391.私の護衛が半年になってしまった

 アリッサム王国は完全に崩壊し、現在は王家直轄領になっている。私が王位を継承すれば、結婚したお兄様は臣籍降下するわ。バルシュミューデ侯爵家を、格上げして公爵家にする予定だった。


 隣接するツヴァンツィガー侯爵家は、エルフリーデが継承する。つまり王家直轄領になった元アリッサム王国と、その一部だったツヴァンツィガーの領地はそっくり、お兄様達の管理になるの。


 領地には信頼できる管理人を置き、一年の半分は王都に滞在すると聞いたけれど、離れる時間が長くなるわ。仕方ないのに、寂しく感じる部分もあった。そう話すと、カールお兄様はからりと明るく笑う。


「心配するな、整備された街道を一走りだ。私とエルフリーデだけなら、半日で帰って来られる」


 そう言われると、確かにその通りね。半日の距離ならいつでも会える。納得したところで、護衛問題が発覚した。


 私の専属護衛であるエルフリーデが、一年の半分も領地に帰ってしまう。つまり私の護衛期間が半年になった。まだ育児休暇中の私は、お乳をあげた我が子をベビーベッドに戻して考え込んだ。


「ご安心ください、私がおります」


 テオドールの微笑みに、ぱちんと彼の額を叩く。


「テオドールはいつもいるじゃない。女性の護衛が必要なの!」


 トイレや風呂の時に襲われたらどうするの? そう返したら、当然のように「ご一緒します」ですって。冗談じゃないわ。


「実は……ユリアが立候補しております」


 ルピナス帝国で大使をしていた有能な方ね。初めて顔を合わせた帝国でも、騎士服を着ていたわ。もしかしたら戦えるのかしら。


 エレオノールも獣人だけあって運動神経はいい。けれど、秘書官として忙しい彼女は、護衛を兼務するのは不可能だった。クリスティーネに戦闘能力はない。一時期冒険者をしたリュシアンは戦えるけれど、気ままで当てにならないのよ。


 消去法で、外部から連れてくるしかないと腹を括ったところにハルツェン侯爵家の跡取りが名乗りをあげた。一人娘であるユリアは婿をもらい、実家の仕事はすべて夫に任せたらしい。


 黒に近い焦茶の髪に青い瞳の、とても凛々しい女性だった。彼女なら察しがいいし、外交官をしていたから人脈も太い。考えた時間は短かった。


「いいわ、どのくらい戦えるか。まずは試験をしましょう」


「はい、承知いたしました。ですがヒルト様……」


「育児休暇後にしなさいって、お母様みたいに言うつもり? 分かってるわ」


 我が子と愛情を育む慣習だもの、簡単に変えたりしない。ベッドですやすや眠る息子の金髪を撫でながら、私は大事なことを思い出した。


「大変! まだ名前を付けてなかったわ」


 絶句したテオドールとカールお兄様を放置し、私は真剣に頭を悩ませる。ヴィンフリーゼは初代女王陛下のお名前と、百合からイメージしたリリエンタール。近い響きがいいわね。


 お兄様によく似た青い瞳の息子に似合う響きを考えながら、私は夕方まで真剣に頭を捻った。

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