敵の洗い出しに最適だ、と。
最悪なことに、こんなところまで私はお母様にそっくり。ヴィンフリーゼにも受け継がれちゃうのかしら。
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