401.叛逆者退治は私に任せてもらおう
「お母様! 裏切り者が出たと聞きました。私が捻り潰して差し上げますわ!!」
「僕も! 叩きのめしてやります!!」
エレオノールとお茶を用意したところへ飛び込んだ姉弟に、私はきょとんとして夫の顔を見た。誰が知らせたの? それより、なぜ戦う気でいるのかしら。明らかに私の血じゃなくて、テオドールの血筋よね? こてりと首を傾けて問うけれど、エレオノールとテオドールの二人は横に首を振った。
え? こんなに血の気が多い王太女時代を過ごしてないわよ。私は大人しく品よく過ごしてきたんだから。まずは娘と息子の言葉を直すところから始まりね。捻って潰して叩いたら、跡形もなくなってしまうわ。
「叛逆者を処分するのは、女王の仕事よ。あなた達はお勉強の時間でしょうに。それと言葉が荒いわ」
去年のお誕生日に強請られた子ども用の模擬剣を振り回すフリードリヒと、その隣でほっそりした杖を構えるヴィンフリーゼ。どちらも愛らしいけれど、暴走し過ぎよ。そう注意するために勉強の話を持ち出した。二人が顔を見合わせる。
「もう終わりました」
「僕も来年のところまで覚えたよ」
「……そう」
賢いと褒めたらいいのか、やりすぎと咎めるべきか。迷うわね。次の言葉を探す私は、扉の外で姿勢を正す幼い側近候補達に気づいた。一緒にいるのが当然だけれど、ならば彼らも来年分まで覚えたのかしら。優秀なのはいいわ。でも無理をさせた可能性が高い。ここを突くのが……。
バタン! 考えを中断させる物音に、私は慌てて立ち上がった。中途半端に開いたままの執務室の扉に、幼子がぶつかって転がる。尻餅をついた後、泣きもせずに「よっちょ!」と起き上がった。何ともマイペースな幼子は、スカートが派手に捲れているのも気にしない。
「おかぁちゃま! レーも!」
両手を伸ばして駆け寄る幼女は、私の生んだ末っ子よ。第二王女パトリツィア・レーヴェンタール――自分をレーと呼ぶのはレーヴェンタール王女殿下と呼ばれるせいみたい。もう少し大きくなったら、それは家名なのだと教えなくては。
両手を広げた私に抱き着き、嬉しそうに笑ったパトリツィアは振り返って目を輝かせた。
「ねぇたま、にぃたま!」
私の腕から抜け出して、今度はヴィンフリーゼに抱き着く。フリードリヒも頭を撫でながら笑った。仲がいいのは素晴らしいけれど……叛逆者情報がまだ幼いパトリツィアまで届くのは、我が国の機密に関わる重大問題よ。誰が洩らしたの?
眉を寄せた私は、すぐに犯人を知ることになった。
「久しぶりだ、我が妹よ! 叛逆者退治は私に任せてもらおう」
「申し訳ございません、ブリュンヒルト様。夫にはよく言い聞かせますので」
勢いよく自供しながら入ってきた兄と、義姉になったエルフリーデの謝罪。可愛い娘や息子に余計な話をしたのはカールお兄様ね。エルフリーデも止め損ねたと……なるほど。
「二人とも久しぶりね。エルフリーデは明日から護衛に入ると聞いたけれど……カールお兄様は何をしにいらしたの?」
「だから、叛逆者の処理はこの兄に任せて欲しい、と」
「お兄様に? 無理ですわ」
すぱっと切って捨てる。こんな簡単に情報を洩らす大将に、どこの部下が付いていくのよ。腰に手を当てて説教し始めると、耳を塞いだ夫や秘書官によって子ども達は自室へ戻された。
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