393.姉弟でまったく違う二人
ヴィンフリーゼに比べ、フリードリヒは手が掛からなかった。大人しく寝てくれるし、起きても大泣きしない。きょとんとした顔で、ベビーメリーを眺めていた。
お腹が空いた時と、オムツが不快な時以外は静かにしている。指を動かしてみたり、じっと一点を見つめていたり。眠ってばかりの猫みたいだわ。
「フリードリヒ、ママよ」
覗き込んで声をかければ、声に反応して目が動く。けれど二週間では、はっきり分かる反応は少なかった。小さな指に触れれば、きゅっと握るくらい。反射的な行動と知っていても、可愛いわね。
二人目の方が育児に余裕があるし、自分の気持ちが動く。どうやら私の母性本能はかなり鈍いみたい。今頃になって、赤子が可愛いと思い始めたわ。抱き上げて小さな声で歌った。
「ヒルト様、フリードリヒ王子殿下の乳母が決まったそうです」
「テオドール、あなたの息子よ」
このやり取りはヴィンフリーゼの時と同じね。王子殿下ではなく、呼び捨てなさい。そう命じたのに、彼は未だにヴィンフリーゼも「様」を付けて呼んだ。癖だと言うけれど、うちに父親はいないと思われたらどうするのよ。
「申し訳ございません。つい」
「慣れて頂戴。乳母が決まったのね? 顔合わせをしましょう」
二週間を過ぎたら、戴冠式へ向けて一気に動き出す。忙しくなるから、どうしても乳母が必要だった。お母様は早くにお兄様や私を産んだから、もっと育児期間が長かったと聞いている。結婚や出産が遅れたから仕方ないけれど、二週間はやはり短いかしら。
顔合わせのために、新しく選ばれた乳母を室内に招いた。顔を見てもきょとんとしたまま、フリードリヒは泣かない。大丈夫? 逆に不安になって、我が子の顔を覗き込んだ。
「反応が薄いわね」
「生まれたばかりはこんな感じです」
穏やかな口調と微笑み、特に不安は感じない。違和感もないから、任せると口にして帰した。お母様が選んだなら安心ね。
「ヒルト、失礼するわよ」
ノックと同時に入ってきたお母様は、すたすたと遠慮なく距離を詰める。授乳中だったらどうするの。そんな文句を飲み込んだ私から、フリードリヒを抱き上げた。
「お母様、フリードリヒの反応が薄い気がするの」
「そう? カールの時もこんな感じよ。男の子ってあまり泣かないイメージだったわ」
育児経験者がそう言うなら、特に異常はないのかも。お兄様似の脳筋に育ったら困るわ。ふふっと笑い、お父様と手を繋いだヴィンフリーゼを呼んだ。繋いだ手を離して駆けてくる娘は、手が届く手前で止まる。
「おとぉと?」
舌足らずの発音に、柔らかな笑みが浮かぶ。そうよと肯定して、テオドールに合図した。ひょいっと抱き上げ、ベッドに座る私の横へヴィンフリーゼを下ろす。お母様から息子を受け取った。フリードリヒは小さな口を大きく開けて欠伸をする。
首を伸ばして抱かれた弟に興味を示す彼女に見えるよう、角度を変えた。ヴィンフリーゼは「ちぃさい」と驚いた声を上げた。びっくりしたのか、フリードリヒは声を上げて泣き始める。
「ないた」
一緒に泣き出しそうな表情の娘に「あなたの弟よ、大切にしてね」と言い聞かせる。泣き続けるフリードリヒは、お母様が再び抱き上げたら泣き止んだ。なぜかしら、負けたようで気に入らないわ。
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